【コラム】THE BAWDIESの恋心はなぜロマンチックなのか? エルヴィストリビュート、そして新曲“SUNSHINE”の流れを探る
2015.10.29 07:00
2015年10月28日に、THE BAWDIESが(アナログのシングルカットを除くと)1年4ヶ月ぶりとなるシングルをリリースした。既にMVも公開されているが、その表題曲“SUNSHINE”がおもしろい。明らかにバンドの新境地を伝えるナンバーだ。今年遂にフルアルバムを発表しツアーも成功させた、ペトロールズの長岡亮介がプロデュースを担当している。
“SUNSHINE”は、ほっこり度において“LEMONADE”を凌ぎ、サウンドスケープやコーラスワークの展開の美しさにおいては“THE SEVEN SEAS”を凌ぐという、穏やかでハートウォーミングなラブソングだ。ペダルスティールギターの玄妙な響きや、フォーキーなスタイルで用いられるヴァイオリンが、楽曲に深い味わいをもたらしている点にも注目したい。この辺りはさすがに長岡亮介とのコラボ、という化学反応が生まれている。ただ、気がかりなのは「化学反応が生まれているかどうか」ではなく、むしろ「なぜTHE BAWDIESがこの化学反応を狙ったのか」ということのほうだろう。
かつてのAIとのコラボや、ROYがゲストヴォーカルに招かれた在日ファンクの楽曲とは、明らかに趣を異にする化学反応。そう、“SUNSHINE”には、R&Bやソウル、ファンクといったブラックミュージックの枠組みを大きく踏み越えようとする意図が伺える。それを読み解くヒントのひとつに、ROYが今年参加したトリビュートアルバム『A TRIBUTE TO ELVIS』が挙げられると思う。その名のとおり、エルヴィス・プレスリーのカヴァー曲の数々を収めた1枚だ。
『A TRIBUTE TO ELVIS』は、シュガー・スペクターの監修のもと超ヴィンテージにしてハイファイなサウンドを目指し、エルヴィスが活躍した時代のヴァイブを全力で捉えようとするアルバムだ。よく「黒人のように歌う白人」と評されたエルヴィスだが、彼の音楽はR&Bだけでなくフォークやカントリー、ヒルビリーやスウィングジャズなど多種多様な音楽が有機的に絡み合う時代を映し出してきた。ROYが吹き込んだ“LONG TALL SALLY”の孫カヴァーからも、ソリッドでありながら豊かなヴァイブが立ちのぼってくる。
ロックンロールは純血主義ではなく、もともとが混血であり雑種のミクスチャーである。だからこそ逞しく、世代を越えてゆけるのである。陽光のようなあなたに恋心を抱くことは、あなたと自分自身の差異を認めた上で心を近づけることだ。THE BAWDIESの“SUNSHINE”には、ロックンロールの最もロマンチックで神秘的なときめきが息づいている。(小池宏和)