【知りたい】2017年の話題作の影の立役者=ジャック・アントノフのプロデュースのマジックとは?

【知りたい】2017年の話題作の影の立役者=ジャック・アントノフのプロデュースのマジックとは?

テイラー・スウィフトロード、そしてセイント・ヴィンセント。この3人のアーティストにはいくつかの共通点がある。

まず、第一にはもちろん、全員が女性シンガー・ソングライターであること。第二には、全員が2017年にオリジナル・アルバムをリリースしたこと。第三に、その3枚のニュー・アルバムがどれも2017年を代表するアルバムとなったこと。何しろテイラーの『レピュテーション』は発売4日で100万枚を超えるセールスを記録して昨年下半期の話題をかっさらい、ロードの『メロドラマ』とセイント・ヴィンセントの『マスセダクション』はどちらも極めて高い評価を獲得、各種年間ベスト・アルバムで軒並み上位にランクインした傑作だ。

そして最後の共通点は、『レピュテーション』、『メロドラマ』、『マスセダクション』の3作品の全てに関わったキーパーソンが存在すること。そう、それがジャック・アントノフだ。


この中でもテイラーとジャックは数年来の付き合いだが、ロードとセイント・ヴィンセントにとっては最新作が彼との初のコラボレートとなった。「2017年の話題作の影の立役者」として、グレッグ・カースティンリアム・ギャラガー『アズ・ユー・ワー』、フー・ファイターズ『コンクリート・アンド・ゴールド』、ベック『カラーズ』)に匹敵する活躍を見せたのが、このジャック・アントノフであるのは間違いないのだ。

ちなみにジャックは昨年には自身のプロジェクト、ブリーチャーズとしてもニュー・アルバム『ゴーン・ナウ』をリリースしており、大忙しの一年だった。

ブリーチャーズはジャックがジョン・ヒューズ(『ブレックファスト・クラブ』や『プリティ・イン・ピンク/恋人たちの街角』など、80年代を代表するアメリカ青春学園物映画の監督&脚本家)から多大な影響を受けてスタートしたプロジェクトであり、あのヒューズ作品のカラフルでケミカル、そして甘酸っぱく切ない80Sフレーバーは、ジャックのシンセ&エレポップを通底するテーマになっている。

そもそもテイラーとジャックは共にヒューズ作品の大ファンということで意気投合したそうだが、それを踏まえてテイラーの前作『1989』(こちらもジャックはプロデューサー&共作者として名を連ねている)を聴くと、まさにブリーチャーズ的、ジョン・ヒューズ的80Sフレーバーが彼女のポップ・エレメンツを下支えしていることがわかるはず。



ジャック・アントノフの80年代観、その年代観に則ったエレポップの影響を受けたのはテイラーだけではない。

「2010年代のポップはアントノフなしでは語れない」とも評されているように、シーアからカーリー・レイ・ジェプセンからフィフス・ハーモニーまで、様々な女性アーティストたちとのコラボの中で彼は2010年代以降のエレポップ、シンセワークにある種の新ベーシックを生み出していった。

ちなみにジャック・アントノフのエレクトロ・サウンドは80年代から大きなインスピレーションを受けていることは前述の通りだが、同時にそれはベタっと平面的な80Sポップの単なる焼き直しとはほど遠いものだ。その最たる例が、シンセ・サウンドが結果としてカッティングエッジなギター・ワークをより際立たせることに成功しているセイント・ヴィンセントの『マスセダクション』だろう。


そもそもジャック・アントノフはNY発の知性派インディ・ポップ・バンド、ファン.の主要メンバーとしてブレイクした人物。ファン.はポップ・パンク、エモ系の名門フュエルド・バイ・ラーメンの所属でありながら、バロック・サウンドやアフロ・ポップを貪欲に取り込んだハイブリットをやるユニークなバンドであり、同じくフュエルド・バイ・ラーメンの異端児であるトゥエンティ・ワン・パイロッツと並び、オルタナティヴ・ロックとモダン・ポップのクロスオーバーの最良の例だったバンドだと言っていい。

つまり、ジャックはロックにも、ダンスにも、オルタナにも、ポップにも自在に軸足を置き換え可能なバックグラウンドを持っている人であり、彼はプロデューサーとして働く際はその中から対象にとって最も適した方向性、最も必要とされるエレメンツを的確に提示できる、その柔軟性が突出しているのだ。


そんなジャックがプロデュースのみならず、共作者としても全面的に関わりサポートしたのがロードの『メロドラマ』だ。

『メロドラマ』はいわゆる大失恋アルバムであり、ロードの極めて個人的な痛みや哀しみが曝け出された作品であるわけだが、このアルバムの凄さとはとことんパーソナルで内省的な作品でありながら、とことんパブリックに「開かれた」ポップ・アルバムとして成立している点だろう。

前作『ピュア・ヒロイン』にカラフルに色彩していくような本作の分厚くゴージャスなエレポップ・サウンド、傷心の呻きのようなロードの重くハスキーな歌声を鼓舞し、引きずり上げるような“Green Light”や“Perfect Places”のプロダクションは、彼女の心に寄り添いながらもポップスとしての俯瞰を忘れなかった、ジャック・アントノフなしでは生まれなかったものなのだ。(粉川しの)


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