第10回Hostess Club Weekender、初日の模様をレポート

第10回Hostess Club Weekender、初日の模様をレポート - pic by Kazumichi Kokeipic by Kazumichi Kokei

2月21日(土)・22日(日)の2日間に亙って新木場スタジオコーストにて開催中のHostess Club Weekender。RO69では、第10回を迎えた同イベントの初日となる21日(土)公演のオリジナルレポート記事を公開しました。

【Hostess Club Weekender(第10回・1日目) @ 新木場スタジオコースト】

ベル・アンド・セバスチャンとセイント・ヴィンセントをヘッドライナーに迎え、おなじみ新木場スタジオコーストで開催されている第10回Hostess Club Weekender。昨年11月の第9回は残念ながら開催中止となってしまったが、この第10回HCWは再びの大盛況となった。ソールドアウトした初日の昨日は、トップバッターのイースト・インディア・ユースから既にフロアはぎっしり超満員で、改めてHCWのオーディエンスのディープなインディ愛を証明するかたちとなった。実際、ベル・アンド・セバスチャンをヘッドライナーに据えつつも、この日のラインナップはギタポ一辺倒ではなく、むしろフリーキーでアヴァンギャルドなインディの最前線を占めるアクトがずらりと並ぶ刺激的な一日だったわけで、それはトップバッターのイースト・インディア・ユースが登場した瞬間から明らかだった。

イースト・インディア・ユースはデビュー・アルバム『トータル・ストライフ・フォーエヴァー』がマーキュリー・プライズにもノミネートされたウィリアム・ドイルによるソロ・プロジェクト。ラップトップやミキサーがずらっと並ぶデスクに囲まれ立つウィリアムは、スマートなスーツ姿にギターを背中に斜めがけ、というユニークな佇まい。アルバム音源を聴く限りミニマムな打ち込みで緩やかなオープナーになるかと思いきや、予想を大きく裏切るアグレッシヴなプレイで度肝を抜かれる。4つ打ちで煽り立てるテクノ、ハウスからダブ、エレクトロまで何でもあり、圧倒的に肉体の「ライヴ」であるのに驚かされた。随所でギターをさっと抱えて掻きむしり始めるのも格好良すぎた。2010年代らしい異才の登場を強く印象づける初来日ステージだったのではないか。

続くハウ・トゥ・ドレス・ウェルは、イースト・インディア・ユースとは逆に、ある意味で予想通りの異才っぷりだった。最新作『ホワット・イズ・ディス・ハート?』も大きな話題となったトム・クレルによるソロ・プロジェクトで、サイケデリック、クラシック、ソウル、ヒップホップとあらゆるジャンルが混ざり合ったエクレクティックなサウンドを持ち味とするHTDWだが、それがひとたびライヴに転じると、エモ・バンドかと思うような直情的で分かりやすいパッションが炸裂する。プリンスばりのスウィートなファルセットで聞かせるエレクトロ・ソウル・チューンから、ヘンリー・ロリンズばりのスタンドマイクに食らいつくような歌唱でナイン・インチ・ネイルズを彷彿させるダーク・インダストリアル・サウンドまで網羅したこの日のライヴだが、そのどれもが前のめりで、ポジティヴな情熱を介してプレイされているのが何より痛快だった。トムはMCにおいてもとても朗らかな人で、「日本に来る前にシンガポールでもショウをやったんだけど、こんなにお客さんはいなかったからね。今日のほうがずっとエキサイティングだよ。凄いバンドばかり出演するし、一緒にステージに立ててほんと嬉しい!」とニコニコしながら言っていた。

そんなHTDWはまさかの5分巻きで終了し、続いてはメリル・ガーバス率いるチューン・ヤーズの登場だ。先陣の2組と比べると、ここでまたがらっとムードが変わったのを感じる。圧倒されるのは各種パーカッションの楽しさと、メリルのヴォーカルとコーラスの掛け合いの楽しさだ。アフリカン・リズムからヒップホップ、はたまたポスト・パンクまで、くるくる表情を変えながら弾き出されるリズムと、ジャニス・ジョプリンばりのシャウトからラップ、フォークロアの音階をなめらかに行き来するエキゾチックな歌唱まで、こちらもくるくると表情を変えるメリルの歌、そのコンビネーションがまるで原初のお祭りのような興奮空間を生み出していくのだ。また、メリルとコーラスのコンビネーション、ところどころでチャント風になったり、輪唱になったりするそれを聴いて思い出したのは、ビョークの『バイオフィリア』コンサートだ。フロアでは縦ノリとも横揺れとも判断がつかない、ひとりひとり思い思いのリズムに乗って踊るオーディエンスが続出、クライマックスの“Water Fountain”では、そんなオーディエンスとの間でのコール&レスポンスもばっちり決まった。

そしていよいよトリ前、カリブーの登場だ。ベルセバの祝祭感覚を別格とするならば、この日最もスタジオコーストを白熱させたステージは間違いなくこのカリブーだった。冒頭でスモークが炊かれ、紫のライティングと相まって、文字通りパープル・ヘイズでドラマティックな空間が用意されるや、いきなりのキラー・チューン“Our Love”がスタートする。ブレイクビーツと生ドラム(+電子ドラム)の激しい応酬が一段、また一段と激しくなるこの曲の昂りに合わせ、フラッシュが目映く点滅を繰り返し、耳と目の両方からのっけから凄まじい刺激を受ける。ダン・スナイスによるソロ・プロジェクトであるカリブーだが、ライヴの主役はパフォーマンスの「心臓部」を担うドラムスで、ダン他のメンバーがドラムセットの周りに集うようなフォーメーションを取っている。メロウ&エレガントなヴォーカルがフィーチャーされた“Found Out”にせよシンセのレイヤーとエレポップなメロディーを持つ“All I Ever Need”にせよ、曲の終盤には必ず全開全力のカオスのスペクタクルが待っているのが凄い。ダンス・ミュージックにおけるピーク・タイムの演出にも似たそれにフロアのオーディエンスもまさに「きたきたきたああ!!」状態で煽られ、爆発していく。色とりどりの照明とフラッシュが焚かれるが、基本的にカリブーのステージはスモークで覆われていて薄暗い。でも、たまにアップライトが灯ってステージの彼らの姿が浮かび上がると、ダンたちの身体から白い湯気が立ち上っているのが確認できた。全身白で統一した彼らだが、上半身はほとんど汗だくなのである。それはフロアのオーディエンスも同じで、その熱気と興奮でスタジオコーストの湿度がぐんと上がったように感じた。“Odessa”、“Can’t Do Without You”とダンス・アンセムが立て続けに連打され、ラストの“Sun”ではトランス状態に突入したフロア、そしてついにはステージ上のダンまで踊り出す。終演後の未だ煙たいフロアでは興奮を確かめ合うオーディエンスの姿が。本当に、この後のベルセバへのモード・チェンジが難しく感じるくらい、完全燃焼のステージだった。

冒頭のイースト・インディア・ユースからこのカリブーまで、ここまでの出演陣は全てソロ、もしくはソロ・プロジェクトだ。バンドとして作った音楽をそのまま同じバンドが演奏するライヴとは異なり、個人のイマジネーションの産物である音楽が幾人もの手を介して昇華されるそれは、アルバム音源とはほぼ別世界の興奮を生むものだった。それに対して本日のラスト・アクト、ベル・アンド・セバスチャンは、再び「バンド」の世界へと立ち返るオーセンティックなパフォーマンスで、逆にこの日の流れの中で一番新鮮に感じられてしまったのが面白い。

約4年ぶりの最新作『ガールズ・イン・ピースタイム・ウォント・トゥ・ダンス』を引っさげてのステージ、注目はエレクトロ、ダンス、ファンクと新機軸てんこ盛りでファンを驚かせた新作のモードがどこまで彼らのパフォーマンスに影響を与えるか、という点だったわけだが、結論から言ってしまえば、ほとんど影響はなかった。むしろベルセバの普遍のメロディー、ちょっと内向きで頑固なピュアイズム、そして彼らのライヴならではのファンとの温かな交感や阿吽の呼吸の中に、『ガールズ〜』のナンバーがしっくり馴染んでいるのが素晴らしかったのだ。自然と巻き起こった手拍子に合わせてスチュアートが華麗にステップを踏む“I’m A Cuckoo”、60sなモッズ・ビートをタイトに刻む“Le Pastie De La Bourgeoisie”と、前半のダンサブルな流れの中に“The Party Line”もしっかりはまっている。唯一これまでにない1曲だと感じたのが、スティーヴィーがヴォーカル、スチュアートがパーカッションを担当した“Perfect Couples”。途中のファンキーな転調やフェイクがベルセバのライヴの世界観の中ではかなり異色で、スティーヴィーも「この新しい方向性、気に入ってもらえるといいけど」とちょっと不安げにいっていたのが面白かった。

“Piazza, New York Catcher”ではスチュアートが背中から客席にダイヴ、オーディエンスの頭上に担がれながらそれでも美しい歌声を聴かせ続けたのはさすが(最後ちょっと笑ってしまっていたけど)。そして「次の曲はリズムに合わせて手拍子してほしいんだ。スティーヴィーの真似をしてね」とスチュアートが言って始まった“Women’s Realm”以降は、何時でも何処でも変わらない、我々が待ち望んでいたベルセバ・ワールドがクライマックスに向けて広がっていく。ベルセバというある種の究極の「スモール・サークル・オブ・フレンズ」な世界、その価値観を共有し、共謀する場としてのライヴ、それは彼らの20年近い活動の中で、様々にサウンドが変遷してもなお変わらないものだ。「一緒に踊ろう!」とスチュアートが言って“A Summer Wasting”、そして“The Boy with the Arab Strap”では次々にファンがステージに上がり、恒例のダンス・パーティーと化していく。続く“Legal Man”ではチューン・ヤーズのメンバーもステージに登場して一緒に踊り始め、HCWのフィナーレとしても最高のムードになった。変わっていくものの興奮と、変わらないものの愛おしさ。その両方をヴィヴィッドに感じたHCWの一夜だった。(粉川しの)
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