怒濤の3時間超、余りにも胸熱なロック男祭りであった。アルバム『SAD MARATHON WITH VOMITING BLOOD』を携えたツアー・全国9公演のファイナルは、オープンからめでたく25周年を迎えた渋谷クラブクアトロ。ゲスト・アクトとしてASPARAGUSとSPREADが駆けつけ、更に次から次へとロック/パンクの同志たちがサプライズ的に飛び出してくるという、目まぐるしさの中にも強靭な共闘スピリットを宿した一夜となった。
1組目にステージに立ったのはASPARAGUS。しのっぴこと渡邊忍(Vo./G.)は「あっ、あっ、はああっ! ご、ごめんなさいっ!」とテンパったふりをしながらツアー・ファイナルとクラブクアトロ25周年に向けた祝福の言葉を投げ掛け、「勝手に体が動いちゃうような、恐山ソング(笑)。怖くはないよ、ポップなやつね」とリフがうねりまくるパワフルな新曲も披露。パンキッシュな勢いを損なわず、キラキラとしたポップ・ミュージックの魔法にタッチしてしまう変幻自在の3ピース・サウンドは今日も健在だ。「ヒダカさんとは前のバンドの頃から知り合いで、お互いにバンドが解散したりとか、この後に出てくるSPREADも長いこと活動休止したりしていたんだけど、こうして今も一緒に出来るというのは嬉しいです。なんていうんだろう、この気持ち。俺が本当にかっこいいMCができる男だったら……I'm proud(笑)。華原朋美が頭をよぎった」と、気恥ずかしさを笑いではぐらかすようにしながらもバンドマンとしての道程を振り返る。そして“SILLY THING”から“Fallin'down”、果てはザ・クラッシュ版“I Fought The Law”の名リフで締め括るというパンクな志で、熱狂のステージを駆け抜けてみせるのだった。
続いては、ツアー中、福岡と岡山の公演においてもゲストを務めた大阪発メロディック・パンクの雄、SPREADが登場だ。TAKUYA(Vo./G.)の「いくぞー!!」という威勢の良い第一声のあとは、ほとんどMCもなく4ピースの重量級爆撃パンクの連打である。キャッチーなメロディのフックが次から次へと立ち上がるのだが、ウェット感は皆無。メロディが「流れる」というよりも「燃やし尽くす」といった手応えの、ザッツ・メロコアなパフォーマンスが最高だ。MON-TACK(Vo.B.)とリード・ヴォーカルをスイッチしながらひた走る。「3か所を一緒に旅してきて、THE STARBEMSが好きになりました。キチガイのギタリストを呼んでもいいですか?」と終盤になって突然ステージに招かれるのは、西くんこと越川和磨だ。「一言だけいいですか? 十代の俺にとって、SPREADは……希望でした」と西くん。それに対してTAKUYAが「今はTHE STARBEMSが俺らの希望や」と返す、感涙の一幕である。そして西くんが全力のギター&コーラスで参加するというスペシャルな2曲も盛り込まれ、スピード感と激情のパフォーマンスがフロアを沸騰させ続けるのだった。
さあ、いよいよこの夜の主役、THE STARBEMSである。メンバー6人が戦闘服のようなフレッド・ペリーの黒ポロに身を包み、日高央(Vo.) a.k.a. ダカさんは「東北ライブハウス大作戦」のタオルを頭上に掲げる。そして“THE CRACKIN’”からのパフォーマンスがスタートするのだが、いやもう、のっけから溢れ出る彼らのバンド感はとんでもないレヴェルに到達していて、びっくりしてしまった。個人的には彼らのライヴを観るのは約3ヶ月ぶりというところだったのだが、ほとんど別物のバンドのように感じられた。それぞれに濃い個性を持ったメンバー6人がラウド・ミュージックの元に集まり、ダカさんの博識なポップ・センスが1本の筋を通す。僕はTHE STARBEMSというバンドをそんなふうに捉えていたのだが、彼らはもはやそんな「設計図の段階」から遥か彼方の地平にいる。菊池篤(G.)も西くんも自由にステージ上を動き回り、しかも音の密度は高いままブレない。これこそがTHE STARBEMSというサウンドで放たれる“MAXIMUM ROCK’N'ROLL”は、フロアから巻き起こるシンガロングも含めて楽曲が完成しているような、ライヴ・バンドの、ロック・バンドでしかありえない興奮をもたらすものであった。
ダカさんはとりわけ本編中、バンドのスポークスマンというよりヴォーカリスト専任といった立ち居振る舞いで、MCが他のメンバーに委ねられる場面もバンド感の高さを伝えている。高地広明(Dr.)は今回のステージ上から、「6月5日にアルバムをリリースしまして……ありがとうございます!」と執拗に繰り返していて可笑しかった。そしてアルバムにも参加したKYONO (WAGDUG FUTURISTIC UNITY / T.C.L / !!!KYONO+DJ BAKU!!!)が招かれ、更に男度が跳ね上がる2連砲ヴォーカルの“WISE BLOOD”、続いてYOSHIYAxxx (RADIOTS / THE SHAVERZ / ex. SOBUT)も飛び出しパンクど真ん中のカヴァー・レパートリー“NEW ROSE”と、賑々しい展開を見せてくれる。「なんでギター置いてんだよ!」と突っ込まれながらも菊池が巨躯を跳ね上がらせてハンド・マイクを握る“FUCKIN’ IN THE AIR”、西くんのブルージー&グラマラスなギターが炸裂する“DREADRONE”の後は、突き抜けるような爽快感を纏って瞬く間に本編クライマックスへと辿り着いてしまった。
アンコールでのダカさんは、「震災の前の年にBEAT CRUSADERSが解散して、西くんも震災の後に毛皮のマリーズが解散して、この2~3年、音楽で何が出来るかと悶々としていました」「西くんのお母さんに会って、息子さんをまた武道館に連れて行きます、って言ったんだよね」と語る。そして、Endy (Goofy’s Holiday)をステージに招き入れて“INSIDE OUT”で共演する間際、笑い混じりに音楽ビジネスにまつわる世知辛いトークを繰り広げた後にも、「アルバムを買わせるライヴをやりゃあいいんだよ」と締め括って喝采を浴びていた。45歳が無理をしてロックしているのではない。45歳の、酸いも甘いも噛み分けたアーティストが、アドレナリンをどばどばと垂れ流しながら取り組むことの出来るバンドがTHE STARBEMSだったのだと、今回のライヴで思い知らされた。「吉村(秀樹:bloodthirsty butchers・5月末に永眠)さんのために一緒に歌ってくれ!」と一度目のアンコールを締め括る“GOOD-BYE LOVE”もあり、バンドマンとして生きることのタフな心意気を目の当たりにする一夜であった。
この日は、9/9にShibuya O-WESTでHusking Bee / locofrankと共演するイヴェント出演も発表された(ニュース記事はこちら→http://ro69.jp/news/detail/85679)。また、THE STARBEMSは8/4、ROCK IN JAPAN FES. 2013の最終日SOUND OF FORESTにも登場する予定なので、強烈な男気がヘヴィな音の塊となって届けられる瞬間を、ぜひ楽しみにしていて欲しい。(小池宏和)
THE STARBEMS set list
01. THE CRACKIN'
02. ARE U SURE?
03. HUMAN RIGHTS
04. MAXIMUM ROCK'N'ROLL
05. HIGHRISK
06. NO REACTION
07. WISE BLOOD
08. NEW ROSE
09. FUCKIN' IN THE AIR
10. DREADRONE
11. FORGIVENESS
12. DESTINY
EN1-1. INSIDE OUT
EN1-2. GOOD-BYE LOVE
EN2-1. TALKIN' 'BOUT LIFETIME