ザ・フレーミング・リップス @ 赤坂BLITZ

昨年5月には『METAMORPHOSE SPRING 2012』での来日があったけれど、単独公演としては3年ぶり。東京・赤坂BLITZ 2デイズ(10/21・22)、大阪・なんばHatch(10/23)、名古屋CLUB DIAMOND HALL(10/24)と連日続くザ・フレーミング・リップスのジャパン・ツアーである。以下は東京初日の模様をレポートする内容になっているので、各地公演に参加予定の方は閲覧にご注意を。参加を迷われているという方は、ぜひ。リップスはこれまでに何度か観てきたし、という人も、ぜひ。というのも、新作『ザ・テラー』のモードをライヴ空間として表出させたパフォーマンスは、我々の知っていたリップスのパフォーマンスからは(表面的には)大きな変化を受け止めさせるもので、しかも極めて感動的な内容となっていたからだ。

開演時間の19時ジャストには、ゲスト・アクトとして京都出身の新星5人組・HAPPYが登場。甘美なガレージ/サイケ・サウンドを基調としつつ、華やかでフィジカルに訴えかけるドリーム・ポップを次々に披露してゆく。キャッチーなモータウン・ビートを用いたナンバーであったり、ブギーなフラワー・ポップであったり。豊かなコーラス・ワークを絡め、繊細な美意識を保ちながらもそれを力強く堂々と、広がりのあるサウンドで届けてくる好演であった。彼らは大阪公演にも出演。また、東京2日目と名古屋公演はThe Mirrazがサポート・アクトを務める予定になっている。

そしてステージの転換が行われるのだが、この時点でステージ・セットの設営に笑ってしまった。大小シルバーの球体(バルーン)が敷き詰められ、一段高台になった中央のマイクからは無数の、乳白色のチューブが伸び、無造作にシルバーの球体群を覆い尽くしている。有機的なデザインだ。チューブの中には色とりどりのLEDが仕込まれており、コンピュータ制御によって明滅する光が走り抜けるギミックになっている。球体は細胞で、チューブは神経組織、その信号伝達の仕組みをヴィジュアル・イメージ化した、そんな印象だ。

サポート・メンバー含め6人がステージに登場すると、いよいよ開演。新作『ザ・テラー』のオープニング曲でもある“Look… The Sun Is Rising”。ハンディ・ライトを振り回したり、赤ん坊(の人形)を大切そうに抱きかかえながら歌ったりと相変わらず小道具の準備にも余念がないウェイン・コインだが、背景一面のLEDに映し出されるCGアニメーション(光量もかなり大きい)とバンドの不穏な爆音がシンクロし、サウンド面もヴィジュアル面もエレクトロニック方向に劇的な変化を遂げたリップスのパフォーマンスが迫りくる。セットリストは『ザ・テラー』を中心に99年の『ソフト・ブレティン』以降の楽曲がチョイスされていたが、パフォーマンスのモードとしては完全に最新型のリップスとして一貫しているものだった。

人生に絶えず付き纏う「恐怖」というテーマに真っすぐ向き合った表題曲を経て、ウェイン自ら紙吹雪を撒く“The W.A.N.D.”や“Silver Trembling Hands”が披露される辺りでは、正直、あのリップス・ライヴの特別な多幸感に包み込まれるのはいつだろう、と待ち侘びていた。そして、ストリングス風のシンセ・アレンジ&ビートレスでじっくりと始まる“Race For The Prize”が、焦らすようにしながら高揚感を募らせてくれる。ところが、圧巻だったのはこの後だ。美しくも途方に暮れてしまうようなハーモニーに包まれる“Try To Explain”では、ステージ上方の照明の支柱が降下してきて強烈な視覚効果の一部を担い、シリアスなパフォーマンスを増幅させる。ダークなサイケ感に満ちた『ザ・テラー』の楽曲群は、ライヴではより硬質で鋭いグルーヴに裏打ちされ、エレクトロニックなノイズが飛び交い、不意に轟音が立ち上がる。

ザ・フレーミング・リップスはこれまでだってシリアスなテーマを掲げて表現を行ってきたし、その先に生きる喜びを探り当てようとしてきたのだけれど、『ザ・テラー』の根底にあるのは「逃れられないもの」なのではないか。だからシリアスなことを徹底してシリアスに突き詰めて伝えようとする。最近のライヴで彼らが披露しているディーヴォの“Gates Of Steel”のカヴァーも、今の彼らのモードにとっては重要な要素だったようだ。《我々は、人間であることを演じるために金を払っているんだ》と告発し、率直な表現の必要性を問いただすこの曲は、『ザ・テラー』の楽曲群の中で価値あるインスピレーションの源泉として、専用の刺激的なヴィジュアル効果まで加えられてプレイされていた。そして本編最後の“A Spoonful Weighs a Ton”へと向かうとき、ウェインは「これは悲しい歌だけど、みんなに悲しんで欲しいわけじゃないんだ。ジャンプして、一緒に空っぽになるまで、エモーショナルに楽しんで欲しいんだよ」と告げ、喝采を浴びながら歌う。《Heard louder than a gun / The sound they made was love》のフレーズが溢れる中、ステージの背景いっぱいに「愛」の文字が浮かび上がっていた。

アンコールに応えて再び姿を見せたウェインの言葉はこうだ。「フレーミング・リップスのファンというのは本当に最高だな。世界一イケてるよ……ときに世界は、邪な思いに満ちていて、君たちに影響を及ぼすけど。でもさ、僕たちにだって、こんなことが出来るんだ。そうだろ? たとえ悲しみを抱えていたとしても、今、この場所で笑顔をみせてくれている君たちは、きっと人生を変えることが出来るよ。どうもありがとう」。そして繰り出されるのは、もちろん“Do You Realize??”である。やはりリップスはリップスで、ウェインはウェインだった。最後の最後に、新作からもう一曲“Always There, In Our Hearts”を叩き付けて、この日のステージは幕を閉じたのだった。(小池宏和)
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