小田和正、70代初の『クリスマスの約束2017』で体現した「時代を受け継ぐ」ポップの使命

2001年、小田和正54歳の頃にスタートした年末恒例のプログラム『クリスマスの約束』。企画や個性が重視される日本の音楽番組の中にあって、近年稀に見る「純粋に音楽だけで構成される番組」は今年で17回目の放送を迎えた。
そして――何と言っても今年最大のトピックは、今年9月に古希を迎えた番組ホスト=小田が、70歳で初となる『クリスマスの約束』に臨んだことだろう。

根本要(STARDUST REVUE)/スキマスイッチ/水野良樹(いきものがかり)による「委員会バンド」をはじめ、松たか子JUJU/和田唱(TRICERATOPS)といった「常連」と呼んで差し支えないメンバーと織り成すフレンドリーな空気感。と同時に漂う、お気楽なレイドバック感を微塵も許さないシビアなミュージシャンシップ――。
昨年のオンエアで大きな注目と反響を呼んだ宇多田ヒカルのゲスト出演に続き、今年は小田自身が「2006年のCM(資生堂)以来気になってた」と明かした熊木杏里が登場。まさにそのCM曲“新しい私になって”を披露していたのも含めて、小田和正ならではの一見不器用なくらいの誠実さに貫かれた「いつも通りの『クリスマスの約束』」だった。

しかし。今回のオンエアで特に際立っていたのは、「音楽を歌い演奏する意味」だけではなく、「音楽と時代を受け継いでいく意味」だった。

今年3月に亡くなったかまやつひろしを偲んで委員会バンドとともに披露した、“あの時君は若かった”、“バン・バン・バン”などムッシュかまやつメドレー。
忌野清志郎の訳詞の秀逸さを語る小田の言葉とともに歌い上げられた、キャロル・キングの名曲“You’ve Got a Friend”。
打ち合わせの段階から和田唱と意見が一致したという、“My Favorite Things”、“When You Wish Upon A Star”などスクリーンミュージックの名曲の数々――。
70歳という年齢をまるで感じさせないハイトーンボイスで、次々に歴史的マスターピースを歌い上げる小田の佇まいからは、キャリアに胡座をかいた「大物感」はまるで感じられなかった。その姿はむしろ、自らに与えられた才能のすべてを「今」の音楽に捧げて響かせていこうとするかのような、ある種の使命感すら漂わせるものだった。

そして、番組の最後。長年小田の舞台監督を務め『クリスマスの約束』も手掛けていた永岡宏紹氏が今年亡くなったことを受けて、小田がその歌を捧げた楽曲は、永岡氏が自身の社名にも掲げていたという“the flag”。それまで一貫して決然とした歌を聴かせていた小田の声が、今回のオンエアで唯一震えた場面だった。
「音楽は、ひとりの力で完成するものではありません。奏でてくれる人、ステージを作ってくれる人、こめられた想いを受け取ってくれる人……多くの人に支えられ、育っていきます」
今回ナレーションを務めた盟友・財津和夫の声がラストに僕らに語りかけた言葉はそのまま、音楽とともに生き、その透徹した音楽を生き様として時代に刻んできた小田と、その共演者&スタッフ、さらに観覧に駆けつけたファンと番組の視聴者への最高のオマージュでもあった。

70年代からポップミュージックシーン最前線をひた走り続け、70歳を迎えた2017年の今はまさに前人未到の領域に立っている小田和正。エンターテインメントという言葉では到底説明のつかない真摯なポップの強さを、今の小田は確かに体現している――ということを、今回のオンエアは改めて如実に物語っていた。(高橋智樹)

昨年の『クリスマスの約束』記事はこちら。
小田和正×宇多田ヒカル共演、ついに実現。16年目にして改めて思う『クリスマスの約束』の意味
「その瞬間」はトータル2時間に及ぶ番組の序盤、冒頭の小田和正のピアノ弾き語りに続いて、驚くほど早く訪れた。 12月23日深夜に放送されたTBS『クリスマスの約束』、宇多田ヒカルとの初共演が実現した場面である。 番組オフィシャルサイトでも「小田和正によるクリスマス恒例のコラボレーショ…
小田和正×宇多田ヒカル共演、ついに実現。16年目にして改めて思う『クリスマスの約束』の意味
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