【コラム】ドレスコーズ・志磨遼平はなぜバンドを変えるのか――彼の中のユートピアとは? 

【コラム】ドレスコーズ・志磨遼平はなぜバンドを変えるのか――彼の中のユートピアとは? 

ギター:沙田瑞紀(ねごと)/マーヤ(KING BROTHERS)/オカモトコウキ(OKAMOTO'S)/牛尾健太(G/おとぎ話)/會田茂一/近藤研二
ベース:有島コレスケ(0.8秒と衝撃。/told/スズメーズ/BOYLY Entertainment/arko lemming)
ドラム:ピエール中野(凛として時雨)
キーボード:中村圭作/長谷川智樹

これはすべて、10月21日リリースのドレスコーズ最新アルバム『オーディション』にプレイヤーとして参加したアーティストの名前である。前作『1』から約10ヶ月というスパンで放たれる今作には、今年1月の東名阪ツアー「Tour 2015“Don't Trust Ryohei Shima”」にも参加していた牛尾健太(G)/有島コレスケ(B)/長谷川智樹(Key)をはじめ、メンバー脱退後のライヴをサポートした全ギタリストが集結、リズムの要をピエール中野(Dr)が務める――ということで、上記のような多彩なラインナップが実現している(會田茂一&近藤研二はアレンジも手掛けている)。

ドレスコーズ - スローガン(AUDITION VIDEO)

昨年9月のキングレコード移籍第一弾作品『Hippies E.P.』のリリース当日に丸山康太(G)/山中治雄(B)/菅大智(Dr)が脱退、「ドレスコーズ=志磨遼平のソロプロジェクト」としてリリースした前作アルバム『1』(2014年12月)ではほぼすべての楽器演奏を志磨ひとりで担当……という流れはすでにご存知だろう。

「理想とする自分」への変身願望の発露としてのプリミティヴなロックンロールと、それを実現する場=バンドへ向ける愛と幻想。その途方もない強さによって、ついには毛皮のマリーズを重力崩壊させてしまった志磨遼平。彼がドレスコーズに求めたのはまさにその反動とも言うべき、純音楽的な探究空間としてのバンドの在り方だった。しかしそれによって、他でもない志磨自身の軋む魂が居場所を失い、彼の感情の歪みはバンドの歪みとなり、ついには志磨ひとりを残して全メンバーがバンドを去る結果となった。そして――傷心のひとりアルバム『1』を経て、彼は己の足跡すべてを「バンド」ではなく「志磨遼平」を軸として貫く、まったく新しいストーリーを紡ぎ始めた。言わば、志磨遼平はロックンロールそのものになろうとしているのだ。

「他人とつながりたくて、悲しみも幸せも怒りもユーモアも、すべてが美しい調和で保たれていて、その中に生きるっていう、その中で時間が過ぎていくっていう僕の頭の中のユートピアなんですよ、きっと。ロックンロールって。だからそれがそのまんま僕と世界の歪みで。それを他人に求める愚かさっていうか……誰かを統べるには若すぎるし、かといって誰かについていくには馬鹿すぎる(笑)」

『ROCKIN'ON JAPAN』2014年11月号に掲載されたメンバー脱退直後のインタヴューで、志磨は自身のロックンロール観についてそう語っていた。志磨を中心としたコミュニティのような今作『オーディション』の制作形態が、そして何よりその音が、そんな彼の理想と意志を決然と物語っている。(高橋智樹)
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