西野カナが「恋愛ソングのカリスマ」を超えて新作『LOVE it』で描いた、日常に宿る大きな愛とは?

西野カナが「恋愛ソングのカリスマ」を超えて新作『LOVE it』で描いた、日常に宿る大きな愛とは?
「恋愛の歌やけど、音楽やみんなのことも思いました」――9月に行われた東京ドームライブで、“手をつなぐ理由”を歌う前にそう語った西野カナ。彼女の口からぽっと放たれたこの言葉は、同曲に込められた温かな思いを感じさせるものであると同時に、最新アルバムに秘められた真意を解き明かすための、大切な「カギ」でもあると思う。

「『いいね』したくなるような『it』や『楽曲』を収録している」という意味がタイトルに込められているアルバム『LOVE it』。同作では彼女の得意な恋愛・友情ソングのほか、「もっとかわいく、もっとかっこよく生きていきたい!」という意志や、生活の中の何気ないワンシーンが幸せに思えるときの心情などを描いた楽曲が、バラエティ豊かに並んでいる。

個人的に、ラブソングの数が思っていたよりも少なく、逆に日常にフォーカスされた曲が多いことに一番びっくりした(というか、ラブソングもラブソング以上のものに変身していた)。たとえばアルバムのテーマを示す1曲目“*Prologue* ~Humming~”が、《ふんわり コーヒーのいい匂い/どこからか聞こえてくる Music》という風に、身の回りのものや実際にあった出来事をあるがままに書いた楽曲であることや、同曲と最後のナンバー“*Epilogue* ~LOVE it~”に街角を想起させる環境音が入っていることからしても、彼女が今作で「日常」そのものに重きをおいているのは明らかだ。そしてその2曲がどっちも《I LOVE it》という歌詞で締めくくられていることからも、何の変哲もない光景に惜しみない愛おしさが注がれているのがわかる。


これはもしかしたら、「恋愛でしか得られない大きな幸せも大事だけど、いつもの暮らしの中に転がっている小さなハッピーもたくさん見つけていこう、自分の力で増やしていこう」というマインドが、彼女の胸の中でより強く存在感を放っているということなのかもしれない。なぜそうなったのかはわからないが、彼女が『LOVE it』でやろうとしていることはたぶん、恋愛以外の領域においても「LOVE」を見つけ出そうとすること――つまり、恋だけじゃなくて仕事も友情も困難もそれ以外もなんでもあるありふれた日々を、そのまままるっと愛するための歌を歌うことだ。もっと言えば、愛すべき人やものを「LOVE」するだけではなく、今まで見過ごしていたものや自分がぶつかっている壁に対しても「LOVE」を投げかけようという姿勢が、このアルバムの至るところから読み取れるのである。……前々から西野カナは「幸せ発見上手」な人だと思っていたけれど、その「幸せ発見能力」はもっともっと磨き上げられていたんだなということが、『LOVE it』を聴いてよーくわかった。

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