NICO Touches the Wallsは、とにかくロックの時流に乗らないバンドであり続けてきた。裏を返せばいつでもタイムレスな、優れたロックソングを生み出してきたとも言えるのだが、不器用というよりほとんど意固地なバンドである。総合格闘技のリング上で、彼らだけがボクシングルールに則り歯ぎしりしながら戦い続けているようなものだ。そんな、ロマンと足枷が背中合わせになったルールを自らに課すことで、愛され続けてきたバンドなのである。
例えば、さまざまな制限を設けて日替わりのセットリストで行った篭城型ライヴ。例えば、わざわざ動員数のリベンジと位置づけてチケットをソールドアウトさせた2度目の武道館。例えば、武者修行のように取り組んだアコースティックアレンジのアルバム『Howdy!! We are ACO Touches the Walls』とライヴ。2013年の通算5作目のアルバム『Shout to the Walls!』から最新作『勇気も愛もないなんて』(ベスト盤や前述のアコースティックアルバムもあったが)の約3年間に、大きなものだけでもこれだけ次々と課題を設け、ストイックにバンドの力を底上げさせてきた。
最新ツアー開催中にいよいよリリースされるニューアルバム『勇気も愛もないなんて』は、NICO必然にして必勝の一撃であり、誰ひとりとしてラッキーパンチだなどと言わせない傑作である。マンガみたいなことを書くようだが、マンガみたいな事実が具体的なサウンドとして音源から立ち上ってくると、ロックは畏怖に近いものを抱かせる。自問自答の歌詞で染め抜かれたオープニングの“フィロローグ”は、なぜ天上を舞うようなコーラスとサウンドに支えられているのか。独白のような“ウソツキ”は、なぜ光村の中で閉じることなく普遍的なラブソングとして開放的に鳴り響いてしまうのか。それは、すべての音が、ラッキーパンチではない、歯ぎしりしながら培われた音だからである。
“ニワカ雨ニモ負ケズ”以降のシングル表題曲がすべて新ミックスで収められているが、これらがまた素晴らしい。シングルでもアコタッチでもライヴでもふれてきたはずの《最後は笑ってやろうってあの日泣いたこと/絶対ムダにはできないだろ/響け 僕らのリベンジ》(“天地ガエシ”)といったフレーズが、「だから言ったろ」とでもいうような顔をして、ぴったりとアルバムの中に収まっているのである。でも、なぜだろう。彼らは巨大な歓喜を振りまくほどのロックを放ちながら、今でも歯ぎしりしていそうな気がする。なぜかいつまでも、挑戦者の顔をしていそうな気がする。(小池宏和)