クリストファー・オウエンス @ 代官山UNIT

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クリストファー・オウエンス @ 代官山UNIT
ガールズからの脱退後、ソロ名義でのデビュー・アルバム『リサンドレ』を発表したクリストファー・オウエンスが来日を果たした。ガールズ時代には何度か日本に来ている彼だが、ソロでは初の来日ライヴということになる。ガールズの末期、ツアーに疲弊したクリスはしきりに「早くスタジオに戻りたい」とインタヴューで言っていたのを思い出す。「ライヴをするより曲を作りたい」とも言っていた。だからこそ彼はガールズを辞めて思う存分作曲に没頭できるソロ・ソングライターの道を選んだわけだが、では、そんな彼は今どんなモチベーションで再びステージに立とうとしているのか――昨夜のライヴは、その答えがはっきりと刻まれた素晴らしいステージになった。

クリストファー・オウエンス @ 代官山UNIT
クリスの現在のバンドは女性コーラス2人を含む8人編成。そう、実はガールズよりもずっと大きなバンドを連れて彼はツアーを回り、大所帯のバック・バンドをしっかりまとめるバンマスもきっちり務めているというのが面白い。この日のクリスはクリーム色のジャケットにピンクのシャツでばっちりお洒落に決まっている。そして1曲目、椅子に腰かけアコギを手にすると“Lysandre's Theme”が始まる。セットリストを見ていただければわかるように、今回のツアーは『リサンドレ』を1曲目から順に最後まで演奏していくという完全なアルバム再現ライヴになっている。なぜなら『リサンドレ』は1曲を各章に見立てた長編小説のごとき究極のコンセプト・アルバムであって、ストーリーテリングの意味でも順番にやらないと全く意味がない作品なのだ。

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ちなみに『リサンドレ』で綴られているのはガールズ時代のツアーの思い出だ。“Here We Go”で文字通り「さあ行こう!」と希望に胸を躍らせてワールド・ツアーに飛び出していったクリスが各地で新しい体験をし、戸惑い、恋に落ち、失望し、奮起し、混乱し、そして恋が終わる――そんな苦い喪失の物語でもある。それを再びツアーに出た彼が追体験し、見つめ直していくという行為自体が重層的なアートになっているのだ。サックスがド派手に鳴り響く“New York City”は人生で初めてニューヨークを訪れ、名声を手にした彼のワクワクした気持ちをまんま凝縮した前半のクライマックスで、ガールズにはなかったタイプのナンバだー。続く“A Broken Heart”は痛い失恋を反芻するフォーキーなナンバーで、フルートが利いている。そう、今回のバック・バンドのキーパーソンと言えるのがこのフルート奏者で、彼がフルート、サックス、そしてハーモニカを曲によって吹き分けることで、曲の情景ががらりと移り変わっていく。

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個人主義に走ってガールズを辞めたようにも見えたクリスだけど、今の彼はこのバンドを十分楽しんでいるように見える。“Riviera Rock”はダビーなインスト・ナンバーで、クリスはギタリストと向き合ってセッションを楽しんでいる。『リサンドレ』は冒頭の“Lysandre’s Theme”の旋律が全編に亙って何度か繰り返される構成になっていて、文字通りひとつの「テーマ」がアルバム全体を通底している。曲によってそのテーマはファンクに混ぜ込まれたり、フォーキーに爪弾かれたり、カントリー調にアレンジされたりと、幾重にも表情を変えながら最後の“Closing Theme”へと集約されていくのだ。クリスの書く曲は常に私小説だが、ガールズ時代の極端にパーソナルな在り方に比べると、この『リサンドレ』には語り部としてのクリスの客観的な視点が加わり、物語を「作る」能動的な意思が感じられるのが素晴らしい。だからこそ彼は今、ライヴをやること自体にクリエイティヴィティを感じられるのだろうし、楽しめるのだろう。

ストイックに『リサンドレ』を再現し終えた後のアンコールは、一転してファン・サービスたっぷりなカヴァー曲のセクションだ。1曲目は絶妙なベタとスノッブの隙間を突くキャット・スティーヴンスの“Wild World”という憎い選曲。そしてさらに素晴らしかったのがサイモン&ガーファンクルの“Boxer”で、この曲はこの日のクライマックスのひとつだったと思う。アコギの爪弾きといいシネマティックなリヴァーヴと音響といい今のクリスのバンドにぴったりの曲だし、何よりも『リサンドレ』でクリスが編み出したストーリーテリングは、ポール・サイモンのそれに限りなく近いことを改めて気づかせてくれたナンバーだった。

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そしてラストはこれまた最高なボブ・ディラン“Don’t Think Twice It’s Alright”のカヴァー。はあああ美しい! ここまでくるともう溜め息しか出ない。全ての曲を演奏し終えた彼は「サンキュー」と言うと、小さく微笑みながら真っ白な百合の花束を抱えて一輪ずつ観客に手渡して回る。そんなラスト・シーンまで一瞬たりとも詩情が途切れることがない、足し引き無用の恐ろしく完成度の高い一夜だった。(粉川しの)

Lysandre's Theme
Here We Go
New York City
A Broken Heart
Here We Go Again
Riviera Rock
Love Is In The Ear Of The Listner
Lysandre
Everywhere You Knew
Closing Theme
Part Of Me
(encore)
Wild World
Lalena
Boxer
Let It Be Me
Don't Think Twice It’s Alright
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