超巨大なクモのセットと共に現れた4人がまず演奏したのは、お馴染み“Psycho Circus”。あぁ、素晴らしい出音だ。この規模の会場とは思えない切迫感のある音響。熱意と金を込めているのはセットだけではない。この曲と、また続く“Shout It Out Loud”においても、リードをとるポール・スタンレーとコーラスに入るジーン・シモンズの喉は絶好調の様子。とても齢60歳を超えているとは信じ難い伸びと張りである。曲が終わるとポールは「チバ!チバ!チバ!チバ!」と繰り返す(一体彼は今日のライヴを終えるまでの間に何回「チバ」と言っただろうか)。続けて「アナタハ、サイコー!」と叫ぶと、客席も「あんた達こそ最高だよ!」とばかりに大歓声を返す。次はジーン・シモンズのアジテートが冴えわたる”Do You Love Me”。サビの「Do You Love Me」のシャウトに合わせて諸手を上げるジーンの姿、またフロント3人が広いステージの中央に寄り添って最後のソロを演奏する様がたまらなくクールだ。最初のハイライトを創出したのは、タメの効いたエリック・シンガーのドラムプレイが素晴らしかった“I Love It Loud”の次に放たれた“Hell or Hallelujah”。最新作『モンスター』のオープニング・ナンバーである。まず、結成40周年のバンドの最新作からの曲が、ここまでで最速のBPMであるということに驚きを覚えつつ、笑いもこみ上げてくる。そして、演奏。スーパーカーの性能で爆走するブルドーザーとでもいうような、激しくも滑らかなバンド・ダイナミズムの極致。今のキッスが何度目かの絶頂期に居ることを端的に示す熱演である。多くの名曲を有するがゆえに「キッスの新曲なんて誰が聴きたがるんだ?」とまで言いのけてきたジーン・シモンズが手をかけた新譜ということは、つまり今作『モンスター』が過去の輝けるディスコグラフィに肩を並べる弩級の傑作であるということ。何故ここにきてそんな傑作を作れたのか。そこには種も仕掛けもない。ジーンとポールのオリジナル・メンバー2人にトミー・セイヤーとエリック・シンガーを加えた今のキッスが、過去最高レベルに素晴らしいロックンロール・バンドの高みに到達しているからだ。まったく、普通ならどう考えてもキャリアの終盤に差し掛かる時期だというのに、どこまでも求道的な男たちである。
そして次の“War Machine”では、間奏でエリックの乾いたスネアの連打に合わせて彼のバックから火が吹き出し、我々の期待を充分に膨らませた後で、最後にはついにジーンの火吹きが。これを観に来たんだよ、とばかりに歓声を上げる客席に対し、今度はポールが唐突にアカペラで“Sukiyaki Song”――“上を向いて歩こう”を歌い出す。しかも、2コーラス分がっつりと。なんというサービス精神。これがキッス。…とこのとき思ったのだが、彼らのサービス精神がまだまだこんなものではなかったことを、これから思い知らされることになる。
さすがにこの後は大団円に向け一直線に…とはならないのがキッスである。次の“Lick it Up”では、巨大クモがかしずくように頭を地上に下げてきてポールとエリックがその上に。そして何でもアリの様相を呈してきたライヴには、最大のギミックがまだ残されていた。“Lick it Up”が終わると、ポールが自分の名前を何度も客席に叫ばせる。「まだ充分じゃない」、「もっともっと」とじらしてようやく満足したところでポールは、飛んだ。ジーンは上にだったが、ポールは、前に。行き先はフロアの真っただ中に設置されたお立ち台だ。近くで観るとやはり滅茶苦茶デカイ! ステージよりグッと近くに来てくれたポールに対し、周囲のオーディエンスは半狂乱の声を上げる。そこで360度をくるくる見渡しながら彼が歌い出したのは“Love Gun”。もちろん、サビのヴォーカルを務めるのはキッスアーミーである。これ以上ない程の一体感。まさにクライマックスに相応しい演出だった。ポールがステージに戻り、最後は最高のロックンロール・アンセム“Rock’ N Roll All Nite”で、前が見えなくなるほど大量の紙吹雪が舞う中締めに入る。曲の終わりでは、ジーン、トミー、エリックがまたも空中にせり上がる中1人ステージに残ったポールが自身のギターを叩き壊し、フィニッシュ。
〈セットリスト〉
1. Psycho Circus
2. Shout It Out Loud
3. Do You love Me
4. I Love It Loud
5. Hell or Hallelujah
6. War Machine
7. Sukiyaki Song
8. Heaven’s On Fire
9. Calling Dr. Love
10. Say Yeah
11. Shock Me ~ Outta This World
12. God Of Thunder
13. Lick It Up
14. Love Gun
15. Rock’ N Roll All Nite
(encore)
16. Detroit Rock City
17. I Was Made For Loving you
18. Black Diamond