ポール・マッカートニー @ 東京ドーム

11月11日の大阪を皮切りに、福岡、そして東京と3都市のドームを回り計6公演が行われるポール・マッカートニーの11年ぶりの来日ツアー。昨日18日はその東京初日となる東京ドーム公演である。

全公演ソールドアウトとなった東京は急遽制作席も解放され、一歩ドームに足を踏み入れるとステージの両サイドの僅かなスペースを除いてぎっしり天井席まで観客で埋まった壮観が広がっている。ステージに目をやると、両サイドに縦長の2枚のスクリーンが、そしてドラムセットの後ろにはシアターのような巨大スクリーンがそれぞれ設置されているのが見える。ぱっと見装置と呼べそうなものはそれくらいで、ポール・クラスで考えるといたってシンプルなセッティングのステージと言っていいだろう。

定刻を少し回った19時10分に場内が暗転、ドームを包み込む大歓声に迎えられて、ポール・マッカートニーと彼のバンドがステージに登場する。大きく手を振りながら出てきたポールは濃紺の細身のロングジャケットに細身のパンツというすっきりスタイリッシュないでたちで、まずはその異様に若々しいビジュアルに大興奮だったわけだが、驚いている間もなく1曲目の“エイト・デイズ・ア・ウィーク”がトップスタートで始まる。過去3回の来日ではやっていないプレミアなオープニングだ。そして間髪入れずにファストにロック&ロールする新曲の“セイヴ・アス”を畳みかけたところで「コンバンハートキオー!タダイマー!」とポール。そう、本日最初の挨拶は日本語だ。“オール・マイ・ラヴィング”ではアウトロの高音のフェイクもばっちり決まり、喉の調子も良いことが伺える。「サンキュー!アリガトー!コンバンモ、ニホンゴガンバリマス。デモ、エイゴノホウガトクイデス」と日本語でジョークを交えつつ、とにかく序盤はテンポよくぽんぽんと次から次へと珠玉の名曲が繰り出されていく展開だ。

“あの娘におせっかい”を終えたところでジャケットを脱ぐと、「これが今日唯一の衣装チェンジだよ」とポール。細いサスペンダーで吊るしたパンツはつくづく細身でしゅっとしているし、ジャストサイズで着ている白シャツも贅肉の全くないスリムな上半身に凄く似合っているし、71歳という年齢が俄かには信じられないほど本当にポールは若々しく格好良い。体つきだけではなく、何よりも颯爽とした身のこなしや声のハリ、そして笑顔、身体の内側漲る若さが凄い。ちなみにこの曲からポールのMCが同時通訳されて、日本語字幕としてスクリーンの下部に表示されるという嬉しいシステムもスタートする。

カラフルなペイントが施されたレスポールに持ち変え、ジミ・ヘンドリックスのアウトロも混じえた“レット・ミー・ロール・イット”、そして「このギターは60年代に使っていたものなんだ」と言ってポールがエピフォン・カジノを弾き始めた“ペイパーバック・ライター”の2曲は、ここまでで最もハードなセクションで、ポールがアンプに向かってギターをこすりつけるようにしながらフィードバックノイズをまき散らす“ペイパーバック・ライター”のアウトロは圧巻だった。なお、今回の来日のバンドはラスティ・アンダーソン(G)、ブライアン・レイ(G&B)、ポール“ウィックス”ウィケンズ(Key)、エイブラハム・ラボリエル・ジュニア(Dr)とお馴染みの布陣で、こういうハードめのナンバーだと特に吸いつくような5人の阿吽の呼吸が感じられる。

広い東京ドームのステージ上を、ポールは基本小走りで移動する。そして軽やかな足取りで上段のグランド・ピアノへ向かい、始まったのが“マイ・ヴァレンタイン”だ。スクリーンにはジョニー・デップとナタリー・ポートマンが手話を披露した同曲のミュージック・ビデオが流れる。ここからの数曲はポールのピアノ・ナンバーで、「ウイングスのファンのために」と言って始まった“1985年”では軽快に弾むリリカルなメロディを、“ロング・アンド・ワインディング・ロード”ではシルキーなヴォーカルとのコンビネーションの途轍もない美しさを、そして「次の曲はリンダのために書いたんだ」と紹介して始まった“恋することのもどかしさ”では、声の掠れや途切れも構わず激しくシャウトするエモーショナルな愛の歌をと、縦横無尽に鍵盤に指を走らせながら歌うポールの様々な表情を垣間見ることができる。

ここでバンドは一旦退場し、ステージ上にはアコースティック・ギターを手にしたポールがひとり残る。「60年代のアメリカは様々な問題に直面していた。そのひとつが公民権運動だ。僕はイギリスにいてそのニュースを知って、苦しんでいる人達の役に立ちたいって思った。それで、この曲を書いたんだ」と始まったのが“ブラックバード”だ。ポール・マッカートニーが静まり返った5万5千人のスタジアムに向かってひとりこの曲を歌い、爪弾いた数分間は、まさに足元から震えと感動が立ち上ってくるような時間だった。そして「ツギノウタハ、ジョンノタメデス。ジョンニハクシュヲ!」と日本語で言うと、続く“ヒア・トゥデイ”へ。「君はいつだって 僕の歌の中にいた」とジョンに語りかけるこの曲を、ポールは1語1語文節を区切るように、噛みしめるように丁寧に歌い重ねていく。“ブラックバード”と“ヒア・トゥデイ”の弾き語りは、この日の特別なステージの中でも特に特別な時間だったように感じた。あまりにも偉大で、あまりにも歴史的な意義に満ちた歌とパフォーマンスの中で、思いがけず無防備でパーソナルなポールその人の輪郭に触れたような、不思議な時間だったのだ。

再びバンドと合流すると、ポールはサイケデリックなペイントが施されたアップライト・ピアノ、お馴染みの「マジック・ピアノ」にスタンバイする。「次はニュー・アルバムからのナンバーだよ。このアルバムを日本でチャート1位にしてくれてありがとう」と言って始まったのは“NEW”だ。直前までのロウ・キーな弾き語りから一転、カラフルなメロディが沸き踊るコントラストが眩しい。“クイーニー・アイ”から“レディ・マドンナ”へとビートの軽快さが最高に高まってきたところで“オール・トゥゲザー・ナウ”。マリアッチのようなアコギの早弾きにウィックスのハモニカの煽りも加わり、アウトロに向かってがんがん加速していくと、その加速に合わせてドーム内にうわんうわんと大歓声が木霊していく。そんなオーディエンスのリアクションをポールは「ベリーグッド!スバラシイ!」と讃えるが、既に20曲をノンストップで歌いまくり、弾きまくり、息ひとつ上がっていないポールが誰より素晴らしい、というか本当にとんでもない。“エヴリバディ・アウト・ゼアー”なんてグルーヴに乗りまくっている身体と気持ちの高ぶりが抑えられないのか、曲が終わってからも「エヴリバディ!アウト!ゼアー!!」とさらにノリノリでシャウトしている。す、凄すぎる。

ヘフナーのバイオリン・ベースに持ち変え始まったのは“ビーイング・フォー・ザ・ベネフィット・オブ・ミスター・カイト”、これも4度目の来日ツアーにして初めて日本で披露されたナンバーだ。そして「ツギノ、キョクハ、ジョージノタメデス。ジョージニハクシュヲ!」と、ウクレレを手にしたポールが促してスタートしたのが“サムシング”だ。“恋することのもどかしさ”でリンダに、“ヒア・トゥデイ”でジョンに、そして“サムシング”でジョージに、71歳になったポール・マッカートニーが彼の大切な人々に歌を捧げる様をこうして日本で目の当たりにできること、改めてその奇跡を噛みしめずにはいられなかった。歌い終わると「ジョージ、美しい曲をありがとう」とポールは言った。

そんな“サムシング”の後、「イッショニ、ウタオーヨ!」と呼びかけられて大合唱になった“オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ”以降は、ポールとオーディエンスがそれこそ人類の共有財産のようなポップ・ソングの数々を共に祝福する、幸せすぎる時間が広がっていく。“レット・イット・ビー”、そして“007死ぬのは奴らだ”ではイントロのブレイクと共に火柱の特効がバンバン上がる。屋内の特効としては破格のスケールで、火柱の爆風に煽られてポールの髪はぐちゃぐちゃになってしまっているが、涼しい顔でピアノを弾き続けているのが最高だ(演奏後は頭を抱えて耳がキーンとしてるんだというジェスチャー付き)。本編ラストの“ヘイ・ジュード”では「ダンセイダケ!ジョセイダケ!ハイ、ミンナデー!」とポールの指示を受け、コール&レスポンスもばっちり決まり、文字通り「ミンナデ」フィナーレに向かって高めあっていく最高のエンディングとなった。ここまでで31曲、時計を見たら21時15分だった。本編はだいたい2時間というところだろう。

そしてアンコール、転換は2分ちょい、ポールたちはあっという間にあっさりステージに再登場する。本当にテンポがいいというか、じらしたりもったいぶったりする瞬間が殆どない稀有なコンサートだったと言っていい。ポール・マッカートニーのコンサートでプレイされる楽曲のラインナップを思えば、いくらじらしてももったいぶっても誰も文句を言わないが、この人とこの人の音楽は、既にそういう伝説の在り方の次元を超越しているのだ。オープンソース化されたポップ・ソングとでも言うか、ポールの音楽は作り手である彼のエゴの及ばないところでオーディエンスである私たちの喜びへと直変換されていくし、ポール自身もそれこそがポップ・ミュージックの正しい姿であり、彼のミッションだと理解している、そんなことを確信させられる風通しの良いライヴだったのだ。

ポールたちが巨大な日の丸とユニオンジャックを掲げてステージを回った後、アンコール1曲目の“デイ・トリッパー”がまるでショウのオープニングのような勢いと瑞々しさで始まる。「モットキキタイー?」とブルース・ギターを炸裂させた“ハイ・ハイ・ハイ”、そして“ゲット・バック”と畳みかけ、2度目のアンコールもやはり転換は約2分。最後までポールの移動は小走りだ。「次の曲は福島の皆さんに、地震の被害に遭われた皆さんに捧げます」と“イエスタデイ”を静かに歌い上げたところで、“ヘルター・スケルター”のひしゃげたギターが稲光のように頭上に落ちてくる。一体どこにそんなパワーを潜ませていたのかという勢いで転がり、クライマックス目がけてギュウギュウとタイトに締め上げるアンサンブル、そしてラストは『アビイ・ロード』メドレーで“ゴールデン・スランバー”“キャリー・ザット・ウェイト”“ジ・エンド”という3連打。ポールは「マタネ、シー・ユー・ネクスト・タイム」と繰り返し、来た時のように大きく手を振り、颯爽と去っていった。

終演は21時50分、約2時間40分のステージで全39曲。楽しく、嬉しく、そして腹の底からひっきりなしに沸き上がるワクワクした気持ちに身を委ねている間にあっという間に過ぎ去った、夢のような時間だった。正直、この日のライヴを観るまでは「これが日本でポールを観ることができる最後のチャンスかもしれない」とも思っていた。でも、ポールが言うように本当に「ネクスト・タイム」があると信じられる、信じたい気持ちになった体験だったのだ。(粉川しの)


1. Eight Days a Week
2. Save Us
3. All My Loving
4. Listen to What the Man Said
5. Let Me Roll It
6. Paperback Writer
7. My Valentine
8. 1985
9. The Long and Winding Road
10. Maybe I'm Amazed
11. I've Just Seen a Face
12. We Can Work It Out
13. Another Day
14. And I Love Her
15. Blackbird
16. Here Today
17. New
18. Queenie Eye
19. Lady Madonna
20. All Together Now
21. Lovely Rita
22. Everybody Out There
23. Eleanor Rigby
24. Being for the Benefit of Mr. Kite!
25. Something
26. Ob-La-Di, Ob-La-Da
27. Band on the Run
28. Back in the U.S.S.R.
29. Let It Be
30. Live and Let Die
31. Hey Jude

32. Day Tripper
33. Hi, Hi, Hi
34. Get Back

35. Yesterday
36. Helter Skelter
37. Golden Slumbers
38. Carry That Weight
39. The End
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