360度を観客が取り囲むセンターステージにて、アコギと歌(+一部アクトによってはハープ)のみを使用してアコースティック・ライヴを繰り広げるという特殊な設定をもって行われたJ-WAVE 25th ANNIVERSARY TOKYO Guitar Jamboree。行ってみるまでは、アコースティックの縛りはともかく、どうしてセンターステージである必要があるのか若干不思議に思っていたのだが、ライヴが始まるとすぐに合点がいった。必要最低限の機材しか置かれていないさっぱりしたステージで、アコギ1本だけを持った音楽家が、ミニマムな音楽の力だけで四方を取り囲む約1万人ものオーディエンスを掌握する姿が滅法格好良いのだ。また、1アクト15~35分ほどでサクサク進むため、全体としては6時間超の長丁場ながら疲れを感じさせないタイムテーブルも良かったと思う。美味しいところを少しずつつまめる幕の内弁当のような印象が残った。それでは、そのひとつひとつを箇条書きで記していきたいと思う。
・大石昌良
クリスペプラーがMCとしてイベント概要を紹介(最後までセット転換ごとにクリスのトークが入り、後半にはゲストとして植村花菜も参加)した後、センターステージ=土俵に現れたトップバッターは大石昌良。演奏を始めるとまず、会場の音が良くて驚いた。楽器の少なさも関係しているのかもしれないが、そこらのライヴハウスよりよほど良い音響だ。そんな環境もあってか、大石はヴィブラートとファルセットを存分に駆使したセクシーなヴォーカリゼーションで、少しも気負いを見せずに3曲を歌い上げた。また、歌も上手いのだが、それ以上にパーカッシブなギター・プレイが秀逸で、恐らく初見の方が多かったであろう会場を自身の辣腕で沸かせる姿は頼もしい限りだった。「意地でも音楽を続けてきて良かった」と出演の喜びを語る素直な姿勢と共に、しっかりオーディエンスの胸にその存在を刻んだのでは。
・石崎ひゅーい
SEのデヴィッド・ボウィ“ロックンロール・スーサイド”に乗って土俵に駆け上がり、無言で四股を踏み出した石崎ひゅーい。いきなりストレンジな存在感がムンムンだ。しかし、その歌唱はとても真摯で誠実なものだった。演奏した3曲全てで声を嗄らし、時にがなり上げ、青い剥き出しのエモーションを曝け出す。≪夜空を飛んで会いに行く≫と繰り返す新曲“夜間飛行”や≪あげるよ あげるよ 君に全部あげるよ≫と目の前の聴き手に全てを捧げる“花瓶の花”を歌う姿はまさに、≪あなたは1人じゃない 手を差し出してくれ≫と呼びかける“ロックンロール・スーサイド”の世界を連想せずにいられないものだった。つまりそれは、ロックンロール・スターの素質である。ここからどこまで飛躍するか、期待してしまう。
・Rake
土俵中を動き回りオーディエンスのレスポンスを求める強いコミュニケーション願望と、実際に相手まで声を届けるため楽曲およびプレイに散りばめた数々のフックで、ポップシンガーとしての地力の高さを見せたRake。また、アタックの強いギター・タッチも、真っ直ぐに伸びわたる歌も、彼の強いバイタリティを映し出すようだった。そして呼び掛け続ける彼の熱意はオーディエンスにも刺さり、最後に演奏した代表曲“100万回のI love you”では、桝席からじわじわ広がり会場中でハンドクラップとシンガロングが巻き起こった。
・和田唱(TRICERATOPS)
本日の出演者の中では和田唱と岸田繁だけが現役バンドから飛び出してきたギター/ヴォーカルであるため、1人になったときにどんなセットを用意してくるか楽しみにしていたのだが、結果的に和田はトライセラの名曲群にカヴァー曲をひとつ加えたまさに「観たい通り」のライヴをやってくれた。なお、そのカヴァー曲フランク・シナトラの“COME FLY WITH ME”は、恐らくオーディエンスの大半が知らない曲だったのではないかと思うが、まるで自分の持ち曲のような自然さで全く会場の音楽を下げずに演奏していたのが素晴らしかった。トライセラで様々な曲をカヴァーしてきた経験が血肉になっているのだろう。また、トライセラでもそうだが、1人になると特に、どんな場所でも「ホーム」にしてしまう彼の才能がくっきり露わになっていたように思う。あれだけの技術を持ちながら1曲目に緊張のために声が震えるなんて、いくらなんでもキュートすぎるだろう。本人は「1万対1のこういう環境は異常だと思います」なんて冗談混じりに言っていたが、いやいや、ここには味方しかいなかったはずだ。
・岸田繁(くるり)
今日の岸田繁は、くるりのシングル曲を避けた激渋なセットながら、平熱のままでたおやかに心情や光景を描いていった最後にオアシスのカヴァー“シャンペン・スーパーノヴァ”で一気に感傷を解き放つという非常に物語性に富んだライヴを見せてくれた。まず何より、1曲目“おはら節”から、アコギの音が凄まじすぎて腰を抜かしそうになった。全音域がくっきりと輪郭を持ちながら絡み合い、ともすれば弦楽合奏を聴いているような錯覚さえ起こしてしまいようなギターの鳴り。ギター巧者が集った今日のイベントにおいても、少なくともギターの鳴り方においては圧倒的だったのではないだろうか。こんな音だったからこそ、色気を剥いだセットにも不満が残らないということもあったかもしれない。そして“シャンペン・スーパーノヴァ”。岸田繁がオアシスの名曲を本気で歌ったらそりゃあ良いに決まっているが、今日の熱演にはそれ以上の意味や価値があったと思う。『モーニング・グローリー』という「全てが満たされた」アルバムのフィナーレをビタースウィートなフィーリングと共に飾るこの曲を歌う姿は、彼がこれまで幾度もそうしてきたように、今いる高みからまた次の場所へと移る、その宣言をしているように見えたのだ。そしてその姿の美しさは、曲の素晴らしさ以上に胸を打つものだったのである。
・トータス松本
金髪のトータス松本が1曲目に選んだのは“バンザイ~好きでよかった~”。無論、歌い出しで悲鳴のような歓声が爆発する。サビ毎に客席は万歳。最高の掴みである。曲を終えると客席のここそこから「こっち向いて」という声があがり、それに応えトータスが振りかえるとそれだけで大歓声が。その場は照れ笑いを浮かべていたが、後で演奏中にアコギを弾きながら四方を回転し全方向を向くようにしていた。このサービス精神が愛される男たる所以だろうか。演奏面では、やはりというか、毎度のことながら地声の大きさが凄い。アコギ弾き語りだと益々デカく感じる。しかも、アコギの音もデカい。まさに1万人を飲み込むエネルギーとはこういうものなのだろう。5曲目“笑ってみ”ではアコギを置きスタンドマイクのアカペラで歌う一幕もあったが、そのときさらにもう一段階声量が上がり、それに呼応し(アカペラなのに!)歓声のヴォルテージが高まっていたのが圧巻だった。
・森山直太朗
30分の休憩を挟んだ後半戦の頭を飾るのは森山直太朗。原監督よろしくグータッチで土俵を囲む砂かぶり席を一周し、さらに四方に四股を踏んで(股間をカクカク振るアクション付き)の土俵入りだ。その悪ふざけで緩んだムードも、一曲目の“レスター”が始まると一変する。その歌唱は、目の前の1人1人にそっと語りかけるようにも、異世界の住人へ通信を試みているようにも見える。それは、彼が歌っているのが、己という物語を「誰かに伝える」のではなく「全てに伝える」ためのフォークソングであるからだろう。また、聴き手の感傷をザクザクと切り裂いていくような、中低域が強調された音色のギターカッティングも、彼の歌世界以外を聴き手の頭から追い出すのに効果的に働いている。天然のようでいてその実、森山の歌は緻密な構造で成立している。本当に、観る度に唸らされる歌い手である。そして曲を終えると、こもった力士声で「どうもっ、ありがとうございます!」と一言。本当に、観る度にこのギャップにはビビる。そして最後は、もはやこの国にとってのクラシックのひとつ、“さくら”で締め。30分強の時間で自身の魅力を的確にプレゼンする素晴らしいステージだった。
・F-BLOOD
藤井フミヤと藤井尚之による兄弟ユニットであるF-BLOOD、活動がかなり不定期(フミヤは「大体オリンピックと同じくらいのペース」と言っていた)な彼らのライヴがこうした彼らのファン以外の目にも触れる場で披露されるのは、若いロック・リスナーにとってとても幸福なことだと思う。今年でなんとデビュー30年周年というF-BLOODひいては藤井フミヤの才能は、言うまでもなく若いリスナーに再発見され続けるべき色褪せないポピュラリティを有するものだからである。1曲目はいきなり“白い雲のように”。で、もちろんイントロが始まった瞬間に会場はぶわっと沸いたのだが、尚之のマイク音量が大きすぎたためにハウってしまい、やりなおし。体勢を整え直し、もう一度始めようとしたら今度はフミヤがハープを首にかけるのを忘れていたため再度やりなおし。こう字に起こすとグダグダなようだが、フミヤと尚之のアットホームなやり取りが可笑しく、本人たちとオーディエンス両方の緊張をほぐすのに一役買うハプニングになっていたと思う。そして今度こそ始まった“白い雲のように”は、2度身構え予期していたものよりはるかに凄まじいものだった。今日初めて聴く「ハーモニー」であるということを差し引いても、あまりに美しい、息を飲まずにいられない声の重なり。技術的な面はもちろんだが、声質も抑揚も全てが互いを補完し合う、完璧な合唱である。セット後半には“TRUE LOVE”で山場を作ってから軽快なロックンロール“I LOVE IT! ドーナッツ!”で会場丸ごとグルーヴさせるという絶妙なライヴ運びもあり、流石の試合巧者ぶりを示した。
・斉藤和義
「こんにちはー。よろしくお願いしますー」と脱力しきった挨拶から、いきなり“I Love Me”の激しいイントロに入り、斉藤和義のライヴは始まった。高音が効いた金属的な音色が、細かく火花の散るようなカッティングを引き立て、攻撃的な格好良さを演出する。その後の曲でも、普通であればいわゆる伴奏としてのコード弾きになりそうな部分でさらりと高速カッティングをやっているところが多くあり、彼のアレンジの特異性がバンド・スタイルのとき以上に際立っていたように思う。ライヴ中盤、幼児の声で「せっちゃ~ん!」という歓声が何度か聞こえてきた。そして始められたのは、“やさしくなりたい”。あの印象的なイントロが鳴って1秒経つか経たないかで会場が沸騰する。こうしたとき、そういう、老若男女から支援される国民的なポジションに今の斉藤和義は立っているのだという事実を改めて実感させられ、なんだかしみじみした気分になる。そんな勝手なこちらの感慨を「俺は何も変わらない」と一蹴するように、いつどこでどんな状況で聴いても舌を巻く名曲“歌うたいのバラッド”が歌われ、今日の彼のライヴの幕は閉じられた。
・奥田民生
ひとり股旅などの活動も印象深いため、この「1万対1」の状況にもさほど違和感がないOT。デフォルトで1万人を迎え撃つ巨大な存在感を放っている、というか。1曲目の“トリッパー”から、尻上がりに盛り上がっていく曲調でぐいぐいオーディエンスを自身の世界に巻き込んでいく。始めは少し、珍しく喉の調子がやや辛そうなのが気になったが、掠れた声でも無理に張り上げたりせずそのまま坦々と歌い続けられると、それもまた「味」のうちのような気がしてくるから不思議だ。もちろんギターも素晴らしい。重く深みのある音で、エフェクトではなく自然と、ギター自身の性能によりベストな残響が木霊するのが非常に気持ち良い。白眉は火を噴く様な迫力だった4曲目“息子”のギターソロか。派手なことは何もせずとも、良い楽器を良い腕でシンプルに引けばそれだけで最高のロックンロールに到達することを証明するかのような熱演だ。次の“最強のこれから”もまたとんでもない。今年は多くの夏フェスに出るようだが、それぞれバンド編成なのかソロなのか、どちらになっても楽しみである。
・アンコールセッション
アンコールには、本日の出演者全員にMCのクリスペプラーと植村花菜(2人は歌だけ)が加わり、アコギ11本とシンガー13人でのセッションが行われた。曲は“SMOKE ON THE WATER”。このイベント名や、大相撲ネタ、参加者へのいじりなどを散りばめた替え歌で歌われるこの古典に客席は総立ちで手拍子に大合唱の盛り上がりを見せ、J-WAVE 25th ANNIVERSARY TOKYO Guitar Jamboreeは大団円を迎えた。(長瀬昇)
セットリスト
・大石昌良
おはよう
トライアングル
東京ループ
・石崎ひゅーい
シーベルト
夜間飛行
花瓶の花
・Rake
First Sight
ONE WAY
真冬に咲いたオリオン
100万回のI love you
・和田唱
If
シラフの月
COME FLY WITH ME
ふたつの窓
GROOVE WALK
・岸田繁
おはら節
キャメル
デルタ
温泉
新曲
シャンペン・スーパーノヴァ
・トータス松本
バンザイ~好きでよかった~
ブランコ
借金大王
ワンダフル・ワールド
笑ってみ
明星
・森山直太朗
レスター
いつかさらばさ
生きとし生ける物へ
日々
さくら(独唱)
・F-BLOOD
白い雲のように
Long Road
TRUE LOVE
I LOVE IT! ドーナッツ!
指輪
・斉藤和義
I Love Me
ワンモアタイム
やさしくなりたい
月光
歌うたいのバラッド
・奥田民生
トリッパー
スカイウォーカー
音のない音
息子
最強のこれから
さすらい
・アンコールセッション
SMOKE ON THE WATER~TOKYO Guitar Jamboreeのテーマ~
J-WAVE 25th ANNIVERSARY TOKYO Guitar Jamboree@両国国技館
2013.04.20