androp @国立代々木競技場・第一体育館

androp  @国立代々木競技場・第一体育館 - pic by Rui Hashimoto(SOUND SHOOTER)pic by Rui Hashimoto(SOUND SHOOTER)
 アルバムタイトルの頭文字をバンド名andropの順に並べてきた彼らの、ラスト・ピースにあたる「p」を担う作品。それが3月5日にリリースされた『period』だった。「やっと『period』というアルバムを出して、バンドとして機能した。これからどんなところでも行けるような気がする」とライヴ後半に内澤崇仁(vo/gu)が述べていたとおり、ミニアルバム3枚とフルアルバム3枚というボリュームを費やしてようやく彼らは自分たちとは何かを自ら理解し、それを外界に向けて正しく伝える準備を整えたのだ。そんな途方もないスケールの全貌をついに現わしたバンドが、悠々とこの大会場を飲み込んだ、圧巻にして渾身のライヴ。それがこの記念すべきandrop初のアリーナ単独公演「androp one-man live 2014 @ Yoyogi National Stadium Yoyogi 1st Gymnasium」だった。

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 定時を少しまわり会場が暗転し、ステージを覆うしばし映像の投射を受けていたスクリーンが切って落とされると、ピンライトに照らされた内澤が『period』のオープニング・ナンバー“Singer”を歌い出す。その凛とした歌い様に聴き惚れていると、コーラスに入った瞬間、突如凄まじい光量が会場全体を照らし出し、オーディエンスとバンドの顔が合わさる。ユーフォリックな曲調も相まり、曲間の内澤の「代々木!準備はいいか!」というアジテートでやっとこれは1曲目なのだと我に帰る、感動的な演出だった。続く2曲目“RDM”では、早くも登場した乱反射するミラーボールとともに演奏のギアも一気に上げられる。快楽的なビートに導かれるように、フロアも一斉に踊り始める。かと思えば、間奏ではプログラミングと生音をゴツゴツとぶつけながらコズミックなまでの情報量を叩き出すandrop。なんとダイナミックで、美しい演奏だろうか。熱を高めながら、3曲目“Boohoo”では前田恭介(Ba)がぶっといグルーヴを練り上げ、イントロから既に大歓声が上がる。この音数の多いキラー・チューンが明らかにしたのは、会場の音響および音量バランスの良さ。つまり、恐らくメンバーとスタッフが丹念に磨き上げたのであろう、演奏場所として完璧なコンディションにまで整えられた国立代々木競技場・第一体育館の姿だ。全速力のスタートダッシュはまだ止まらない。4曲目は、高速BPMの中で込め得るだけの変則的なフレーズを詰め込んだような獰猛極まるオケと、メロコア調の爽快な歌メロとの歪なミクスチャーがオリジナリティを生む“Lit”。この曲、音圧の1点において、音源からの飛躍が相当あった。『period』が出てからわずか1カ月弱、このライヴ・バンドにとってそれは充分に進化に足る時間なのかもしれない。5曲目は”Bell”。曲調としてはやっと落ち着きを見せたものの、伊藤彬彦(Dr)がシンバルを一叩きする度にアドレナリンが分泌され、フロアの熱狂はまるで収まらない。問答無用のロックの衝動と興奮が確かに今ここに宿っているのだ。

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androp  @国立代々木競技場・第一体育館 - pic by 太田好治pic by 太田好治
 ここで最初のまとまったMCが入る。この大会場でライヴをするにあたっての感動と感謝を述べた後、「どんなに遠くにいる人に届くように歌うし、演奏する」と言った内澤。その言葉に応えるように、そこから鳴らされた“Colorful”~”Nam(a)e”といった初期の楽曲に対してもアリーナ後方、一階席、二階席を問わず会場中に埋まったオーディエンスからハンドクラップが巻き起こる。いつファンになったかに関係なく、バンドが歩んだ5年間への愛を持って各々がこの場に集まっていることが伝わってくる。
 ライヴ中盤で目を引いたのが、彼ららしいライティングの演出。”Bright Siren”では、リリックに合わせ「NE」、「ME」、「YOU」などの文字がバックスクリーンにフラッシュライトで映し出されたと思えば、サビでは巨大なスクリーン一杯を真っ白にライトアップし開放感を描くという、会場の規模を活かした演出があった。また次の“Puppet”では、モノクロの世界の中で糸が様々な形を成しながら天に伸び続け、途中でもう1本の糸と出会っては離れるというアニメーションが楽曲の世界観を増幅し訴えかけていた。しかし、曲の魅せ方の面では、続く“Light along”こそ白眉であったように思う。佐藤拓也(gu/key)がピアノ、内澤がアコギを持って演奏されたこの曲では、全編ほぼライティングの演出が無かったのだ。いや、演出が無いというより、このタイミングでこの照明の下で歌うことが、このシンプルで美しい曲を最もダイレクトに伝えるための演出だったのだろう。この曲の感動を導いたのが無論偶然ではなかったことは、一声一声、一音一音を噛みしめるように大切に音を紡ぐメンバーの立ち振る舞いが物語っていたように思う。

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 佐藤の「4人が1万人に向けて音を放つのではなくて、4人が1人に対して音を放つのが1万通りあるような、そんな気持ちでやる」という宣誓から始まった後半戦も、“Under The Sun”~“Pray”~“Roots”とアップテンポのナンバーを畳み掛け、容赦なくフロアを着火していく。そして、さらに油を注いだのが、新譜からの“Sensei”。ささくれ立ったギターリフ、プログラミングと交差する機械的なドラムビート、激しく歪んだベースが有機的に絡み合ったスタイリッシュなダンスナンバーだ。しかし、これだけアクの強いアンサンブルを成立させている曲においても、あくまで歌が張っているところが面白い。例えば、昨今の英米ではダブステップを咀嚼し、入り組んだリズムアプローチと清潔感(潔癖感と言ってもいいかもしれない)の際立ったサウンドプロダクションとの組み合わせがインディ・バンドの1つの潮流としてあるが、andropも2010年代を突き進むバンドとして、そこに合致する要素を多分に持っている。だが、そういった多くの海外の雄たちが歌をリズムの上に流れるひとつの「音」として扱っているのに対し、andropは熱心に組んだオケをあくまで歌の一部として位置付けている。全曲に通低するこの構造こそがこのバンドの特異な点であり、特異でありながら海の向こうにさえ「逆にこれが正解だ」と突きつけるような完成度=説得力を手にしているのだ。

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 ライヴ終盤のクライマックスでは、原色のピンライトの雨→オーロラのようにたゆたうホワイトライト→高速回転するミラーボールと目まぐるしく展開するライティングと繊細なバンド演奏とが混然一体となり、ここにしかないレイヴ空間を現出させた“World.Words.Lights.”から始まった。そこからシームレスにストロボの連射をもって繋げられた“MirrorDance”では、フロアが狂騒的な一体感に包まれる。過去に他の会場でこの曲がそう機能してきたのと同様に、ここに1万人以上の人間がいることとは関係なく、全員が一斉に跳ね上がり、アンセムとしてのポテンシャルをまたも証明することとなった。しかし、まだここがピークではなかった。実に21曲目に演奏されたのは、彼らとしてはやや珍しい直線的かつ明朗なロックンロール“One”。曲の途中、いくつかの巨大な風船がフロアに舞い落ちる。しかも、それが割れると、中に無数に入っていたバンドロゴがプリントされた通常サイズの風船が現れるという二段構えの演出。その風船を掲げ、「ラーラーラ」というコーラスに声を揃えるオーディエンスと、その無垢な想いを吸い上げるように一層疾く駆けるバンドの演奏。ステージとアリーナの垣根を越え、確かに全てが1つになっている。そう名言できる光景だ。そして、本編ラスト。やはりここにピークがあった。曲はもちろん、“Voice”だ。『period』においては、コーラスを引用することで導入の役割も果たしていた“Singer”が最初に、そしてこの“Voice”が最後に鳴らされることで、今日のライヴに一本筋が通る。それはつまり、ここにいる人間全員が「歌い手」であり、「声」の中で1つになるのだという思想である。そして内澤の「こんなもんじゃねーだろ!行くぞ、飛び跳ねろ!」という剥き出しの叫びに呼応するように、声量を増すフロアからの合唱。1万人以上の声が1つに合わさるとこれ程美しい音になるという事実に、単純に胸を打たれる。そんな奇跡を祝福するように、コーラスの度にものすごい量の紙吹雪が噴出される。メンバーもオーディエンスも、スクリーンに映る全ての人間が笑顔だ。歓喜の極点。非の打ちどころがないハッピーエンドだった。

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 しかし、今日のライヴにはまだ続きがある。極上のエピローグとしての、アンコールが。1曲目は、内澤が初めて歌を教わった恩人であるボイストレーナーが、andropを結成して最初の作品『anew』を出す2カ月前に病で亡くなってしまったことに対して書かれた“Missing”。失うこと、失ったものが二度と戻ってこないことを綴ったリリック、それをまるで泣き叫ぶようなファルセットによって突き刺していく。1度1つになった1万人が、1万の個に戻り、歌の意味を受信する。ロックという甘美な魔法が、万能でも永遠でもない、ただの瞬間を彩る夢であることを伝えずにいられなかったのだろう。andropは、どこまでも誠実に、この魔法の中を生きている。そして、そんなバンドだからこそ、彼らがこれから綴る物語は我々にとっての一生モノになるかもしれない。……そんなことを考えていたら、メンバー4人すっかり終演モードでオーディエンスをバックに記念撮影をしている。しかし突如内澤が「もう1曲やってもいいですか?」とスタッフに尋ね、彼ら4人が最初に合わせた曲だという“Image Word”が演奏されるという嬉しいサプライズが。“Voice”という到達点と、“Missing”、“Image Word”という2つの原点を共に再確認し、andropはまだまだ先に進むのだろう。次の予定として、全国5大都市をまわる「one-man live tour “period”」も発表された。その先をまだまだ味わえる喜びを、今はただ噛みしめていたいと思う。(長瀬昇)

セットリスト
1. Singer
2. RDM
3. Boohoo
4. Lit
5. Bell
6. Colorful
7. Nam(a)e
8. Plug In Head
9. Six
10. Tonbi
11. Bright Siren
12. Puppet
13. Light along
14. Under The Sun
15. Pray
16. Roots
17. Sensei
18. Human Factor
19. World.Words.Lights.
20. MirrorDance
21. One
22. Voice

アンコール
23. Missing
24. Image Word
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