年に2回行われるアマチュア・アーティスト・コンテスト『RO69 JACK』での歴代の優勝者/入賞者が、一堂に会するライヴ・イヴェント=『JUMPIN' JACK FLASH』。2011年5月の初開催以来となる、第2回がSHIBUYA O-WESTで行われた。チケットは見事ソールド・アウトである。今やシーンの第一線で活躍する8組が次々に出演し、素晴らしいパフォーマンスを繰り広げる約5時間半となった。それでは、各アーティストを出演順に、ダイジェストでレポートしていきたい。
●Buckwheat
RO69JACK 2013で優勝した若き5人組=Buckwheatは、田村知之(Vo.)、紺藤大生(G.)、高橋慶(G.)、酒井俊介(Ba.)、上田寛之(Dr.)という編成でありながら、シンセサイザーやドラムパッドも操り、のっけからオーディエンスを一息に包み込んでしまうような壮大なサウンドスケープを立ち上げてくる。コンテスト優勝曲“virtualism”を披露すると、田村は「ちょっと前までは、こういうイベントに出ることが考えられなかったんですけど、家族に、おまえらは前座芸人なんだから思い切ってやって来い、って言われて(笑)。ペーペーですけど、出来る限りの力で精一杯やりたいと思います」と語り、コズミックでキラキラとしたダンス・ロック・チューン“She Is Coming Back”へと向かっていった。謙虚な姿勢のMCと、サウンドのスケール感が裏腹な気がしてならない。集まったオーディエンスの身体がさっそく一様に揺れては跳ね上がる、素晴らしいトップ・バッターであった。
01 クラフトアート
02 virtualism
03 She Is Coming Back
04 around the sun around the moon, around the story, around the world
●QOOLAND
こちらもRO69JACK 2013における優勝バンドのQOOLAND。オープニングの“勝つまでが戦争”から、早速4人のメンバーが身をよじらせて激しいパフォーマンスを繰り広げていった。平井拓郎(Vo./G.)と川﨑純(G.)は、QOOLANDの看板でもある、華麗にして力強いツイン・タッピングを披露。タカギ皓平(Dr.)の強いビートを核にヘヴィ&ラウドな展開に持ち込みながらも愛嬌が保たれているのは、その情感豊かな歌のためだろうか(コミックや小説、アニメなどの登場人物の心情を描写するという歌詞世界も実にユニークだ)。「『JUMPIN' JACK FLASH』って必殺技みたいだね!(菅ひであき/Ba.&Cho.&Shout)」「ジャンピン・ジャック・フラッシャーの皆さん、ようこそおいでくださいました。Qから始まるバンド、QOOLANDです(平井)」と告げ、5月にリリースしたフル・アルバム『それでも弾こうテレキャスター』収録の美曲“ブルーアルバム”などを届ける。豊かな感情表現のために演奏テクニックを追求する、そんな熱演ぶりであった。
01 勝つまでが戦争
02 ゆとり教育概論
03 白夜行
04 ブルーアルバム
05 ドグラマグラ
●さよなら、また今度ね
続いては、9月に初のフル・アルバム『P.S.メモリーカード』をリリースし、下北沢でのワンマンも成功させたストレンジ・ポップ集団=さよなら、また今度ねが登場。“瑠璃色、息白く”を皮切りにフロントマンの菅原達也(Vo.)がユーモラスな身振りを交えながらパフォーマンスをスタートし、菊地椋介(G.)のプレイと共にスピードに乗ったメロディが予想を裏切る角度で鋭く切り込んでくる。菅原は「去年、コンテスト(RO69JACK 2012)で優勝して、100万円もらって、もーう酒やら女やらクスリやら……バファリンですけど、買って、無くなっちゃいました!」と語り、紅一点・佐伯香織(Ba.)はもとよりカエルの被り物姿がコミカルな渋谷悠(Dr./ディズニー・キャラクターのような声と評されていた)らがコーラスを添えながら“素通り”“僕あたしあなた君”と楽曲を披露していった。最後は盛大なノイズをまき散らしながら“信号の奴”でフィニッシュ。ギリギリの精神状態をもエンターテインメントへと昇華させるステージであった。
01 瑠璃色、息白く
02 踏切チック
03 輝くサラダ
04 素通り
05 僕あたしあなた君
06 信号の奴
●忘れらんねえよ
梅津拓也(Ba.)、酒田耕慈(Dr.)らとの3ピース編成の中、通常運転で息遣いが荒い柴田隆浩(Vo./G.)は、10/16リリースのセカンド・アルバム『空を見上げても空しかねえよ』について「チャットモンチーのえっちゃんが出産しました! 同じ誕生日ですよ! 兄弟ですよ!」と勢い余った発言で笑いを誘いながら、祝砲とばかりに“CからはじまるABC”へと繋げてゆく。「RO69のコンテストがきっかけでバンド組んだんですよ。おれ28歳で、柴田お前なにやってんの? アラサーだよ? って言われて。でも凄い自信あったんですよ。絶対見返してやると思って。まあ一次選考で落ちたんですけど(RO69JACK 09/10で入賞)。バンドやってる人いる? バンドじゃなくてもさあ、夢を叶えようと思って戦ってる人、いるでしょ。おれは、そういう人を全肯定したいんですよ。ロックンロール歌ってるときくらい、いいじゃん」と語り、限られた時間の中にも“夜間飛行”や“バンドワゴン”といった新たな名曲連打の、特濃胸熱ライヴを繰り広げてくれた。
01 CからはじまるABC
02 パンクロックで生きていくんだ
03 戦う時はひとりだ
04 夜間飛行
05 この高鳴りをなんと呼ぶ
06 北極星
07 バンドワゴン
●宇宙まお
バック・バンドと共に颯爽と金髪姿&笑顔を見せ、オリジナル音源の沸々とした立ち上がりとは異なる、軽快なダンス・ロックとしてアレンジされた“ロックの神様”を放つ。彼女はかつて“The 宇宙人's”のメンバーとして、この楽曲でRO69 JACK 10/11の入賞アーティストとなった。続いての新曲“つま先” は、一見平易なようでありながら知らずのうちにフックに捕われてしまうという、まさに宇宙まおマジックが伝わるナンバーだ。爽やかな楽曲がアウトロで急激に爆走を始める“自転車”、そして「哀しいことも楽しいことと同じように、大切な人と共有できたらいいのにな、という想いを込めて作りました」と触れる者を一挙に運ぶ壮大なスケール感の“哀しみの帆”を披露し、最後は「皆さんが歌ってくれないと帰れません!」と楽しそうにコール&レスポンスを誘う“あの子がすき”で見事なフィニッシュを決める。音源リリース前の新曲も次々に盛り込まれるという、攻めのステージを見せてくれた宇宙まおであった。
01 ロックの神様
02 つま先
03 自転車
04 哀しみの帆
05 あの子がすき
●真空ホロウ
「すべてはここから始まりました。『JUMPIN' JACK FLASH』、真空ホロウへようこそ」。松本明人(Vo./G.)のそんな堂々たる挨拶で幕を開けた、真空ホロウのステージ。『RO69JACK 2009』優勝後にメジャー進出、前回の『JUMPIN’ JACK FLASH』からの連続出場となるこの3ピース・バンドは、ある種の貫禄すら漂わせていた。文学的にして妖艶、瞬く間に狂気に触れるロックが、燃え盛る。しなやかに打ち込まれる大貫朋也(Dr.)のビートに乗って“闇に踊れ”を歌っていた松本は、《RO69は! 僕らのもの!》と歌詞を変えて歓声を誘っていた。村田智史(Ba.)と大貫とのジャムを挟みつつ、切なく美しい“引力と線とは”や全力でギターを搔き毟りながら疾走する“サイレン”など、ほぼ間断なく6曲のパフォーマンスを駆け抜けてしまった。今回は真空ホロウのワイルドネス&方言MC担当=村田が控えめかな、と思いきや、去り際に翌日のイベント出演や11/23の地元・茨城での凱旋自主イベントを告知しつつ、「あ~楽しかった!! いいイベントだねえ! でもあと20分ぐらいやりたい!!」と名調子を聞かせるのだった。
01 アナフィラキシーショック
02 闇に踊れ
03 バタフライスクールエフェクト
04 引力と線とは
05 サイレン
06 被害妄想と自己暗示による不快感
●江沼郁弥 (from plenty)
さて、前回『JUMPIN’ JACK FLASH』にもバンドとして出演したplentyから、フロントマン・江沼郁弥のレアなソロ・パフォーマンスである。エレクトリック・ギター一本をストロークし、“somewhere”の歌がフロアの中空に像を結ぶように浮かび上がる。緊張感を強いるというよりも、オーディエンスの集中力を引き出すという点で会場内が静かな空間になるのはplentyと同様なのだが、どこか柔らかくあたたかみのある、自由度の高いパフォーマンスになっている。一曲ごとにギターの音色を変え、或いはアコギに持ち替え、「何人眠らせられるか……昨日、結婚式だったんですよ……泣きました」「plentyが解散するんじゃないかって噂が巷で囁かれてるらしい話を、さっき事務所の人に聞いて。しないでしょ! そういう意味で弾き語りをやるって言ったんじゃないんだよ!」と語りながら、“あいという”“よろこびの吟”といったplentyナンバーによって、視界・感情をクリアに伝える至福の時間を生み出してくれたのだった。
01 somewhere
02 いつかのあした
03 あいという
04 よろこびの吟
●東京カランコロン
今回のトリを務めてくれるのは、先頃このSHIBUYA O-WESTをはじめとする3会場で『ワンマ ソフェス2013』を成功させた東京カランコロン。誰よりも先にライヴを楽しみ尽くそうとする5人の痛快なパフォーマンスはさすがの賑々しさだ。かみむー氏(Dr.)の叩き出すビートと共に青春のロックンロールを燃え上がらせる“16のbeat”に続いては、いちろー(Vo./G.)によるステップとファンキー・ファルセットが冴え渡る“true!true!true!”でフロアは沸騰。11月27日にリリースを控えたニュー・アルバム『5人のエンターテイナー』からは、おいたん(G./Cho.)を中心に放たれるシンフォニーのような爆音の中でせんせい(Vo./Key.)のリード・ヴォーカルが弾ける“指でキスしよう”も披露された。佐藤全部(Ba.)はストライプ柄のビニールシート(行楽用のやつ)を腰からぶら下げていて、何かと思えば、「みんな、立ちっ放しで大変だなと思って」と用意してきたらしい。そしていちろー、RO69JACK 2009入賞時のエピソードとして「20万円もらって、代わりに音源一曲作ってくれって言われて。(当時の)僕らみたいなインディー・バンドが、一曲録るのに20万円もかかるわけないんですよ」と、残金をデモCD制作に充てたことなどを赤裸々に告げ、「僕らみたいないい歳のバンドが、新人みたいな顔してますけど、来年も新人みたいな気持ちでやりたいと思います!」とフライング気味に2014年度の抱負を語っていた。そしてクライマックスは“いっせーの、せ”に“泣き虫ファイター”、アンコールに応えての“×ゲーム”と、煌めくポップの大団円を飾ってみせるのだった。
東京カランコロン
01 少女ジャンプ
02 16のbeat
03 true!true!true!
04 指でキスしよう
05 いっせーの、せ
06 泣き虫ファイター
en ×ゲーム
なお現在、『RO69JACK 13/14』が行われていて、一次選考の結果を発表中(こちら→http://jack.ro69.jp)。このあとユーザー投票を募り、入賞アーティストが決定される流れになっているので、投票にはふるってご参加を。また、『JUMPIN’ JACK FLASH』は引き続き第3回の開催も予定されているという。そちらもぜひ続報に期待して頂きたい。(小池宏和)