all pics by MITCH IKEDAソロデビュー10周年アニバーサリーライヴ、「YOSHII LOVINSON SUPER LIVE」。ライヴ後半に本人も述べていたが、このタイトルはもちろん2001年に同会場で初開催され、彼がソロで初めてステージに立つ場となった「ジョン・レノン スーパー・ライヴ」の引用である(今年の「ジョン・レノン スーパー・ライヴ」は奇しくも本日武道館で開催。吉井曰く「本当だったら武道館行きたかったんだけど、ドン被りした」とのこと)。ジョン・レノンという無二の人物の偉業を称えその思想をリマインドする、言わば故人の不在を最大限の愛をもって再確認する儀式を、自らYOSHII LOVINSONに対して行おうという意図だったのだと思う。そして、結論を最初に出してしまうとその儀式は、YOSHII LOVINSONという極めて強固な記憶をそのまま再現するのでも、あるいは10年かけて再誕したロックンロール・キング=吉井和哉として改めて当時の楽曲を鳴らすのでもなく、当時思い描いていたYOSHII LOVINSONの完成形をあくまで「YOSHI LOVINSONとして」全うする、正しく他の誰にもできないやり方で執り行われたのだった。
![YOSHII LOVINSON SUPER LIVE @ さいたまスーパーアリーナ](/images/entry/width:750/93549/2)
客電がゆっくりと消え、軽快なインストが流れ出しオーディエンスが拍手を刻んでいると、突如一面真っ暗になり“AT THE BLACK HOLE”が響き渡る。曲中ステージに次々と上がってくるバンド・メンバーは、事前のアナウンス通り、海外からジュリアン・コリエル(G)、ポール・ブッシュネル(B)、ジョシュ・フリーズ(Dr)の3名に、お馴染み日下部正則(Gt)、鶴谷崇(Key)の、そして当然、YOSHII LOVINSONの計6名だ。1曲目は、“20 GO”。アルバムの終わりと始まりとが直結し出口のないトリップに聴く者を導くあの『at the BLACK HOLE』のムードが、いきなり目の前に描き出される。興奮を禁じ得ない最高のオープニングである。しかも、依然真っ暗なステージ上に幻想的に炎だけが灯る中で演奏される“20 GO”のアレンジが、物凄いことになっている。音数を絞りに絞り上げたうえ、メタリックなギターと硬質なドラムの単調な反復でストレンジな歌世界を構築し直したと思えば、曲後半には一気にキーボードとベースが前面に出て天上なしにグルーヴをビルドアップしていく。シンプルなやり方での最大限の静→動のダイナミズムを可能にする圧倒的な音圧。一音一音の破壊力が桁外れだ。しかし何より驚愕させられるのは、そんな演奏をさえ司るとんでもない声量の吉井の歌である。1曲目にしてすっかりノックアウトされてしまっていると、次の“PHOENIX”ではメンバーの背に連ねられた特大のモニター・パネルに個々人が次々映される演出にまたもヤラれる。これはやはり、今夏話題を呼んだ復活ナイン・インチ・ネイルズのステージ・セットのオマージュなのだろうか。とにかく格好良すぎる。続いての、ゴリゴリとした武骨なサウンドが堪らない“黄金バッド”が終わると、「皆さんお久しぶりです。YOSHII LOVINSONです」と一言。この壮絶なライヴがYOSHII LOVINSONによるものなのだ、ということを全てのオーディエンスが再認識し、ぶわっと歓声が沸く。
![YOSHII LOVINSON SUPER LIVE @ さいたまスーパーアリーナ](/images/entry/width:750/93549/3)
ここからは“JUST A LITTLE DAY”~“WANTED AND SHEEP”~“RAINBOW”~“CALL ME”と2nd『WHITE ROOM』からの曲が続く。≪電話一本でいつでも呼んでくれ 後悔ないようにしとくぜ≫と天に向け吐き捨てていた頃の彼が死と生の臨界点で自分の内側だけを見つめながら紡いだ寓話のような曲達が、圧倒的にダークで、こんがらがった情念に染まっているのに、同時にどこまでも苛烈で力強い歌によって、今日は外界を無尽蔵に吸い込む引力をもって鳴らされていく。気を抜くとただただ感動に飲まれそうになってしまう程素晴らしい。『WHITE ROOM』の流れが終われば、次はもちろん『at the BLACK HOLE』の時間だ。“SADE JOPLIN”~“FALLIN’ FALLIN’”~“SPIRIT’S COMING(GET OUT I LOVE ROLLING STONES)”。どの曲もが、ロックンロールとして余りに完成されたフォルムをもって演奏されていく様に、これまた衝撃が走る。音源においても充分な名曲ではあれど、吉井自身の演奏での特異なグルーヴによる仕上がりとはまたまるで違った地点に着地しているのだ。いや、今日のバンドの完璧以上の演奏でありながら音の細部に至るまで「YOSHII LOVINSON」の思想や概念が染みわたった、ソロアーティストとバンドとの関係性として1つの完成形のような在り方を見せてくれていることを考えれば、この進化もバンドに引っ張られてのものではなく、むしろ当時の吉井が思い描いた「原型」であるのだろう。
![YOSHII LOVINSON SUPER LIVE @ さいたまスーパーアリーナ](/images/entry/width:750/93549/4)
今さら言うまでもなく、YOSHII LOVINSONは凄かった。密室的なグルーヴと他に類を見ない独自のメロディが牽引する未開のリズムが支配する空間の中で描かれる極私的な感情吐露の音楽としての『at the BLACK HOLE』。装飾を抑えた慎ましいプロダクションと極めてダイナミックな曲展開との両極の真ん中を貫く異形のルーツ・アメリカン・ロックとしての『WHITE ROOM』。2010年代の英米ロック・シーンの潮流とそれぞれピタリと沿うような音楽性を有すこの2枚こそ、早すぎた金字塔として歴史に残るべき掛け値無しの名盤である。しかし、当の吉井和哉は、決してYOSHII LOVINSONの音楽を手放しに誉め称えることをしなかった。むしろ、度々MCで「根暗のLOVINSON君の曲をやります」と語るような自嘲気味の扱いを繰り返してきた。それは、我々ファンにとってはやはり、少なからずもどかしく思える部分もあった。しかし、今日のライヴを観て、やっとその意味が分かったような気がするのだ。泣きごとを言いながらバーストする。重い悩みに頭を抱えながら転がっていく。そんな原始の原理に忠実な、だからこそ微塵の隙もないロックンロール。この完成形が見えていたからこそ、吉井はYOSHII LOVINSONを祝福し、終わらせることをしなかったのだ。いつかここまで届かせることを自らに誓っていたのである。ライヴ中盤のハイライトとなった、曲終盤に轟音が爆発した“恋の花”(リリックはオリジナル・ヴァージョン)とアシッドな雰囲気を維持しつつ毅然とした歌唱により一層アンセミックになった“SWEET CANDY RAIN”の2曲が、これまで彼の武器でありシンボルとなってきた歌謡曲のDNAを全く内包しない純粋なロックンロール・バラードとして鳴らされるのを聴いてしまった後では、そう確信せざるを得なかった。
![YOSHII LOVINSON SUPER LIVE @ さいたまスーパーアリーナ](/images/entry/width:750/93549/5)
ジュリアン・コリエルの「オハヨー! サイタマー! オゲンキデスカー! アイタカッタヨー! アナタタチハ、サイコー!」というMCも含め、吉井が嬉しそうに誇らしそうにバンド・メンバーを紹介した温かな時間に続いて始まったのは“点描のしくみ”。ここまでと一転して、ドファンキーかつド派手なサウンドで、照明もレーザーが飛び交う狂騒的なもの。次の“ビルマニア”も、ヴォーカルから俄かに憂いが掻き消え、晴れやかに響き渡っていた。恐らく、メンバー紹介からこの2曲の間だけ「現在の吉井和哉」が顔を出していたのだろう。年末28日恒例のライヴが今年は武道館ではなくマリンメッセ福岡で行われることから、「吉井和哉」のファンに対し配慮したのかもしれない。正直ギャップは感じたけれど、素直に嬉しい演出だった。しかし、吉井は直後のMCで「最初の炎と一緒にYOSHII LOVINSONもこれでようやく燃え尽きたんじゃないかな」と笑いながらつぶやいた上で、来年からはこれまでの全キャリア(人格)が合体して「スーパー吉井和哉」になると言っていた。このかけ離れた「YOSHII LOVINSON」と「吉井和哉」、それにイエローモンキーの「ロビン」までもが1つに溶け合って先に進むというのだ。その言葉だけで、楽しみで仕方がない。とはいえ、今日のライヴは「YOSHII LOVINSON SUPER LIVE」。本編最後に選ばれたのは、再びYOSHII LOVINSONとしての“WHAT TIME”だった。この曲の≪ジョン・レノンは天国になどいないさ レコードの中だよ≫というリリック通り、このライヴによってさらにその功績を増したYOSHII LOVINSONというアーティストもまた、2枚の偉大なレコードと今日という日の記憶の中を永遠に生きるのだ。そのことをこれからはもう、吉井和哉も否定しないはず。思い返せば、吉井和哉のライヴはどれだけ高次に達しても常に何処かに欠落があった。傷を負っていた。無論、それが魅力でもあった。だからこそ何度でも、すぐにでもまた次を観たくなったのだから。しかし、今日のライヴは一点の曇りも無く、完璧だったのである。アンコール最後の“トブヨウニ”を演奏中の、そして演奏を終えて天を仰ぎ「ありがとうLOVINSON!」と言ったときの吉井和哉の正しく全てをやり切ったという表情は、それを何より物語っていたと思う。吉井和哉はまた1つ、過去を乗り越え、終わらせたのだ。そういう歓喜と達成感と少しの寂しさが混じり合って弾けたような、そんな感動的な夜だった。(長瀬昇)
セットリスト
SE AT THE BLACK HOLE
20 GO
PHOENIX
黄金バッド
JUST A LITTLE DAY
WANTED AND SHEEP
RAINBOW
CALL ME
SADE JOPLIN
FALLIN’ FALLIN’
SPIRIT’S COMING(GET OUT I LOVE ROLLING STONES)
NATURALLY
欲望
煩悩コントロール
恋の花
SWEET CANDY RAIN
TALI
FOR ME NOW
MUDDY WATER
点描のしくみ
ビルマニア
WHAT TIME
〈アンコール〉
BLOWN UP CHILDREN
ノーパン
ルビー
ALL BY LOVE
トブヨウニ