吉川晃司 @ 日本武道館

『KIKKAWA KOJI 2013 SAMURAI ROCK BEGINNING TOUR FINAL』

昨年末に新レーベルのSAMURAI ROCK設立を発表し、2013年に入って同タイトルの『SAMURAI ROCK』シングルとアルバムをリリース。5月から行われてきたツアーのファイナルは、日本武道館である。翌8/18日に誕生日を迎える吉川晃司(彼はステージ上で「今日、48歳」と告げていたが、これは誕生日の前日にひとつ歳を取る、という法律上の規定に沿った話だと思われます)の、変わらず超人的なヴァイタリティと新作に込められたメッセージが迸る、凄まじいライヴであった。

パネル状になったLEDのバックライトにそのシルエットを浮かび上がらせ、大歓声を巻き起こしながらギターを搔き鳴らす吉川。バンド・メンバーにはエマこと菊地英昭(G.)、伊藤可久(G.)、小池ヒロミチ(Ba.)、ホッピー神山(Key.)、青山英樹(Dr.)といった、百戦錬磨のベテランとエネルギーに満ち溢れた若手が混在する顔ぶれである。ステージ本編の前半は、アルバム『SAMURAI ROCK』の収録曲が曲順通りにすべて披露される展開であり、これだけでも『SAMURAI ROCK』にかける吉川の意気込みが伝わろうというものだ。パーティ・ハードな享楽性でカチ上げる“DA DA DA”。ギターを手放すとグラマラスなアクションに拍車が掛かり、痛烈な皮肉を込めて披露されるブギー“I'm Yes Man”。ヴォーカルの倍音がぐっと増幅し、オーディエンスの一人一人に語りかけるように歌われるバラード“Nobody's Perfect”。そのすべてが、吉川晃司の伝える2013年のメッセージであり、ロック・ソングなのである。

「ヤッホーヤッホー(←セクシーな低音)。我々、ツアーから帰ってきました。今日はファイナルなんでね、日頃のストレスとかを発散してくださいよ。みんなでどっか行っちまおうぜ。あんなことや、こんなことまでして!」と、落ち着いた物腰でありながらもきっちりとオーディエンスを煽り立て、“SAMURAI ROCK”へと繋げてゆく。ライヴ前半のハイライトは、何と言ってもアルバムのクライマックスを飾るSF大作ナンバー“survival CALL”だろう。客席で揺れるサイリウムは星々の瞬きのように目に映り、宇宙空間を漂う、コズミックなロック・サウンドの中で歌の主人公は《誰か応えてくれ 俺たちに/生きる場所はこの先 あるだろうか》と問いかける。ステージ背景のスクリーンには、国会議事堂や選挙の開票速報、反TPPや脱原発のデモ映像などがフラッシュバックするように映し出されていた。メッセージを物語化して伝えるという、今の吉川のクリエイターとしての才気が迸るナンバーだ。

“survival CALL”のアウトロではスタッフロールのようにバンド・メンバーの名前がクレジットされ、ここから一気に往年の名曲群が畳み掛けられる本編後半へと傾れ込んでいった。ステージ衣装を替えた吉川は、“PURPLE RAIN”のフィニッシュにお馴染みシンバル・キックを一閃。「うまくいきましたよ。人生は、そんなもんでいいんじゃないかと思って。シンバルがそこにあるから、蹴る。では次は、一緒に歌いましょうのコーナーです!」と、語り口は淡々としているのに、目の前で巻き起こされるアクションや耳に届く歌声はいちいち常規を逸している。そしてその言葉どおりに、“せつなさを殺せない”ではオーディエンスとの掛け合いのようなコーラス・フレーズが武道館を満たすのであった。

続く“エロス”を披露している最中に、吉川は右手を痛めてしまったような素振りを見せる。それでも歌はきっちりと歌いきると、「今日、48歳、初めて手がつりました(笑)。水泳をやってたときにも、つったことないのに」。そこに絶妙な間で絡んでくる男が一人。「初めてつったんですか!? 俺、よくつりますよ足。何が足りないんでしたっけ、塩分と……(エマ)」「塩分と、カリウム。あ、初めてじゃないや、人生で2回目だ。無人島で、塩分とカリウムが足りなくなって、つった(吉川)」。ちょっと待って。2回目なのも凄いけど、塩分とカリウムが足りなくなるほどの無人島サバイバルってなに? ライヴ中のハプニングさえ、新たな伝説に変えてしまう男、それが吉川晃司である。そんなときなのに“SPEED”〜“A-LA-BA・LA-M-BA”はメドレーのようなノンストップ演奏で一息に駆け抜けてしまうし、COMPLEX時代からのレパートリーである“GOOD SAVAGE”では、その左手で弦を押さえられるのか、という心配をよそにトリプル・ギターの鮮やかなコンビネーションも決めてしまう。

終盤には、遂に両太腿までが軽い痙攣を起こしてしまったようだ。吉川自身は後に「デビューしてから最も忙しい1年でした」とそのハードワークぶりを語っていたけれど、あの驚異的なキレのダンスを披露したり、自分の身長より高い位置のシンバルを飛び回し蹴りで蹴っ飛ばすことの方が余程おかしい。結局、本編の最後には、リボンや吉川のロゴ・マークを模した紙吹雪が降り注ぐ中、DISCO TWINSとのダンサブルなコラボ曲“Juicy Jungle”をバンド・アレンジで叩き付け、またもやシンバル・キックを見舞ってしまうのであった。

アンコールに応えて再登場した吉川は、両手両膝をついてオーディエンスにペコリと頭を下げる……フリをして腕立て伏せ。「ダンスとかクールに決めて、ビデオ録ろうと思ってたのに(笑)。でもこれも多分、一度きりだからね。『SAMURAI ROCK』に込めた思いは、受け止めて頂けたと思います。俺は俺なりに考えてるよってことをね。政治家がバカなときって、やっぱり庶民がバカなんだと思うんだよ。だから選んじゃうわけじゃん?」「子供にダメな未来、残せないしね。来年は30周年だし、また皆さんとここで会いたいね。あと、早く新しいアルバムを作りたいです」と思いの丈を語り、再びパフォーマンスへと向かっていった。

当初は“さよならは八月のララバイ”と“この雨の終わりに”の2曲が披露される予定だったのだけれど、ホッピー神山のピアノ伴奏をバックに8/6のプロ野球広島×阪神戦でも披露した、RCサクセションの日本語ヴァージョン“イマジン”を急遽追加。歌詞の一部が独自のものに差し替えられた、まさに『SAMURAI ROCK』版の“イマジン”熱唱であった。なお、広島×阪神戦の始球式で111km/hを記録した吉川のピッチングは、ストレートではなくスライダーだったそうです。習って、3日間練習して、腕が上がらなくなったと、本人は話していました。(小池宏和)

01. 覚醒
02. DA DA DA
03. DO the JOY
04. I'm Yes Man
05. Lovery Mary
06. FIRE
07. Nobody's Perfect
08. SAMURAI ROCK
09. HEART∞BREAKER
10. 絶世の美女
11. survival CALL
12. FANTASIA
13. PURPLE RAIN
14. せつなさを殺せない
15. エロス
16. SPEED
17. A-LA-BA・LA-M-BA
18. GOOD SAVAGE
19. ロミオの嘆き
20. Fame & Money
21. Juicy Jungle
EN-1. さよならは八月のララバイ
EN-2. この雨の終わりに
EN-3. イマジン
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