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    ボン・ジョヴィ @ 東京ドーム

    ボン・ジョヴィ @ 東京ドーム - All pics by Masayuki NodaAll pics by Masayuki Noda
    ボン・ジョヴィの記念すべき通算100公演目となった今回の来日公演は、彼らがここ日本でまさに100回積み重ねてきた実績の大きさ、そして1984年の初来日から30年近くに亙ってファンと培ってきた絆の強さを証明する圧巻のコンサートになった。80年代以降の日本に「洋楽」を根差す原動力となったボン・ジョヴィの唯一無二の存在感に気づかされる、そんなコンサートだった。

    満員の東京ドームには本当に様々な年齢、様々な嗜好を持ったファンが入り混じっていた。ペンライトを手にした熱心な妙齢女性チームがいれば、メタルTシャツに皮ジャンを着込んだいかついメンズもいる。ビール片手に開演前から大盛り上がりしている会社帰りのサラリーマンがいれば、小中学生の息子を連れてきているお母さんもいるし、メッセージボードの準備をする大学生らしいグループもいる。一言で「ボン・ジョヴィのファン」とカテゴライズできないこのオーディエンスの一般性は、こと洋楽のライヴにおいては珍しく、ボン・ジョヴィの存在が文字通り日本の隅々まで浸透していることを証明する風景だ。そしてボン・ジョヴィが凄いのは、彼らの音楽とパフォーマンスはその不特定多数の「全ての人」に、ひとり残らずはっきりと照準を合わせていることなのだ。

    “That's What the Water Made Me”で始まったこの日のショウ、印象的だったのはジョンたちの「目線」だ。ステージの左右には巨大なスクリーンが2枚ずつ設置され、ステージ後ろにもさらに巨大なメイン・スクリーンが掛かり、ボン・ジョヴィのライヴはあらゆる角度からステージ上のジョン、ティコ、デヴィッド、そしてリッチー・サンボラに代わるサポート・ギタリストのフィルXの姿を捉えていくのだが、彼らはしばしばスクリーンを通してじっと客席を見つめ、笑いかけ、頷きかける。スクリーンを観ていると、まるでジョン・ボン・ジョヴィが自分だけに歌いかけているような錯覚にも陥る。ロック・バンドから日本のアイドルまで、様々なアーティストのコンサートを東京ドームで観てきたが、ここまでスクリーンがアーティストのアイコンタクトのツールとして活用されたコンサートというのも珍しい。この目線を介したコミュニケーション、心理的近さを感じさせる演出も、20年以上に亙ってスタジアム・ロック・バンドであり続けてきたボン・ジョヴィの強みと言えるかもしれない。

    もちろん楽曲とパフォーマンスそれ自体も、スタジアム・ロック・バンドの技巧と説得力を詰め込んだ凄まじいものだった。メロディアスなハード・ロック・ギターを存分に効かせる“You Give Love a Bad Name”、“Raise Your Hands”、アコースティック・ギターの抜けのいいシンプルなメロディの“Lost Highway”、カントリー・ライクでスプリングスティーンばりにエネルギッシュな“Whole Lot of Leavin'”と、「アメリカン・ロック」という形容がここまでばっちり嵌るサウンドも珍しい。大雑把すぎる「アメリカン・ロック」という括りの、その大雑把さを奇跡的に網羅してしまっているのがボン・ジョヴィの音楽なのだ。

    “It's My Life”で再び大合唱をあっさりと巻き起こしたところで、「次の曲はニュー・アルバムからのファースト・シングルだよ。おれたちのアルバムを日本で1位にしてくれてありがとう」とジョンが言うと、最新作『ホワット・アバウト・ナウ』からの“Because We Can”へ。まるでショウのオープナーのような瑞々しい疾走感で聞かせるナンバーで、デヴィッドとフィル Xのコーラスも効いている。一方の“We Got It Going' On”は永遠のセックスシンボル=ジョン・ボン・ジョヴィの本領発揮なダンス・ロック・ナンバーで、ジョンが腰を振るとギャー!!と客席からは悲鳴が上がる。そしてめちゃくちゃ格好良かったのが“Keep The Faith”だ。ジョンが激しくマラカスを振りながら歌うこの曲は思いっきりファンク・アレンジになっていて、ジョンがはけた後もバンドのインプロヴィゼーションが延々と続く。リッチー・サンボラ不在の穴を埋めるサポート・ギタリストとして、2011年のピンチヒッターに続き今年のワールド・ツアーにも登板したフィル Xだが、ツアーを重ねる中でバンドにすっかり溶け込んでいるのがわかる最高のアウトロだった。

    ボン・ジョヴィ @ 東京ドーム
    “Keep The Faith”を折り返し地点として、ショウは後半戦に入っていく。“(You Want to) Make a Memory”、“Captain Crash And the Beauty Queen From Mars”と2曲のバラッド・セクションを挟み、“Born To Be My Baby”からは再びノンストップのロック・セクションに突入していく。「おれたちが日本に初めて来てから30年、100回のライヴをやることができた。本当にありがとう。日本にはたくさんの友達とたくさんの思い出、そしてたくさんのおれたちの歴史があるんだ」。そうジョンが言うと、“Who Says You Can't Go Home”へ。ステージと客席とで「It's Alright!」のコール合戦になる。客席ではいたるところで「Alright!」と書かれた手書きのメッセージボードが揺れている。ボン・ジョヴィのコンサートの定番の光景だ。

    ここからはカヴァー曲のセクションだ。ステイタス・クォーの“Rockin' All Over the World”を皮切りにローリング・ストーンズの“Start Me Up”、ジェリー・リー・ルイスの“Great Balls of Fire”、そしてAC/DCの“You Shook Me All Night Long”をジョン、デヴィッド、フィル Xがリレーで歌い繋いでいく。“Start Me Up”ではジョンによるミック・ジャガーの形態模写まで披露されるサービスっぷりで、ストーンズの来日決定が報じられた日にこういう演出を組み入れてくるのがニクイ。そしてラストの“Bad Medicine”はスクリーンを多用した客席とステージの二元中継状態で凄まじいコール&レスポンス合戦となり、ジョンの「サンキュー! グッナイ!」と共に大歓声の中、本編が終了する。

    アンコールは“In These Arms”のキーボードのイントロでゆったり始まった。「30年に亙る日本のみんなのサポートに心から感謝するよ。また戻ってくるって約束する」。ジョンはそう言うと、「携帯を持ってる人はカメラを点灯して、それを頭の上にかざしてほしいんだ」と呼びかける。と、数万人が一斉にスマホの眩い液晶画面を掲げ、ドーム一面が青光りした光の海に代わる。ボン・ジョヴィはかつてライターの灯で、そして今はスマホの液晶で、こういう「スタジアム・ロック」のお約束をきっちりやりきるバンドであり、そしてそういうお約束をやりきって本当に画になるバンドだ。オール・ラストの“Livin' on a Prayer”は文句なしのハイライト・ナンバー! 日本と日本人のDNAレヴェルに刻みこまれた共通体験としてのボン・ジョヴィ、そんな彼らのメモリアル・コンサートに相応しいエンディングだった。(粉川しの)

    セットリスト
    01.That's What the Water Made Me
    02.You Give Love a Bad Name
    03.Raise Your Hands
    04.Lost Highway
    05.Whole Lot of Leavin'
    06.It's My Life
    07.Because We Can
    08.What About Now
    09.We Got It Going On
    10.Keep the Faith
    11.(You Want to) Make a Memory
    12.Captain Crash And the Beauty Queen From Mars
    13.Born to Be My Baby
    14.We Weren't Born to Follow
    15.Who Says You Can't Go Home
    16.I'll Sleep When I'm Dead
    17.Bad Medicine
    encore
    18.In These Arms
    19.Have a Nice Day
    20.Wanted Dead or Alive
    21.Livin' on a Prayer
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