【コラム】『SMAP 25 YEARS』が特別である最大の理由ーー「みんな」と「私」のSMAP愛

【コラム】『SMAP 25 YEARS』が特別である最大の理由ーー「みんな」と「私」のSMAP愛

SMAPの活動の集大成となるベストアルバム『SMAP 25 YEARS』がついにリリースされた。3枚組で全50曲収録、これだけのボリュームをもってしてもSMAPの破格の活動史はとうてい網羅できるものではないけれど、本作はSMAPというグループの歴史的意義と、彼ら5人とファンのパーソナルな想いの両方をできるかぎり汲み取り、誠実にまとめた作品集だ。「公」のSMAPと「私」のSMAP、そのふたつが等価値とされた了解の中で名曲の数々が鳴り、蘇る、それが本作の素晴らしさだと思うのだ。
いずれにしても、1991年のデビュー曲“Can't Stop!! -LOVING-”から2015年のシングル曲“華麗なる逆襲”まで時系列に沿って進むトラックリストは、90年代、2000年代、2010年代の3つのディケイドにまたがるSMAPヒストリーの文字通りプレイバックだ。

90年代のSMAPナンバーは、旧来型のアイドル像を次々に打ち壊していった彼らの言わば革命のテーマソング集だ。そんな彼らの90年代ナンバーの中で個人的に特に忘れられないのは、アイドルが仕事を、労働をテーマにした歌を歌っている!という驚きだった。たとえば《仕事だから とりあえずがんばりましょう》と歌われる“がんばりましょう”。たとえば週末直前、仕事終わりのうきうきした気分を切り取った“SHAKE”。キラキラしたがんばれソング、闇雲な応援ソングの類いは昔からアイドルソングの定番だったけれど、《仕事だから》《とりあえず》がんばれと歌うリアリズムは圧倒的に新しかったし、サラリーマンの日常がアイドルに憑依し、しかも無茶苦茶格好よく昇華されていくのも痛快だった。コンサート、歌番組、ドラマ、そしてバラエティとアイドルの活動の幅を広げ、アイドルという職業の意味を変えた90年代のSMAPは、「働く者」同士としての共感と共にアイドルに今までにないリアルな血と肉と命を与えたグループだったと言える。

2000年代のSMAPは、トップアイドルから押しも押されぬ国民的スターへの道を駆け上がった王者の時代を生きた。“世界に一つだけの花”のスーパーヒットほどの現象はその後のJ-POP史に出現していないが、同時にこの曲のあまりの影響力によって生じたコンサバ化、アイドル的閉塞感すら危惧された時期もあった。でも、それをパコーン!と打ち破ったポップでアッパーな宮藤官九郎作詞“BANG! BANG! バカンス!”は痛快だったし、SMAPは国民的云々という称号を引き受けつつも、そこに縛られず次々に自ら新たなスタート地点を設定するクレバーさを持っていたグループだ。だって時代に縛られ、振り回されるようでは、時代を創ることなんてできないのだから。このクドカンや“世界に〜”の槇原敬之を筆頭に、スガ シカオ、山崎まさよし、エリック・クラプトン、近年でも中田ヤスタカや椎名林檎ら錚々たる面子がSMAPに楽曲を提供し、彼らと共にJ-POP史を、時代を創っていった。

2010年代のSMAPは、2015年1月のナゴヤドーム公演、9月のラストシングル『Otherside/愛が止まるまでは』で実質的な音楽活動を終えている。でもその限られた5年間の音楽活動は非常にユニークなもので、SMAPにとってのオルタナティヴをいろいろ試していた期間だったと言っていい。全編英語詞の“Battery”は歌番組他のパフォーマンスも含めてキレッキレに尖っていて最高だったし、その一方で“Joy!!”のように日本のシンボルであるSMAPだからこそ歌える普遍的なポピュラーナンバーもあった。SMAPの最後の数年間は音楽的に見れば未来志向の時代だったと思うし、だからこそ彼らがここでピリオドを打ったことは驚きだったし、残念だと言わざるをえないのだ。

SMAPが日本の時代を、世相を作った偉大なグループだったのは間違いない。私たちはSMAPのいた時代に生きていたんだってこと、SMAPと共に歩んだ四半世紀だったことを改めて実感させてくれるのが『SMAP 25 YEARS』だ。でも、最初に書いたようにこのベスト盤を特別なものにしているのはそういう大文字の「歴史的意義」や「国民的遺産」としての側面だけではない。むしろ、もっと細やかでパーソナルな感情を丁寧に集積したという意味で、特別な作品になっていると思うのだ。

『SMAP 25 YEARS』はファン投票の結果をもとに選曲されたベストアルバムだ。詳しくはビクターの特設サイトをチェックしてみてほしいのだが。SMAPのファンはどの曲に一票を投じたのか、それが意外性と納得感が交錯する非常に興味深い結果となっているのだ。ちなみに、グループ存続を求めるファンの購買運動の対象シングルとなった“世界に一つだけの花”は、ファン投票では12位。ちなみに1位は“STAY”だった。この曲は2006年のアルバム『Pop! Up! SMAP』収録曲で、シングルではない。恐らくSMAPファン以外にはあまり馴染みのない曲なんじゃないだろうか。
実際、今回のファン投票の上位曲にはシングルA面のように「表」に出ていない曲が多く選ばれている。そう、“世界に〜”に象徴される「みんなのSMAP」と、“STAY”に象徴される「私のSMAP」が両方存在し、そのどちらもSMAPの大切な遺産とされている、その厚みと陰影が本作が特別である最大の理由だ。『SMAP 25 YEARS』から強く感じるのは、SMAPはざっくりした「日本」の代表ではなく、幾多の、無数の「私」の想いの束によって国民的グループになったのだという、確かな手触りなのだ。

《いろんなことを乗り越え たった50年 一緒に…》と歌われる“STAY”が1位になったのには、「まだ25年、半分だよ!」という去りゆく彼らに向けたファンの切実なメッセージとも取れるだろう。実際、ファン投票の上位曲には、この“STAY”以外にもリレー形式でメンバー紹介していくSMAPによるSMAPレペゼンソング“FIVE RESPECT”(6位)&“CRAZY FIVE”(5位)や、「SMAP×SMAP」の5人旅スペシャルでカラオケ中にほろ酔いの中居くんが歌いながら号泣してしまったのも記憶に新しい“BEST FRIEND”(3位)など、SMAPの5人の絆を強く感じさせるナンバーが数多くエントリーしている。その、5人の絆、5人のSMAPに永遠を望むファンの気持ちはもちろん5人も痛いほど理解しているはずだ。そう信じられるのが『SMAP 25 YEARS』の、このアルバムを制作したスタッフの、そしてSMAPの誠実さだ。

SMAPが紅白歌合戦への出場を正式に辞退したことが今朝報じられた。2016年12月26日(月)の『SMAP×SMAP』は生放送ではないので、彼ら5人が揃った生の姿はもう見られないということになる。SMAPがいない日本、そこで暮らす日常はまだちょっと想像できないし、グループとして最後の声明はないの?とも一瞬思ったけれど、どんなメッセージよりも饒舌に、この『SMAP 25 YEARS』は彼らの別れの名残惜しさと胸いっぱいの感謝を告げているのだ。(粉川しの)
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