俺たちのディスコグラフィを聴いても、これが全部ひとつのバンドの曲だって信じられない人もいるかもしれない。それくらい、いろんなことをやってきたから。でもそれがこのバンドのいいところだよ(マシュー)
ポスト・ハードコア〜エモ/オルタナから幾多の変遷を遂げた先に広がる、ハイブリッド&メロディアスな至高のオルタナティブの地平――。アルバム・デビューから作品ごとに大きく音楽的な変化を重ねてきたデフ・ハヴァナの10年間の足跡は同時に、「ライアン(Vo)脱退とそれに伴うスクリーミング・スタイルからの脱却」、「『Old Souls』(2013年)リリース後の金銭問題とバンド内のトラブル」など数々の危機と背中合わせのものだった。が、最新アルバム『Rituals』(2018年)の透徹したポップの景色は、その進化の正しさを何より雄弁に物語っている。
サマーソニック幕張出演&8/15代官山SPACE ODD単独公演で実に7年ぶりの来日が実現したデフ・ハヴァナ。バンド自身の10年史を振り返る彼ら4人の発言から、その唯一無二の在り方が明確に浮かび上がってきた。
インタビュアー:高橋智樹
●『Meet Me Halfway, At Least』(2009年)でのアルバム・デビューから、今年の10月で丸10年を迎えます。メンバー・チェンジや『Old Souls』後の危機など、数々の局面を乗り越えてきたデフ・ハヴァナのこの10年間――マシューさんは途中加入ですが――をひとことで表すとしたら?
マシュー・ベック・ギロディ(G、以下マシュー)「『長かった』だね!(笑)」
トム・オグデン(Dr、以下トム)「『難しかった』」
ジェームズ・ベック・ギロディ(Vo/G、以下ジェームズ)「『達成感もあるけど、つらい時もあった』っていう感じかな」
リー・ウィルソン(B、以下リー)「『戦い』だったね」
マシュー「実際、つい最近も『ずいぶん長くやってきたな』って感慨にふけったばかりだったし。今だから、『バンドを続けてきて、いろんな時期があったな』っていうのを少し引いた目線で振り返ることができる。それだけ長くやってきたってことだよね」
トム「とにかくいろんなことが起きたからね。メンバーの脱退とか、あとは前のマネージメント会社と争ったりとか。この10年、本当に一筋縄ではいかなかった。今はすごくいい状態だけど、一時期はバンドを続けていけるかも怪しくなったこともあったし。そういう時期を切り抜けるのは大変だったよ」
ジェームズ「最初のころはカネもなかったし、やっぱそういう部分のつらさが大きかったよね。寝る時間もなかったりするし。でも、仲のいい連中とあちこちに行って、自分たちの曲を演奏して、ビールを飲んで、うまいもん食べて……って、いろいろあったけど、楽しいことの方が多かったかなって思う。とはいえ、時々ガツンと落ち込むこともあって、浮き沈みが激しいんだよね(笑)。最高の時と最低の時の差がすごかった」
マシュー「悪いことの方が強烈に記憶に残るから、その時に感じていた以上に悪かったように思えるんだろうな」
ジェームズ「うん、それはあるね。で、俺が『達成感』って言ったのは、これだけいろんなところで自分たちの音楽を聴かせられたことだよね。始めたころは、世界中を旅して、こんなに素晴らしい人たちと会えるなんて思ってもいなかったから。悪いこともあったけど、いいこともたくさんあったよ」
●日本はどうですか?
ジェームズ「日本は大好きなんだ。戻ってこられてうれしいよ」
●デフ・ハヴァナはそれこそ1stのスクリーモ~ポスト・ハードコア系のサウンドから、最新作『Rituals』まで、作品を重ねるごとに音楽的変遷を遂げてきましたし、ストリーミング・サービスで過去作品を聴いて驚いているリスナーも少なくないと思います。そんなデフ・ハヴァナのディスコグラフィを今改めて俯瞰して感じることは?
マシュー「我ながら面白いなと思うよ。いい意味で落ち着きがないよね。自分の音楽の聴き方とか、好きなバンドとかにも影響を受けているんだと思う。曲を聴くだけで、『ああ、このスタイルっていうことは、あの時期の曲だな』ってわかるようなバンドが好きなんだ。決まったスタイルを守るんじゃなくて、どんどん変わっていくところに面白さを感じるから。俺たちのディスコグラフィを聴いても、これが全部ひとつのバンドの曲だって、とても信じられない人もいるかもしれない。それくらい、いろんなことをやってきたから。でもそれがこのバンドのいいところだよ。個人的には、すごく誇りに思ってる」
●バンドを始めたころから、そういう姿勢だったんですか?
ジェームズ「いや、当時は他にやることもないし、『じゃあバンドでもやってみるか』っていうだけだった。だから、自分たちが聴いていた音楽っていうことで、スクリーモをやったんだ。14歳とか、ガキのころはそれで良かったんだけど、もっと大きくなると、あの手のエモい音楽って全然つまんないじゃん、っていうのに気づいてしまって(笑)。それで方向を変えたんだ。最初は、ただ楽しくやりたいっていうことしか考えてなかったな。そういうところは、今でも変わらないけどね」
●また逆に、そんな音楽的変遷の中でもデフ・ハヴァナがこの10年間、楽曲や表現において変わらず貫いてきた、最も重要なものを挙げるとすれば?
トム「歌詞だね」
ジェームズ「1st(『Meet Me Halfway, At Least』)だけは違うけどね」
トム「うん、1stは別のメンバーが書いてたから。でもジェームズが歌詞を書くようになってからは、デフ・ハヴァナらしさっていうのが貫かれてると思う。歌詞以外の要素はいろいろ変わってきているけど、歌詞のスタイルは変わらないね。描かれてるストーリーとかは、実際にあった出来事に基づいているけど、それを驚くような形で、歌詞に表現している。これは本当に今までもこれからも守っていきたいものだと思うよ」
ジェームズ「バンドを始めた時は、俺はメイン・ボーカルじゃなくて、スクリーム担当のやつが別にいたんだよね(ライアン・メラー、2010年に脱退)。そいつが歌詞も書いていて、俺とはまったく作風が違っていたんだ。結成当時から変わらないところっていうと、トムとリーと俺っていう、この3人がずっとメンバーだっていうことだね」
トム「歌詞も変わってないけどね」
ジェームズ「ああ、俺が書き始めてからは変わらないね」