忘れもしない、昨年の大晦日のことだ。COUNTDOWN JAPAN 15/16のCOSMO STAGEから、突然、高品質かつ豊穣なエレクトロニックミュージックが漏れ聞こえてきて、僕はフロアへと急いだ。サウンドチェックを行っていたアーティストは、その顔つきにまだあどけなさを残した少年だ。千葉県出身のプロデューサー、16歳のTakaryu。アマチュアアーティストコンテスト=RO69JACK for COUNTDOWN JAPAN 15/16の優勝アーティストである。
オーディエンスからも観て楽しめるように角度をつけて設置したサンプラーやLaunchpadを操り(フランスの若き人気プロデューサー=マデオンと似たスタイルだ)、鍵盤やギターを奏でるその音楽には、古今東西のロックやソウル、ダンスミュージックへの深い造詣が込められているのは明らかだった。コンテストやフェスの関係者を捕まえては、ちょっと恥ずかしいぐらい興奮気味に話を訊いて回った。なぜあんな少年にあんなことが出来るのだ、と。答えは誰にも分からない。ただ「出来てしまっている」という絶対的事実だけが、サウンドとして聴こえている。
“Layer feat.綿めぐみ”ミュージックビデオはこちら。
“Ambivalence”ミュージックビデオはこちら。
Takaryuは、本日8月17日に初のフィジカル作品となる『MANUAL』をリリースした。まだまだ伸びしろは感じさせるものの、あまりにも端正で、得も言われぬ深い情緒に溢れた現代のポップミュージックである。“Ambivalence”の、若くして達観してしまったかのような落ち着きを感じさせる、ミニマルなグルーヴと立ち上るエモーションはどうだろう。UKガラージやダブステップ、フューチャーハウスといったスタイルとの接点も感じさせるものの、何より語られるべきなのは、彼の作品に込められた取捨選択の強烈な意志である。
論理と直感を兼ね備えた若者による取捨選択は、未来の行く末に大きな影響を及ぼすことになる。ロックの歴史がまさにそうだった。希望や可能性とは、ときに残酷なものなのである。いつ、自分のような年長者の価値観が「捨」の対象に含まれるか分からないから、僕はTakaryuの音楽に初めて触れたとき、巨大な歓喜と脅威を同時に味わった。決して抑え込むことのできない音楽が、すでに新しい価値観を伝え始めているのだ。絶対に見逃してはならないアーティストである。(小池宏和)