【コラム】アジカン『ソルファ』リレコーディング盤発売に寄せて――「私のソルファ」

【コラム】アジカン『ソルファ』リレコーディング盤発売に寄せて――「私のソルファ」 - 『ソルファ』 発売中『ソルファ』 発売中

ASIAN KUNG-FU GENERATIONの『ソルファ』がリリースされたとき、私は中学1年生だった。

小学生のころはまだカセットテープが主流だったはずなのに、いつの間にか周りはみんなMD派になっていて、友人たちはMDウォークマンを使っていた。私はというとMDを持っていなく、なんとなく恥ずかしさを感じながらも青いカセットウォークマンを使い続けていた。そして当時はまだ子供でお金も持っていなかったため、レンタルショップでCDを借りてはカセットにせっせと曲を入れ続け、『ソルファ』もすぐ借りてきてカセットに入れたのを覚えている。

『ソルファ』は主に下校途中のBGMだった。校則が厳しく、ウォークマンは禁止。持っているところを見つかれば没収だったが、電車通学だったので電車に乗ってから、周りに同じ学校の人がいないか確認して少し後ろめたいような心持ちでこっそりイヤホンを付けた。

《意味のない想像も君を成す原動力/全身全霊をくれよ》(“リライト”)

一生続いていくように感じていた長い学校生活から逃れるように、この曲を聴きながら電車から見える景色をひたすら眺めていたのだった。

それまでは主にフォークソングや、テレビで耳にするJ-POPばかり聴いてきた私にとってアジカンは人生にまたひとつ訪れた全く新しいもので、ジャリジャリした楽器の轟音がそれぞれ引き立ったままひとつの曲として完成されているのが新感覚だった。今まで「メロディ」と「歌」しかないと思っていた音楽だったが、アジカンの曲を聴いて初めてメロディを鳴らす「楽器」の音に耳を傾けるようになり、これが「ロックミュージック」なんだと知った。

「一体この人たちはどんな人なんだろう?」とても興味を引かれ、アーティスト写真を見てみると、それもまた私の目には新鮮に映った。ロックバンドといえば派手な衣装、もしくはライダースジャケットでポーズを決めるといったようなイメージがあったが、アジカンは衣装というよりは普段着のようなラフな格好で、その佇まいに気取った部分は全く見られなかった。正直、「こんなに大人しそうな人たちがバンドになると激しく、格好良くなるんだ」と何か底知れぬ、内に秘めた炎を感じたと同時に、内向的な自分にとっても「ロック」がグッと身近に思われた瞬間だった。

それからしばらくして、高校生になり軽音楽部に入部すると、そのうちの何組かはアジカンのコピーバンドで、アジカンはロック好きな高校生にとってシンボルのような存在となっていた。私はその頃から洋楽を聴くようになり、初めてウィーザーを知って、『ソルファ』でアジカンに出会った時の感覚を再び感じていた。今度は朝の登校時にiPodでウィーザーを聴くようになり、《The workers are goin’home!》(“My Name Is Jonas”)という歌詞を聴きながら、何度も本当は降りなければいけない駅のホームを見送った。私は中学生の時より少し逃げる術を身につけて、朝のガラガラの電車内で行くあてもなくただイヤホンから流れるロックに耳を澄ましていた。

時間は経ち、『ソルファ』でのロック体験から12年後の2016年。今や、カセットが再流行の兆しを見せていて専門店が増えている。『ソルファ』はリレコーディングされ、最新盤としてリリースされた。そもそも収録の曲順が違うことと、音作り自体はガラッと変わったが、曲のアレンジや進行に大きな変化はなく、細かく新しいアプローチが加えられている。そして何より、爽快でクリアなサウンドと、リラックスしたバンドの雰囲気が伝わってくる。それはもちろん、12年という年月で身についたテクニック、経験やバンド内の関係性による変化かもしれないが、過去の作品として一旦閉じられていたドアを、また一気に解き放ったような風通しの良さが感じられた。

アジカンもカセットブームも一周回ってまた戻ってきたように思えるが、やっぱり違う。2004年の『ソルファ』と2016年の『ソルファ』の間には当時では考えられないような変化があって、私はもう中学生ではないし、アジカンも結成20周年を迎えたベテランバンドになった。それでもあのころと同じように『ソルファ』が名盤であることはやっぱり揺るぎない。“ループ&ループ”に替わり、最新盤のラスト曲“海岸通り”まで聴き終えた後、懐かしさよりも新譜を聴いた時のような新鮮な気持ちが湧き上がった。そして私は再び、中学生の時にアジカンに出会い、高校生で初めてウィーザーを聴いた時の気持ちを思い出すことになった。(渡辺満理奈)
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