ミューズ @ Zepp DiverCity

記録的な猛暑のなか開催されたサマーソニックにおいて、見事ヘッドライナーとして圧巻のステージをやってのけたミューズ。何度もミューズの来日公演を観てきたけれど、今回のパフォーマンスはベストの一つと言えるものだった。正直、アルバムの完成度という点ではいまだに3作目の『アブソルーション』が頭一つ抜けていると思うのだけど、その後、スタジアム・バンドとしてどんどん巨大化していったミューズの真価、その全貌を文字通りスタジアムという空間でようやく見られたのがサマーソニックという舞台だったのだ。

そして、あれから2日後、突如公演日の1週間前に開催が発表され、キャパシティ2500人という会場で行われたのが、このZepp DiverCity公演である。プレミアムな機会であることは言うまでもないけれど、この日の公演はそれだけではなかった。最初に言ってしまうと、この日のライヴは僅か1時間ほどで終わってしまった。本来ワンマンライヴであれば2時間を超えるスケールでやってきた彼らのショウを考えれば、非常に短いものだ。そして、現在のライヴでハイライトとなっている“Knights of Cydonia”も、“Stockholm Syndrome”も演奏されなかった。現在公開中の映画『ワールド・ウォーZ』でフィーチャーされている“Follow Me”もやらなかった。けれど、このライヴが終わった直後、ツイッターを通して世界中に拡散されたセットリストは、歯ぎしりするような日本のファンへの羨望を巻き起こし、ドムも自ら「Well that was the funniest gig I've ever played!」とツイートし、この公演を世界中のメディアが報じる事態にまで発展することとなった。

当然のことながら、びっしりと埋まったZepp DiverCityのフロア。集まった人も今日の舞台がどれだけ貴重な機会かは重々分かっていて、「すんげえ楽しみ!」という声が飛ぶと、拍手喝采が巻き起こる。そして、19時12分、客席を照らしていた照明が落ちる。会場全体から湧き上がるすさまじい歓声。暗がりのなか、フレットに電飾をあしらったお馴染みのベースを下げてクリスが、同じくギターを下げてマシューが、ドムがステージに現れる。1曲目に投下されたのは、ファースト『ショウビズ』からのシングル“Uno”のBサイドとしてリリースされた“Agitated”。超ゴリゴリのパワー・ナンバーだが、それを今のミューズがやる。もうそれだけで圧巻というか、とてつもない。フロアはあっという間に巨大なタテノリに包まれる。バンドの表情を見ていても、この1曲目の時点から、演奏を楽しんでいることが伝わってくる。そこから“Dead Star”“Micro Cuts”と、最近のスタジアム・ライヴ/フェスでは決してスタメンではないナンバーが続いていく。

しかし、この日のレア・セットリストの真骨頂はここからだった。マシューの「10年は演奏していない曲」という紹介から演奏されたのは、セカンド『オリジン・オブ・シンメトリー』の日本盤ボーナストラックだった“Futurism”。さらに、続いて演奏されたのは、『アブソルーション』の日本盤ボーナストラックだった“Fury”と、なんと日本盤ボーナストラック曲が2曲連続で演奏される。フロアは、そのあまりのレアさ加減にちょっと呆気にとられているようにも見える。しかし、ショウとしてのテンションが落ちることはまったくない。というか、ボーナストラックでこんなにも濃密なライヴをできてしまうミューズというバンドは一体何なのだろうとあらためて思わずにはいられない。そして、こうした懐かしいナンバーを演奏されて思い返してしまうのは、ミューズというバンドが最初期から如何に独自の世界観を持ち、その肉体性によってスタジアム・バンドまでのし上がっていたかという偉大な事実だ。このバンドにドーピングはない。彼らは自己目的化したスタジアム・バンドではない。その当然の事実をこうしてライヴハウスで観ているとあらためて実感する。

実際バンドも、まるでアスリートのように、普段使わない筋肉を使うのが楽しくてたまらないとでもいう感じで、クリスがヴォーカルを務める“Liquid State”や、“Hyper Music”の頃になると、それを全身で表現してみせる。“Liquid State”ではマシューがステージ縁に座って観客の目と鼻の先でギターを弾いてみせ、“Hyper Music”では右へ左へとステージいっぱいを駆けまわってみせる。その様子は、まるで演奏する喜びに身体が自然と反応してしまうかのようだ。結局、その勢いのまま、“New Born”に続いての“Yes Please”ではマシューが自分の後ろにあるディッキンソンのアンプを豪快に蹴り飛ばして、本編終了。ここまで35分くらいだったろうか。しかし、あまりにも濃い9曲の本編だった。

正直、ここまでのセットリストでもプレミアム・ライヴとして充分に成立していたと思うのだけど、この日はこれで終わらなかった。ファースト・アンコールは、“Uprising”“Time Is Running Out”“Plug In Baby”という代表曲を3連打。2500人の会場に集まったファンである。当然のことながら、会場中からシンガロングが巻き起こる。3曲を終えて、もう一度ステージ袖へと引っ込んだメンバーたち、一体、何が起きるか待っていると、トム・ウェイツによる“What's He Building?”が流れ、ステージ上にはタコの着ぐるみが一体ストロボライトの中に浮かび上がる。これはどんな趣向なのだろうかと思っていたら、次の瞬間、自分が目にしたものを疑ってしまった。

極彩色のレギンスを履いて、赤いファーのコートに身を包んだマシュー。レイザーラモンHGのようなボンテージ・ファッションの上に同じくファーのコートを着ているクリス。キラキラ光る鋲が散りばめられたジャケットとキャップを着たドム。“Panic Station”のミュージック・ビデオを彷彿とさせる衣装に身を包んだ3人。この時点で場内爆笑。さらにステージに目をやると、からかさ小僧やら、一反木綿やら、フェンシングの選手やら、様々なコスプレに身を包んだ妖怪(?)がステージ上に総勢15名ほどいる。そんななか“Panic Station”の演奏がスタートする。バンドはいたって普通に演奏し、ステージ上の妖怪たちは踊り狂っているが、一体これをどう受け止めたらいいものか、ある種客席は呆然ともしている。セカンド・アンコールの2曲目は“Supermassive Black Hole”。この曲では、最初に出てきたタコの着ぐるみにマシューが体当たりをかましたりしている。演奏はいたってブレることがないのだが、ステージ上は様子のおかしなことになっている。セカンド・アンコール3曲目の“君の瞳に恋してる”のカヴァーでは、さらにコスプレに身を包んだ女子が10名ほど現れ、妖怪たちとチークダンスを踊りだす。ここまで来ると、どうでもよくなってくるというか、客席も含めてお祭り騒ぎ。最後の最後は“Starlight”で、マシューの号令で妖怪が一匹ステージ・ダイヴをかまして、全編が終了した。ここまででほぼ1時間。2500人の会場で行われたプレミアム・ライヴ、その内容はあまりにも「プレミアム」なものだった。

ちなみに、このライヴの後にわかった情報によると、この日のライヴはライヴ映像作品『ハラバルー ~ライヴ・アット・ル・ゼニス~』などを手掛けたトム・カークによって撮影されていたとのことで(実際、ステージ上の妖怪にも何人かカメラを持っている人がいた)、映像化される可能性もあるという。そして、こうした情報が伝われば伝わるほど、あの会場にいた人は世界中のミューズ・ファンから羨望の眼差しで見られることになった。スタジアムを掌握する無敵の3ピース・ライヴ・バンドになったミューズが、いまだにこんなにもお茶目なライヴを日本でやってくれるということ、そこにこそ彼らが愛される理由がある気がしてならない。(古川琢也)

Agitated
Dead Star
Micro Cuts
Futurism
Fury
Liquid State
Hyper Music
New Born
Yes Please

(1st encore)
Uprising
Time Is Running Out
Plug In Baby

(What's He Building?)

(2nd encore)
Panic Station
Supermassive Black Hole
Can't Take My Eyes Off You (Frankie Valli cover)
Starlight
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