ゲイリー・クラーク・ジュニア @ 代官山UNIT

ゲイリー・クラーク・ジュニア @ 代官山UNIT - pic by Julen Esteban-Pretelpic by Julen Esteban-Pretel
一体、どれほどの実力の持ち主なのか。それをじっくりと思う存分見極めたい。そんな空気が早くも場内には満ちている。今年2月の『ブラック・アンド・ブルー』日本盤リリースを経て、ようやく実現したゲイリー・クラーク・ジュニアの初来日公演。エリック・クラプトンやジミー・ペイジ、ジェフ・ベックという三大ギタリストからの寵愛をはじめ、昨年末にはザ・ローリング・ストーンズの50周年ライヴにまでゲスト参加を果たしてしまった29歳の黒人ギタリスト。ここ数年で新世代のロック/ブルース・ギタリストとして圧倒的な存在感を獲得した彼の真価を見たい、そんなお客さんによって、この一夜限りの初来日公演はソールド・アウト。これまで数多のロック・ギタリストを見てきたであろう年齢層の高い観客から、ギタリストとおぼしき幅広い客層で会場となった代官山UNITのフロアは埋まっている。

開演予定時刻となった19:30、O.V.ライトの“Ace Of Spades”がかかるなか、ふらりとゲイリー・クラーク・ジュニアその人が姿を現す。この日はUstreamの生中継も行われていたので、その関係もあったのか、時間通りの開演である。しかし、出てきた瞬間からステージ上でのたたずまいがいい。一目で見てそれと分かる長身が映えるのもさることながら、その登場の仕方といい、演出めいたものがほとんどない。ギターだけですべてを証明する、そんな姿勢が透けて見える。ギターを手に取り、感触を確かめるように、軽くコードを奏でながら、東洋的なフレーズを織り込む。このイントロダクションの時点で、彼のプレイヤーとしての力量と個性が見えてくる。そして、そこから一気にロックンロールのリフへと雪崩れ込んで始まった1曲目は“When My Train Pulls In”。この展開だけでゾクゾクしてしまう。1曲目からギター・ソロも全開である。この距離感で見ると、彼の指の長さ、それゆえ大きい独自の指の動きもしっかりと見て取ることができる。

早速、ジャケットを脱いで、カポをはめて、トリッキーなギター・リフと共に始まった2曲目は“Don't Owe You A Thang”。この頃になると、演奏している最中もゲイリーの顔には笑顔が。白のストラトに持ち替えて始まったムーディーなナンバー“Please Come Home”ではゲイリーのファルセットが冴え渡る。ギタリストとしての実力はもちろんだが、ソングライター、そしてシンガーとしての実力を兼ね備えている彼の魅力を伝えるナンバーだ。こうした硬軟で言えば「軟」のナンバーがうまいのも、彼を突出した存在にしている要因のひとつだと思う。緩急をつけて、間を巧みに使ったこの曲のギター・ソロも素晴らしかった。超オーセンティックなロックンロール・ナンバー“Travis County”では、ギター・ソロも余裕といった感じで軽快に突っ走っていく。

中盤は、ゲイリー・クラーク・ジュニアのライヴにおいて大きな見せ場の一つとなっているカヴァー曲が次々に演奏されていく。B.B.キングのカヴァーである“3 O'Clock Blues”、ジミヘン~アルバート・コリンズのカヴァーがメドレーで演奏される“Third Stone From The Sun/If You Love Me Like You Say/Third Stone From The Sun”、再びアルバート・コリンズのカヴァーで“If Trouble Was Money”、そしてゲイリー・ムーアのヴァージョンで知られる“Oh Pretty Woman”。途中、静かな場内を見渡してニコリと微笑む場面もあったが、むしろ観客は怒涛のブルースとギター・ソロの連続に圧倒されていたような雰囲気があった。なかでも“Third Stone From The Sun/If You Love Me Like You Say/Third Stone From The Sun”はすごかった。音源でも素晴らしいが、ライヴはさらにすごい。おそらく10分を超える演奏だったと思うが、途中でブレイクを挟み、一旦ゲイリーがステージ袖に消え、缶ビールを手に戻ってくるなんて一幕もあったが、ミュートした弦をスクラッチするソロをはじめ、多彩なプレイを見せながら、最後は渾身のソロで締めくくっていた。

そして、終盤戦にやっと彼のアルバムからの珠玉の楽曲が披露されていく。彼のソングライターとしての才能が遺憾なく発揮されているR&Bナンバー“Things Are Changin”、シンプルなドラムとゲイリーによる弾き語りを軸に演奏された“Blak and Blu”、そして本編最後を締めくくったのは、彼の名刺代わりの1曲と言える“Bright Lights”。客席からはこの曲に大きな歓声が上がる。“Blak and Blu”から、そのまま演奏に雪崩れ込んでいくが、あのロックンロールの塊とでも言うようなリフが叩きつけられた瞬間の爆発力がすごい。あと、この日のライヴを通して思ったのは、ゲイリーのギター・サウンドが非常に足腰が強いというか、どっしりとしたものであること。ゲイリーを含めて、他に3名(ギター、ベース、ドラム)というシンプルなバンド編成だが、とにかく鳴りの音にブレがなく、強い。本編ここまでで、気づけば1時間半を超えている。

そして、そのライヴを生で観た興奮から客席では「ゲイリー」コールも巻き起こるなか、アンコールのためにステージに戻ってきたゲイリー。その笑顔を見ると、本人も今日
のライヴに手応えを感じているのが伝わってくる。アンコールの1曲目は、どうやら最近のライヴでは定番になっている“In the Evening (When the Sun Goes Down)”のカヴァー。しっとりとゲイリー1人の弾き語りで披露される。そして、バンドの3人が加わって、最後に演奏されたのは“You Saved Me”と“Ain't Messin 'Round”。アルバム『ブラック・アンド・ブルー』の冒頭を飾る“Ain't Messin 'Round”では、ストーンズの“Satisfaction”もメドレーで披露し、この日のライヴはクライマックスを迎えた。

別に音楽的に斬新なアプローチがあるわけではない。むしろ、そのスタイルは伝統的と言えるだろう。しかも、ギタリストということで言えば、過去の巨人はたくさんいる。そのなかで、ゲイリー・クラーク・ジュニアは、いわゆる曲芸的なギタリストとしてではなく、曲を書き、歌い、なにより全編を通して彼の独自性が成立させるトータルなギタリストとして存在感を発揮していた。約2時間10分に及んだライヴは冗長な部分もないわけではなかったが、それでも新たなギター・ヒーローが現れたという点で器の違いを証明するには十分なものだったと言っていい。もう既にフジロックでのカムバックが発表されているが、ビール片手に見るこの人のステージ、きっとたまらない体験になると思う。(古川琢也)
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