悲しみを悲しみのままにさせない――提供曲から見る、いきものがかり・水野良樹のソングライターとしての意志について

悲しみを悲しみのままにさせない――提供曲から見る、いきものがかり・水野良樹のソングライターとしての意志について
今年冒頭に「放牧宣言」を掲げ、メンバー3人がそれぞれ自由な活動に専念することとなったいきものがかり。多忙な音楽活動に一区切りをつけ、きっと今ごろ各々がゆったりとした時間を過ごしているのだろう……と思いきや、グループのリーダーである水野良樹は、今度はハイペースで楽曲提供に勤しんでいた。なんと彼は「放牧宣言」後、音源未解禁のものも含め、すでに10曲以上の作詞・作曲を手がけている。

そんな水野が提供した楽曲を聴いてまず驚いたのは、いきものがかりの楽曲で使用されている流儀が、そのままストレートに反映されていたこと。同グループにおいて水野が手がけた音楽といえば、天の川のように流れる美しいストリングス&歌詞に込められた情感をより輝かせる煌めくピアノが効いているサウンドや、大切な人がくれた愛情に生きる希望を見出す歌詞など、歌詞の主人公が抱く幸せを、穏やかなメロディとともにリスナーにお裾分けしてくれるような曲が多い。そして彼が創作した提供曲にも、そんな流儀が色濃く表れているように思う。

たとえば関ジャニ∞の“青春のすべて”。青春の「その後」を生きる大人の哀愁から幕を開けるこの曲は、さわれそうでさわれない思い出の光を感じさせるクリアな鍵盤の旋律を経たのち、最後は《君に出会えてよかった 僕は明日を生きている》と光明に包まれて終わる。また先日リリースされたばかりの山本彩の“春はもうすぐ”では、主人公が故郷から一人旅立ち、別の場所でがんばる仲間の存在をお守りに日常を生き抜いていく様が、流麗かつ雄大なストリングスを背景に歌われている。関ジャニ7人の爽やかな斉唱や、音像の中にくっきりと浮かび上がる山本彩のボーカルを引き立てるサウンドメイクがなされつつ、まさに「泣き笑いせつなポップ3人組」と呼ばれるにふさわしい、いきものがかりの音色や言葉が満開に咲き誇っているのだ。

しかし、ここで疑問が残る。なぜ水野が作る歌は、いきものがかりらしさが大いに開花していながら、同グループのボーカル・吉岡聖恵以外の歌い手が歌っても不自然なものにならないのだろうか? 作家が所属するグループの特色が提供曲に強く反映されていると、歌い手のとの不調和が発生してしまうと思うが、彼の提供曲からはまったくそれを感じない。むしろ、その1曲1曲が珠玉であるということだけをひたすらに感じるのだ。

その理由の1つには、先に挙げたように、ストリングスやピアノの優しい音色に寄り添うソングライティングを、個々のアーティストに合わせて行っているということがまずあるだろう。水野が織り成すサウンドには、耳に意識を集中していてもしていなくても「この曲、良い」と思えて、かつ聴き手の心の芯にまで沁み渡るメロディが溢れている。またアーティストの声と言葉の響きが活きた、口ずさみたくなる歌メロが流れているのも、彼の作品を語る上で欠かせないポイントだ。

しかし、それ以上に注目すべき点がある。水野が書く歌詞の「普遍性」だ。

先に例に挙げた“青春のすべて”、“春はもうすぐ”を聴いてもわかるとおり、水野良樹という人物は、すべての人間に平等に訪れる「別れ」をよく歌の基軸に据えるソングライターである。また「別れ」というものを決して「悲しい」という感情だけで捉えたりはせず、むしろ星を探す望遠鏡のごとく、それを通して幸福や生きる意味を見出そうとしている。大切な人と別れ、さみしさとうまくいかない日常へのもどかしさが積み重なる中、その人からもらった言葉が、一緒に過ごした何気ない時間が、不意に体の内側からこんこんと湧き出てきて、自分に「生きろ、生きろ」と訴えかけてくる――。水野が自身の作品の中に閉じ込めようとしているのは、きっとそんな温かな感覚だ。先の《君に出会えてよかった 僕は明日を生きている》という歌詞にしろ、“春はもうすぐ”の《それぞれの道へと 歩む孤独が 僕らのきずなさ》という歌詞にしろ、そこから感じられるのは冷たい「別れ」をそのまま冷たいものとして忌避する姿勢ではなく、その氷をかち割って内側に潜むぬくもりを引きずり出し心に灯していくという、彼の歌の力強いポップ性である。

かつて水野は、いきものがかりのアルバム『FUN! FUN! FANFARE!』収録の“LIFE”で次のような歌詞を書いた。《生きていくことの悲しみを/ひとりで越えられなくて誰もが立ち止まる》。いきものがかりは「ポジティブ思考の朗らかなポップスを歌うグループ」というイメージを持たれているが、彼らがそのような歌を制作するのにはおそらく、「生きることは悲しいことだ」という前提がある。そして水野良樹というソングライターは、その前提に対して「自分たちの歌はどのようにはたらきかけていけるだろうか?」と常にファイティングポーズをとっているのだ。聴き手が背負う負の感情を、少しでも一緒にほどいていけたら――そんな思いがこもっているからこそ、水野の音楽は限りなくポップなものとなるし、かつ誰が歌ってもリスナーの心に響き渡るものとなるのだろう。

そのほか、NHK Eテレの子ども向け番組に書き下ろした愛らしいキッズソングや、D-LITE (from BIGBANG)に宛てたアダルティーなナンバー、バカリズムと共作したクスッと笑える楽曲などなど、水野のソングライティングは実に幅広いフィールドでその輝きを放っている。様々な音色や言葉で聴き手の心を明るく灯してくれる彼のポップスは、今後どんな歌い手によって花開いていくだろうか? これからもひたすら楽しみに待ち続けたい(もちろん、いきものがかりの楽曲もまた然り)。
(笠原瑛里)
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