さよなら、また今度ね @ Shibuya eggman

さよなら、また今度ね @ Shibuya eggman - All pic by EISUKE ASAOKAAll pic by EISUKE ASAOKA
会場に入ると、そこにあるすべてのモニターに、渋谷悠(ドラム)が空き地かどこかでぴょんぴょんと跳ねている映像が流されている。延々と流されている。シュールだ。しかし、ふと笑いが漏れる。このシュールさがまた、さよなら、また今度ねというバンドの魅力のひとつだったりもするのだ。昨年9月29日、初のワンマンライヴで下北沢SHELTERを満員にした彼らが、今度はShibuya eggmanをソールドアウト。題して、『さよなら、また今度ね ワンマン「車弁償コンサート」』。こんなライヴタイトルからも、さよ今ワールドの片鱗をうかがうことができる。開演時間前には見事に埋まったフロアには大きな期待感が渦巻いている。こんな映像やタイトルも含め、このバンドの場合、ワンマンライヴでその世界観にどっぷり浸ることの気持ちよさや楽しさをみんな知っているのだろう。そんな空気から始まったこの日のワンマンライヴ。結論から言うと、いよいよ新世代ロックシーンのど真ん中に踊り出ようとするバンドがブレイクポイントを迎えた、貴重な瞬間となったのではないだろうか。ここにいたオーディエンスが「あの日、eggmanにいた」ということを誇りにする日も遠くない――そう思わせる素晴らしいライヴだった。

さよなら、また今度ね @ Shibuya eggman
開演時間を5分ほど過ぎた頃だろうか、BGMがプツリと途切れ、照明が落ちる。DREAMS COME TRUEの“大阪LOVER”をSEにして、菅原達也(ヴォーカル&ギター&キーボード)、菊地椋介(ギター)、佐伯香織(ベース)、そしておなじみのカエルのかぶりものをかぶった渋谷がニコヤカに手を振りながら登場。菅原は登場するなり、お菓子の詰め合わせをポイポイ投げている。もうこの時点で、ステージの上もフロアもみんな笑顔なのである。きっと前回のワンマンを超えたライヴを見せてくれるに違いない!と確信した瞬間だ。菅原の「行ってもいいかい、お客さーん!!」というひと言から雪崩れ込んだ“信号の奴”の一音目からよくわかる。バンドが大きく成長しているのだ。一人ひとりがかき鳴らす音は力強くなっているし、しかもそれぞれが固まればやはりバンドの音として完璧にひとつになっている。菅原はフロアの隅から隅までをしっかりその目で見て、時には一人ひとりを指さしながら煽っている。そして、とにかく4人の笑顔だ。音楽を鳴らすことに集中しながらも、彼ら自身がこの時間を心底楽しんでいることがこちらにまでビシビシ伝わってくる。

さよなら、また今度ね @ Shibuya eggman
「どんどん行くよ!」と間髪いれずに披露した“輝くサラダ”のあとにこの日最初のMC。「今日は全力を出します。曲も全部やります。今まででいちばん長い演奏になります」という嬉しい知らせにフロアから喜びの声がわき上がる。そんな会場のテンションを受け、さらに緩急を織り交ぜ、観客の感情にうねりを起こす“ジュース”“いいわけの鉄拳”“窓娘”を連投したあと、汗びっしょびしょの菅原が「今日、ほんと楽しい!」とひと言(佐伯には「顔がテカテカすぎる」と怖がられていたが)。菊地も「楽しい~」と笑顔を見せる。続く、“素通り”がまた素晴らしく、独自の浮遊感が印象的なメロ部分と、4人が全力で楽器を掻き鳴らすラストのリフレインのコントラストがよく映えていた。

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「アコギ弾いていいかい?」(菅原)ということで、ここからはアコースティック形式。菅原と菊地がアコースティックギター、佐伯がピアニカに楽器を持ち替えている中、「みんなが準備してる間に誰が喋るのかというと……!?」となんと渋谷がステージ前方へ躍り出る。前列3人の前にあるマイクからマイクへなぜか次々と移動しながら、道端で見つけたおむすびのようなかたちの石ころの話をして場を繋ぐ――のだが、その話を遮るように3人は“かわいいくまさん”に突入(笑)。会場からは笑いが起こる。なんともいい雰囲気である。タンバリンをシャンシャン叩き鳴らしながらステージを練り歩き、飛び跳ねたりしている渋谷の妙なテンションに、3人は思わず笑っているし、徐々に動きが鈍くなっていく渋谷には菅原がすかさず「お前疲れてないか?」とツッコミを入れる。「♪かわ~いいくま~……カエルかー!!! イエーー!!!」なんてオチもばっちり決まったら、続くのは菅原いわく「お涙ちょうだいの曲」という“うわあああん~第2の思春期~”だ。渋谷が吹くカズーから始まったこの曲は、アコースティックで聴くからこそ、「僕はこの人と、たぶん幸せにはならない」という歌詞が象徴する憂いが色濃く浮き彫りにされる。菅原も思わず、「自分で唄ってていい曲だなあって……」と漏らすのであった。

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アコースティックセットを挟んで、ここからは後半戦に突入(映画『タイタニック』の2本組VHSをネタにしたMCも最高だった)。さよ今きってのハイスピードナンバー“瑠璃色、息白く”では菅原がハンドマイクで煽る煽る。「もっとこーい!!!」という菅原の叫びに、どわーっと拳が上がる。フルスロットルでスタートした後半戦、次に披露されたのは“Q”。年末に期間限定公開され、この日の来場者全員にMV収録のDVDがプレゼントされた新曲である。キーボードが奏でる極彩色のフレーズが印象的なこの曲は、今のさよ今が描く、「メッセージ」のすべてが詰まったような曲だ。性急なビートに乗って、「日常の憂い」や「あの子の振る舞いや笑い顔」が喚起する喜びが歌われ、やがてその歌詞世界は世の中の理を射抜く次元にまで高まっていく。

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「新曲やっていいですかー? ワンマンで新曲披露なんてやらしいけど!」と披露されたのがまっさらの新曲“ミルクアイス”。もちろんこの日が初披露である。バンドの公式ホームページで、この日のライヴで新曲を初披露すること、さらにその新曲はさよ今史上初の試みが仕掛けられた「秘密兵器」であることがアナウンスされていたが、その「秘密兵器」とはなんと、佐伯と菅原によるツインヴォーカル、ということだった。佐伯がソロでヴォーカルを務める部分もある。というか、曲の初っ端からそうなのである。オーディエンスももちろん大喝采である。「練習してると、菅原くんが『ここ俺唄うわー』って言ってきたり、マイクに近づいていったりするんですよー。もしかしたら私が唄うのは今日が最後かも(笑)」と佐伯は直前のMCで言っていたけれど、彼女の歌声は凛としていて本当に頼もしかった。と同時に、彼女らしい弾けるようなキュートさも全開。菅原との掛け合いも楽しく、ハーモニーも完璧。アイスクリームをめぐる微笑ましい恋の風景に天真爛漫な躍動感が生まれる。繰り返しになるが、佐伯のまっすぐでよく通る声がよく映える、さよ今の新たな、最高の武器になる曲だ。「ありがとうございます! どんどん盛り上がってよろしいかなあ~?」という菅原が奏でるのはスタッカートの効いたピアノのストローク。代表曲“僕あたしあなた君”をここで投下である。イントロのあとの「ハイハイハイハイハイ!」パートでは、会場全体から数百の手のひらが挙がり、一体となった大合唱が巻き起こる。会場の盛り上がりはこの日のマックスを記録し、「楽しめ楽しめ! せっかく来たんだからよ!」という菅原のアジテーションに誘われ、本編ラストの“ギンビス~頭3才未満の唄~”に突入! 菅原と佐伯が交互にシャウト寸前のハイテンションヴォーカルを炸裂させる。菊地のフリーキーなフレージングが、そして渋谷のぐっとタイトになったドラムがこの爆裂チューンにさらなる快感を注入していく。坂道を転がっていくようにガンガン勢いを増していくバンドサウンドが、熱を上昇させたフロアに叩きつけられる。絶頂を迎えたオーディエンスに、菅原がひと言――「ライヴってだいたいアンコールっていうシステムがあるからね(笑)。一旦ひくわ」。本編のラストも実にさよ今らしい。

さよなら、また今度ね @ Shibuya eggman
ということで、アンコールを求めるクラップに応えて4人が再びステージに登場。佐伯と渋谷は、佐伯がイラストを手がけたという新しいバンドTシャツを纏っている。この100枚限定のバンドTシャツについて、佐伯はとても不安そうである。「ちゃんと100枚売れるかな……」とのことだが(何人に一人が買えば売りきれるのかまでちゃんと計算していて本当に不安そうだった)、観客のリアクションはとても温かい(実際、Tシャツはほぼ売り切れたらしい)。そんな等身大のMCで大きな拍手をさらったあとは、その佐伯がアコースティックギターに持ち替える“in布団”。そして、「最後の曲やっていいですか? まだやってない曲あったよね?」と菅原が語り、オーディエンスも大声援で応戦。“踏切チック”である。心なしかいつもよりテンション高く、スピード感が増幅しているように聴こえる。会場も揺れる揺れる。手がいくつも挙がり、前後に激しく揺らされる。ビートに合わせて、観客の体が前後にガンガン揺らされる。そして、アンコールは終了。

さよなら、また今度ね @ Shibuya eggman
アンコールの最後の最後まで、4人はフロアの隅から隅までをしっかり見渡して、一人ひとりと目を合わせるようにしてニコニコ笑っていた。ステージに立つミュージシャンが音楽を楽しむ、それが伝播してオーディエンスのテンションもさらに上がる、という多幸感に満ちた空間がそこにはあった。この空間がもっともっと広がっていくことに期待したい。(RO69編集部)

セットリスト
01.信号の奴
02.輝くサラダ
03.ジュース
04.いいわけの鉄拳
05.窓娘
06.2秒で手に入る
07.早苗とギター
08.素通り
09.かわいいくまさん
10.うわあああん~第2の思春期~
11.瑠璃色、息白く
12.Q
13.砂かけられちゃった~関くんへ~
14.ミルクアイス
15.僕あたしあなた君
16.ギンビス~頭3才未満の唄~

(ENCORE)
17.in布団
18.踏切チック
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