アリス・イン・チェインズ @ 新木場STUDIO COAST

単独公演としては、1993年以来、実に21年ぶりの来日となったアリス・イン・チェインズの今回のジャパンツアー。なにせ「21年」である。グランジ/オルタナ・シーンの雄として、1990年のデビュー後、ダークでヘヴィなサウンドを特徴に、シアトル出身のバンド勢のなかで最初の大ブレイクを果たしたアリス・イン・チェインズ。だが、カリスマ的存在のヴォーカリスト、レイン・ステイリーのドラッグ禍により、絶頂期にライブ活動の継続が困難になり、そのまま2002年のレインの他界で活動休止に至った悲運のバンドでもある。そんなアリス・イン・チェインズに新ヴォーカリスト、ウィリアム・デュヴァールが正式に加わって、まさかの復活を果たしたのが2006年。同年、音楽フェス「UDO MUSIC FESTIVAL」に参戦するため来日も果たしているが、フルレングスの単独ステージとしては93年以来の2度目というわけである。

今ツアーは、ウィリアム加入後の復活作『ブラック・トゥ・ブルー』(2009年)に続く、最新アルバム『ザ・デヴィル・プット・ダイナソーズ・ヒア』(2013年)を引っさげての来日である。いわば、新生アリス・イン・チェインズの全貌が明らかにされるライブという、もう1つ大きなポイントも備えている。レインのヴォーカルを愛したファンには、未来への期待であるとともに、一抹の不安も残るところだったかもしれない。

会場が暗転し真っ暗闇のなか、メンバー4人がゆっくり登場。そしていきなり『ダート』の1曲目であった“Them Bones”でスタートすると、フロア全体が大きな渦を巻いて動き始めた。曲冒頭の「アー!、アー!」という悲鳴のようなシャウトにあわせ、早くも会場から大合唱が巻き起こる。奇数拍子のリズムを交えた地を這うようなドラムと、重々しいギターリフ、呪術的ともいえるボーカルメロディ。地底と天上を行ったり来たりするアリス・イン・チェインズのダイナミックな音楽世界に叩き込まれるこの感覚。みんなこれをずっと待っていたんだな、と思わせるに十分な轟音の魅力だ。アルバム『ダート』の収録順そのままに、2曲目に“Dam That River”を間髪入れずに演奏。さらに3曲目“Again”へと続くヘヴィなロックンロールの連打で、嫌も応もなく体が反応し、動き出してしまう。“Dam That River”を間の歌詞にあるように、巨大な奔流が押し寄せるがごとき圧倒的な音圧とグルーブ感に、会場すべてが飲み込まれていった。

この日はこのあと、過去のベストヒット的な有名曲を柱にしつつ、ウィリアム参加後の新曲を中盤に固めた構成でライブは進行していった。セットリストでいくとM4~M7とM14の5曲が、アルバム『ブラック・トゥ・ブルー』と『ザ・デヴィル・プット・ダイナソーズ・ヒア』に収録されている新曲となる。2006年の「UDO MUSIC FESTIVAL」以降に作られた曲だから、当然今回が、ライブでは日本初お披露目である。“Check My Brain”ではジェリー・カントレルがギターをレスポールに持ち替え、重低音リフを、間を思いっきりタメながら弾き始めた。“Hollow”や“Stone”では今度はマイク・アイネズがベースをゴリゴリと唸らせる。「おっ何か新しい!」と感じると同時に、這い上がってくる野太いリフと、巨獣の歩みのようにウネるヘヴィネスは、間違いなくアリス・イン・チェインズのものとなっている。新曲は過去の有名曲と横並びで演奏されても、違和感は(筆者には)まったく感じられず、むしろパワフルで展開力に富んだアリス・イン・チェインズ・サウンドが聞けてうれしかった。

そしてヴォーカル、ウィリアムの歌唱力である。“Check My Brain”“Hollow”“Last Of My Kind”での、低域から中高音域までカバーする伸びやかでパワフルなヴォーカリゼーションは、彼独特のもの。ワイルドな風貌と黒豹のようなタイトな身体で観客を煽る姿も、バンドに躍動感を与えていた。「レインのヴォーカルでなければ、アリス・イン・チェインズではない」という根強く吹き続ける逆風を、2006年の加入以来、全身で受け止めてきたのが、誰でもないウィリアム自身であったはずだ。それでも努力と前進を諦めず貫き通した姿勢は賞賛すべきだと思う。いま彼は、新生アリス・イン・チェインズのヴォーカルとしての説得力を持ち、バンドの重要な一部になっている、そんな印象を強くした。

この日、最高の盛り上がりとなったのは、やはり“Man In The Box”から始まった初期名曲を畳み掛ける後半戦だった。アリス・イン・チェインズにとって最初のヒットとなり、存在を世に知らしめた記念碑“Man In The Box”では、演奏をかき消すほど耳をつんざく観衆の大合唱とハンドクラップが鳴り止まない。デビューEPにも収録された最も古い楽曲の1つで、バンドの基本姿勢を「転がるように落ちて、落ちて。急ぎ過ぎれば、若死にする」と歌った“逆勝利宣言”ともとれる“We Die Young”では、ジェリーの存在感のあるギターソロが炸裂。“Nutshell”“No Excuses”のアコースティックな2曲では、彼らの別な魅力である繊細なメロディと哀愁に誘われ、幻惑的なコーラスに酔いしれた。また“Grind”は海外ではよく演奏されているが、日本では今までほとんど演奏されたことのない曲で、その意味でも貴重な瞬間だった。来日に合わせ、招聘元のクリエイティブマンがオフィシャル・ツイッターで行なった「ジャパンツアーで観たい曲、大募集」という企画でも、“Grind”はファン投票3位になっていたので、プレゼントとしてアリス・イン・チェインズがセットリストに加えてくれたのかもしれない。“Love, Hate, Love”のラスト、ヴォーカル最大の見せ場である大絶叫で、本編は終了。テンポのきわめて遅い重量級のこの曲によって、アリス・イン・チェインズの最深部に到達。そのヘヴィネスに頭の先までどっぷりつかり、体の芯まで満たされ、全身を貫かれる快感を堪能した。

ジェリーがヴォーカルを取る“Got Me Wrong”で始まったアンコール。ステージで終始リーダーらしい圧倒的な存在感を放ち続けた彼。一方、ウィリアムはレインの歌に敬意を払いつつ、決して萎縮することなく伸びやかな声を響かせ、ベースのマイクは安定感抜群にバンドを支えた。そして、ステージで一番寡黙なドラムのショーン・キニーは、実はライブ最初からバスドラムに大きく「LSMS」という文字のメッセージを掲げ続けていた。レイン・ステイリーとマイク・スターの頭文字をあわせたものだ。初代ベーシストのマイク・スターは93年にAICを脱退後、やはり薬物中毒に苦しみ、2011年に他界。亡くなった友人2人も、いま一緒にここにいるというショーンの思いに胸が締めつけられる。最終曲は名曲“Would?”に続いての“Rooster”。この日、会場に足を運んだ人のなかには、アリス・イン・チェインズがなぜグランジの巨人でありつづけるのか、その足跡の大きさを改めて痛感した人もいたのではないか。ジェリー・カントレルは終演時「シー・ユー・スーン、OK?」といって去っていった。この言葉に期待しないではいられない。(岸田智)

セットリスト
M1. Them Bones
M2. Dam That River
M3. Again
M4. Check My Brain
M5. Hollow
M6. Last Of My Kind
M7. Your Decision
M8. Man In The Box
M9. Grind
M10. It Ain’t Like That
M11.Nutshell
M12. No Excuses
M13. We Die Young
M14. Stone
M15. Love, Hate, Love
En1. Got Me Wrong
En2. Would?
En3. Rooster
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