星野源 “ここにいないあなたへ”は『映画ドラえもん』と運命的に繋がっている

星野源 “ここにいないあなたへ”は『映画ドラえもん』と運命的に繋がっている
ニューシングル『ドラえもん』の2トラック目に収録された“ここにいないあなたへ”は、周知のとおり『映画ドラえもん のび太の宝島』の挿入歌だ。現在発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』2018年4月号(星野源が表紙)インタビュー記事では、この曲が同シングルのタイトルチューンであり映画主題歌でもある“ドラえもん”よりも先に生まれた楽曲であることが語られていた。

“ここにいないあなたへ”については、先ごろ公開された記事「今週の一枚」の中でも触れたのだけれど、歌詞についてはもうひとつ掘り下げることが出来ていなかった。なぜかと言うと、これは主題歌“ドラえもん”よりもさらに映画のストーリーに寄り添った作風なのではないかと思ったからだ。母なる海を背景に、離別と命の灯火、そして気高い意志が歌い込まれた、奥ゆかしい歌詞になっている。

劇場版『ドラえもん』の物語の多くでは、いつもの『ドラえもん』の仲間たちに加え、個々の作品独自のキャラクターが仲間に加わり、友情を育むことが多い。物語がフィナーレを迎えると、作品のオリジナルキャラクターとは別れを告げることになったりする。ということはなに? “ここにいないあなたへ”はそういう歌なの? もしかして、もの凄く悲しい物語なの? と勝手な想像を巡らせた。


というわけなので、試写で観てきました。『映画ドラえもん のび太の宝島』。ネタバレは控えるけれど、これは名作だ。「我々にとっての『ドラえもん』とはこういう作品であって欲しい」と思える、素晴らしい作品だった。そして“ここにいないあなたへ”という曲は、物語のこれ以上ない場面で、作品の主題をがっちり捕まえた歌として、届けられることになる。感涙必至だ。“ここにいないあなたへ”の真価に触れたい人は、漏れなく観た方がいいと思う。なお、身近に大切な人がいるなら、一緒に劇場に出かけることもお勧めしたい。世代は問わない。

“ここにいないあなたへ”の歌詞には、映画のストーリーに触れて「そういうことだったのか」と気付かされるフレーズが幾つも散りばめられている。《命の端で/辿った道には泡の轍》というのは、情熱を傾ける日々の中で出会う、命の灯火である。命は儚いが、情熱の煌めきを残してくれる。また、《物心幾月 すべてを飲み干して/目の前の未来を 必ず掴み取る》という箇所には、生涯を賭した情熱がひとつの覚悟へと行き着く心情が読み取れる。覚悟はその人にとっての正義となり、立場の異なる正義は争いを生むこともあるだろう。人類が歴史の中で無数に繰り返してきたことだ。

しかし、星野源は寂しくも温かなこの曲のメロディで、コーラス部分をこう歌う。《ここにいないあなたへ/空を見ては そっと手を繋いで/ここにいないあなたへ/潮の路が燃えている》と。失われた命は残された人に大きな喪失感をもたらすが、同時に過去から「発見」をもたらしてくれることもある。壊れかけた何かを、繋ぎとめてくれるかもしれない。それが希望となり、残された者は新たなる情熱を駆り立てるのだ。

やはり物語の核心に触れることは避けておきたいのだが、それでもひとつだけ言えることは、『映画ドラえもん のび太の宝島』がメッセージとして伝えるテーマと、星野源が標榜する「イエローミュージック」や「Continues」というテーマは、運命的と思えるほどに通じ合い、強く響き合っているということだ。その点で、“ここにいないあなたへ”という楽曲は、物語に深く入り込んだテーマ曲でありながら、パーフェクトに星野源なのである。

人が、限られた命の中で見つけたもの。次世代に手渡すべきそれは、もしかするとすでに古びてボロボロかもしれない。しかしそれは、ずっと大切に愛しているもので、いつまでも胸の中でキラキラとした輝きを失わないのだということ。そうでなければならないということ。情熱は個人的な思い入れから始まり、次の世代に手渡されて形を変え、いつしか未来を作る道標になる。『ドラえもん』の物語と星野源の「イエローミュージック」が交わるその決定的瞬間を、ぜひ多くの人に見届けて欲しいと願う。(小池宏和)

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