フェイス・ノー・モアとアンテマスク、2夜限りのスペシャル・ギグ

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5月に18年ぶりのニュー・アルバム『ソル・インヴィクタス』をリリースすることを先頃発表したフェイス・ノー・モアが、2月17日(火)・18日(水)の2夜に亙り新木場STUDIO COASTにてアンテマスクとの2マンライヴを敢行した。アンテマスクにとっては昨年のサマーソニック出演以来、またフェイス・ノー・モアにとっては2009年の再結成後初の来日公演となった。

RO69では、両公演のオリジナルレポート記事を公開しました。

【フェイス・ノー・モア/アンテマスク @ 新木場STUDIO COAST】
2009年に再結成して以来ツアーを断続的に続け、ついにニュー・アルバムを完成させたオルタナティヴ・ロック最重要バンドのひとつフェイス・ノー・モア。衝撃的なマーズ・ヴォルタ解散から、一転して電撃和解を果たしたオマーとセドリックのアフロ・コンビによる新バンド=アンテマスク。この、あまりにも濃厚な個性を持った2バンドがセットで見られるという日本公演が実現した。しかもオープニング・アクトとして、オマー・ロドリゲス・ロペスがメキシコで発見した逸材テリ・ジェンダー・ベンダーのメイン・バンドであるレ・ブチェレッツも出演。テリはオマーとボスニアン・レインボーズとしてアルバムを出し、過去に来日もしているのでご存知の人も多いだろう。

構成の都合上、ブチェレッツは開場から開演時刻までの間にライヴを行なう形となったが、そんな状況も一切意に介さず、テリはそのユニークなキャラクターを爆発させた。一応セットリストを用意するものの、その通りにプレイすることはないという極めて即興性の高いパフォーマンスで、初日は"Demon Stuck In Your Eye"、"Boulders Love over Layers of Rock"、"Your Weakness Gives Me Life"などを、激しくも怪しい動作(ダンス?)とともに披露し、"I'm Getting Sick of You"ではフロアに飛び込み大暴れ。

さらに次の日は、前夜とまったく違う内容で、"Burn The Scab"や"The Leibniz Language"などに加え、他はどうにも聴き覚えのない曲、しかもダークな感じのナンバーを中心に演奏した。ふいにメキシコの誘拐事件に関する演説を始めたかと思いきや、それもまた即興を交えたような曲になっていき、最後はキーボードを持ち上げ、抱えながら退場。そんなテリの、とうてい枠に収まらない行動にピタリと追いつきながら、タイトでパワフルなプレイを提供するドラマーのリア・ブラスウェルとベースのクリス・コモン(※元ジーズ・アームズ・アー・スネイクスのドラマー)のリズム隊2人によるバックアップも見事だった。予備知識の無いまま目撃した観客も多かっただろうが、きっと少なくない人々の気持ちをつかんだことだろう。ぜひ単独再来日公演を実現してほしい。

続いてオマーとセドリック、不滅のコンビが新たに始動させたアンテマスクが登場。昨年ミッドナイトソニックに出演する形で本邦初お披露目は済ませているが、その時と同様に、深海を連想させる暗めの青のみに固定されたライティングの下、1曲目"In The Lurch"から熱く迸るような音を次々と放射していく。

たまに口を開くとMCは相変わらず意味不明で、ついでに体重もちょっと増加していた様子のセドリックは、傍らに加湿器とおなじみの専用ドリンクをセットし、初日こそ声が出切っていない印象もありつつ、2日目は万全の調子で、鋭いシャウトを聞かせてくれた。ドラマーのデイヴ・エリッチも、オマーより小柄な体躯からド迫力のドラミングを叩き出す凄腕で、このバンドの要になっていることを強く印象づける。ちなみにデイヴは、ソウルフライ、マストドン、ディリンジャー・エスケイプ・プランといった強面のメンバーが顔を揃えたキラー・ビー・キルドというバンドでもアルバムを作ったが、このあとのオーストラリア・ツアーでもアンテマスクに専念するそうだ(※同じフェスに出るキラー・ビー・キルドの方は、コンヴァージのベン・コラーが穴を埋めるという驚異の展開)。

4ピースというシンプルな編成からも分かる通り、マーズ・ヴォルタよりもグッとストレートなアンテマスクの音楽性は、さらにその前身であるアット・ザ・ドライヴ・インにも近いものを感じさせる。しかしオマーは、エモーショナルな疾走感を保ったまま、パンク的なリフ・ワークとプログレッシヴなテクニカル・プレイの両方を巧みに織り交ぜて弾きまくっているし、終盤の2曲"Providence"と"People Forget"、とりわけ前者では20分にわたるインプロヴィゼーションを延々と展開するなど、アンテマスクが統合的に新たなステージに進んでいるということは明白だ。個人的には、アット・ザ・ドライヴ・インとマーズ・ヴォルタの美味しいとこどりじゃないかと考えたりもするのだが、以前やってたバンドの人気が高すぎたためか、どうも現時点でのアンテマスクを中途半端に捉えてしまう人もいるらしく、インプロ部分を退屈と感じる人と、逆にそこが特に刺激的だという人とで反応が別れているようにも見えた。それでも、まだアルバム1枚しか出していない段階であるのと同時に、才能ある2人の、25年以上も続く友情に支えられているバンドなので、その未来をしっかりと見守っていきたい。

【アンテマスク SETLIST】
1. In The Lurch
2. Momento Mori
3. 4AM
4. I Got No Remorse
5. 50000 Kilowatts
6. Rome Armed To The Teeth
7. Domino Rain
8. Providence
9. People Forget

長めの転換を経て、すっかり白で覆われ、葬式がモチーフらしい花があちこちに飾られた舞台上に、いよいよフェイス・ノー・モアが登場。1日目は、5月にリリース予定のニュー・アルバム『ソル・インヴィクタス』から先行公開されたシングル、その名も"Motherfucker"からスタート。ところが、開始して早々にロディ・ボッタムのキーボードが故障するという非常事態が発生する。キーボード無しのまさにサプライズな状態で、バンドは"Surprise! You're Dead!"、"Digging the Grave"、さらには日本語も少し話せるというジョン・ハドソンのギター・ソロによる"さくらさくら"などで繋ぐが、どうにも機材は一向に復旧しない。ローディーが舞台上で険しい顔をしながらあちこちいじくりまわす姿を見せながらライヴが進行するという異常な光景が続く。

パットンの「バット、ショウ・マスト・ゴー・オン!」の掛け声とともに、時おりロディがサブの鍵盤でピアノ・パートを補ったりしつつ、どうにかライヴは進行していく。場合によっては中止になってもおかしくはないほどの事故だったが、そうはならず、しかも、どうしようもなく悲惨な事態には至らなかったことに驚くばかりだ。これは、キーボードのパートが別に重要じゃないというわけではなくて、バンドの状態が非常に良いことと、もともとの実力の高さ故に成せるわざなのだろう。セットリストには最初から5作目『キング・フォー・ア・デイ』収録曲が多く、このアルバムはロディが諸事情により制作に深くコミットできなかった作品だったという事実が、密かに助けになったのかもしれない。本編終了近くになって、とうとう鍵盤の音が出るようになった時には、大きな歓声と奇妙な感動までが沸き上がった。

そして翌日、完璧な状態が整ったライヴは、それはもう当然のように最高だった。この日は世界初お披露目となった新曲"Cone of Shame"からスタートし、早々にヒット曲"Epic"、中盤には大好きな"Midlife Crisis"、続けて大大大好きな"Everything's Ruined"なども演奏され、前日より密集した雰囲気となったフロアもいっそう熱い盛り上がりを見せた。

時おり「ハイドーモ」「オイシ」など日本語を交えたパットンのMCも、1日目はやや照れ笑いまじりのニヤニヤ感が先行していたが、この日は持ち前の毒々しさが絶好調。「温泉に行ったぜ、ちょっとリラックスして見えるかい? オーエドオンセンモノガタリィ!」「(good!の指サインを観客にさせながら)肛門」とか「ウンコ食え」など滲み出る狂気を振りまきつつ、ひとたび曲が始まれば、その硬軟も高低も変幻自在の声で、終始とてつもないレベルの歌唱を聞かせてくれた。

アンコールには、そんなパットンが心の底から尊敬するヒカシューの巻上公一が登場し、パットンのヴォーカリゼイションにも大きな影響を与えたヴォイス・パフォーマンスを披露。日本随一とされる彼のホーメイ(※トゥバ共和国に伝わる特殊な歌唱法)を、筆者は過去に何度も見たことがあるが、その独特の倍音がスタジオコーストのような大きな会場で巨大なスピーカーを通して鳴り響くのはいっそう特殊な体験で、フロア脇の関係者エリアからじっと見学していたセドリックも「この世のものとは思えない、真にインスピレーショナルなものを、俺は確かに見た!」といった感嘆の言葉をツイッターに投稿している。さすがのパットンも、この時ばかりはリスペクトに満ちた神妙な面持ちで巻上を見つめていたのが印象的だった。

今回のライヴを見てあらためて分かったのは、まず、再結成の必然性が当初あまりよく見えなかったフェイス・ノー・モアが、ここにきて非常にいい状態になっているということ。そして、そのモードは、1998年に活動を停止した時点から地続きであるということだ。解散前のフェイス・ノー・モアは、なかなかギタリストが固定しなかったり、他のメンバー同士の関係性もぎくしゃくしてきて、その結果として解散してしまったわけだが、傑作『エンジェル・ダスト』以降のバンド内における新たなバランスを、今こそ最良の形で達成しつつあるのではないだろうか。

というのも、2日間のライヴでメインのレパートリーとなっていた『キング・フォー・ア・デイ』および『アルバム・オブ・ザ・イヤー』のナンバーが、かつてよりも遥かに活き活きと魅力的に聴こえてきたからだ。そして実際に最新作『イル・ソンビクタス』は、その路線で練り上げられた傑作に仕上がっている。このあともフェイス・ノー・モアが順調に続いていってくれるなら、ジム・マーティン在籍時と同じではないが、その時期のファンをも納得させるレベルの音を生み出していくに違いない。(鈴木喜之)

【フェイス・ノー・モアSETLIST】
2/17:
1. Motherfucker
2. Caffeine
3. Get Out
4. Surprise! You're Dead!
~さくらさくら(ギターソロ)
5. Digging the Grave
6. I Started a Joke
7. Cuckoo for Caca
8. Evidence
9. Everything's Ruined
10. The Gentle Art of Making Enemies
11. Easy
12. Ricochet
13. Ashes to Ashes
14. King for a Day
15. Epic
En1. Last Cup of Sorrow
En2. Superhero

2/18:
1. Cone of Shame
2. Epic
3. Ricochet
4. Get Out
5. Last Cup of Sorrow
6. Evidence
7. Midlife Crisis
8. Everything's Ruined
9. The Gentle Art of Making Enemies
10. Easy
11. Cuckoo for Caca
12. King for a Day
13. Ashes to Ashes
14. Superhero
En1. Spirit (with KOICHI MAKIGAMI)
En2. Pristina

なお3バンドはこの後、オーストラリアで開催されるSoundwave Festivalへの出演をそれぞれ予定している。
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