【コラム】年なんて怖くない! 奥田民生が進む大人道とは?――『ヨルタモリ』を見て

【コラム】年なんて怖くない! 奥田民生が進む大人道とは?――『ヨルタモリ』を見て

「Don’t trust over 30 」という言葉がある。もともとは1970年代、アメリカのヒッピー文化の中から出てきた言葉だが、「30歳以上の大人を信じるな!」というそのムードは世界中の若者たちに広く共有された。日本も然り。そんな世代も、気がつけばあっという間に自分自身が若者にtrustされなくなる年齢になる。30歳以上の大人はすべて信じない、なんて本気で決めてかかって生きてきた若者がどれほどいたかはわからないが、大人になることは後ろめたいことだという漠然とした気分だけは、その後の日本にも長く残っているように思う。奥田民生の“イージュー★ライダー”は、いま思えばそんな「大人を信じるな」みたいな空気をさらりとかわして、独自の大人道を示してみせた名曲だと思う(蛇足ながら、「イージュー」は30代を表す業界用語。この曲が発売されたとき、奥田民生は31歳だった)。

9月13日深夜放送のトークバラエティ『ヨルタモリ』(フジテレビ系)で、その名曲を、タモリ(ではなく、常連客の吉原さんと呼ぶべきか)、高橋幸宏、沖仁(フラメンコギタリスト)とでセッションするということを事前の告知で知り、その演奏はもちろん、50歳になった奥田民生が、人生の先輩たちを相手にどんなトークを繰り広げるのか、とても楽しみだった。

気づいてみれば、奥田民生=50代、高橋幸宏=60代、タモリ=70代なのである。体力的な衰えや気持ちの変化を自虐的に楽しんでいる節はあるものの、若い方が良い、とも、年を重ねることが素晴らしい、とも言わないフラットなトークが心地好い。奥田民生の「50になって急に楽しくなったことなんて何もない」という言葉は、まさにその通りなのだろう。タモリの「四十肩は2回来る」とか、高橋幸宏の「民生くんがジムに通おうと思ってるなんて似合わないよ」とか、終始ほのぼのとしたトークになごむ。

そして「ギタリスト(沖仁)もいることだし、やりますか」という高橋幸宏の言葉をきっかけに、奥田民生がベース、タモリがコンガ、高橋幸宏がドラムにスタンバイ。「奥田さんと言えばこの曲かな」と、沖仁が“イージュー★ライダー”のイントロを弾き始める。ラフな感じで始まるセッション。宮沢りえもボンゴで、能町みね子はギロで参加。宮沢りえの超絶楽しそうな笑顔は、そのまま視聴者の気持ちを表してくれていた。

“イージュー★ライダー”は、若者というカテゴリーを通過した大人が、それでも自由に生きていくことを穏やかに宣言する不朽の名曲。その生き様をそのまま体現しているような魅力的なオーバー50の3人が、共にこの曲を演奏している様子がとても素敵で、心から「年を取ることは怖くなんかない」と思えた瞬間だった。(杉浦美恵)
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