ジェイミー・カラム @ Bunkamura オーチャードホール

ジェイミー・カラム @ Bunkamura オーチャードホール - all pics by Yoshika Horitaall pics by Yoshika Horita
ジェイミー・カラム、4年ぶりのニュー・アルバム『モーメンタム』(2013)を引っ提げての日本縦断ツアーだ。前回来日の2010年フジ・ロックも素晴らしいステージだったが、彼は当然のことながらライヴに定評のあるアーティストで、ジャズのフリー・スタイルをベースとしたジェイミーの音楽はむしろライヴ・パフォーマンスにこそ本質が宿ると言ってもいい。実際、彼のライヴをひとたび観た人は、その自由さ、独創性、破格のプレイヤヴィリティ、そして何よりも「音楽に愛されている」としか形容しようがないジェイミーの湧き出る才能を瞬時に理解できるはずだ。

ジェイミー・カラム @ Bunkamura オーチャードホール
そんなジェイミー・カラムの東京公演、29日のソールドアウトを受けて追加されたのが昨日のオーチャードホール公演だ。「21世紀のピアノ・マン」のイメージが強いジェイミーだけに、オーチャードホールのクラシカルな雰囲気は前提としてぴったりなのだが、その前提の雰囲気をある意味ブチ壊す勢いで始まったのがオープニングの“The Same Things”だった。ジェイミー以下バンドの6人全員がドラムを叩き、そこにオーディエンスの手拍子が乗り、思いっきりパーカッシヴに始まるこのナンバーは、ジェイミー・カラムのイメージをプリミティヴな地点までリセットしてみせる。そして“Get Your Way”へ、サックスとトランペットが煽り立てる超モダンなジャズ・ナンバーのこの曲で、我流で好き勝手弾き散らしているようでいてとんでもなくタイトで上手いジェイミーのピアノが早くも炸裂する。“I'm All Over It”ではオーディエンスとのコール&レスポンスもばっちり嵌り、頭3曲でファンキーでジャジーでフリーキーでポップ、そんなジェイミー・カラムのカラフルな世界が瞬く間に作り上げられていく。客席はのっけから総立ちだ。

ジェイミー・カラム @ Bunkamura オーチャードホール
「コンバンワートーキョー! 僕が初めて日本に来てから今年で10年になるけど、ほんと日本は大好きな国なんだ。君らはとっても優しいし、日本の文化、食べ物、洋服、みんな好きなんだ。昨日は焼酎を沢山飲んだよ」とジェイミー。そして「次はカヴァー曲」と言って始まったのが、フレーミング・リップスの“Do You Realize??”だ。これまでにも様々なアーティストのナンバーをカヴァーしているジェイミーだが、“Do You Realize??”は彼の声の素晴らしさを再確認させてくれるミニマムなアレンジで歌われる。そこから某CMソングとしてもおなじみの“Save Your Soul”へ、オーセンティックな歌物が続いたところで“Frontin'”が始まる。グランドピアノの鍵盤ではなく蓋やボディを叩いて即興でビートを作り、ヴォイス・パーカッションをそこに被せでファンキーなグルーヴを生んでいくこの曲だが、何が凄いってそのままシームレスでダフト・パンクの“Get Lucky”まで披露してしまったことだ。しかもその全てをジェイミーがたったひとりでやってのけるのだ。何も無いところから音楽が生まれる瞬間の、原初のスリルにわくわくさせられる体験だった。

ジェイミー・カラム @ Bunkamura オーチャードホール
ウッドベースとサックスがふんだんにフィーチャーされたインプロ色の強いいわゆるジャズ・ナンバーから、ピアノ・ロックやシンガー・ソングライターの系譜に繋がるメロディ・オリエンテッドなポップ・ナンバー、はたまたこの“Frontin'”のようにジェイミー・カラム個人の独創性が光りまくるユニークなナンバーまで、彼の歌には様々な顔があり、その様々な顔に合わせてパフォーマンスの方向性もくるくる変化する。ジェイミーのライヴはまるでおもちゃ箱のようだ。164センチと小柄な彼が、演奏し終わるたびにドラムスティックやらカウベルやら譜面やらをポイポイとほうり投げていく様も、まるでおもちゃの国、夢の国で遊んでいる子供みたいに見えてくる。しかもその無邪気な有り様と裏腹に、演奏も歌声も天賦の才能にしてスーパー・プロフェッショナルとしか言いようがないのだから凄い。

ジェイミー・カラム @ Bunkamura オーチャードホール
「アリガトーゴザイマシタ! 次は学生時代に全然イケてなかった奴がピアノで有名になるって歌。えーっと、あくまでフィクションだからね、僕のことじゃないから(笑)」と言って“When I Get Famous”へ。総立ちで揺れる客席の後ろまで見渡したいのか、ジェイミーはグランドピアノによじ登り、ピアノの縁上でぴょんぴょん飛び跳ね(凄いバランス感覚)、ハイジャンプを決めて飛び降りたと思えば今度はバスドラに駆けのぼるという、ショウマンシップなのか何なのかわからないけれど、とにかく身体から湧き出るエネルギーに突き動かされるようにステージを走り回っている。本編ラストは“Don't Stop the Music”。ジェイミーが「I'm makin’ my way over to my favorite place」と歌いながら「ここ(日本)」が「favorite place」だと足元を指さすとわっと歓声が上がった。

アンコールは2回、ダブル・アンコールではジェイミーがひとり出てきてグランドピアノの前に座る。そして歌われたのがレディオヘッドの“High & Dry”だった。ここまでのパワフルでめちゃくちゃ楽しかった2時間が、まるでこの1曲に吸い込まれ集約されていくような、静かで、厳かで、そして信じられないくらい美しい幕切れだった。(粉川しの)
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