過去作から参加しているコリン・ブリテンをはじめ、ダン・ランカスター(ブリンク182、ブリング・ミー・ザ・ホライズン、ファイヴ・セカンズ・オブ・サマー、ドン・ブロコらの作品を手がけてきた)やCJ・バラン(パニック!アット・ザ・ディスコ、カーリー・レイ・ジェプセン、ケイリー・モーグなど)、マーク・クルー(バスティル、ケイティ・ペリーなど)といった顔ぶれには、ロック専門の音楽プロデューサーというより、広い視野をもってポップサウンドを構築するタイプの人物も目に付く。
また、“Stand Out Fit In”を共作したデレク・フールマンや、アルバム中4曲を担当したピート・ナッピ、そしてニック・ロング(自身のプロジェクトとしてダーク・ウェイヴスがある)といったプロデューサー陣は、それぞれソングライターとしても活躍している面々。“Head High”にクレジットされているのは、なんとジャスティン・ビーバー作品のソングライティングでも知られるプー・ベアだ。
加えて、各楽曲のミキシングエンジニアには、以前からONE OK ROCK作品に携わってきたトム・ロード=アルジをはじめ、ホイットニー・ヒューストンのセカンドアルバムからビヨンセの近作までを手がけてきたベテランのトニー・マセラティ、そしてブルーノ・マーズやテイラー・スウィフト、アリアナ・グランデらの大ヒットを支えるセルバン・ゲニアetc.と、真にジャンルも世代も跨いで死角なし、という布陣で臨んでいるのである。
この2010年代後半、ロックバンドによる「脱ロック」的な作品がロックシーンを牽引するという、言葉だけ並べてみると矛盾しているような現象が起こった。例えば、リンキン・パークの2017年作でありチェスター・ベニントンの遺作となった『ワン・モア・ライト』、フォール・アウト・ボーイの2018年作『マ ニ ア』、そしてフュエルド・バイ・ラーメン所属バンドとしてONE OK ROCKとは海外レーベルメイトにあたるパニック!アット・ザ・ディスコの『プレイ・フォー・ザ・ウィキッド』やトゥエンティ・ワン・パイロッツの『トレンチ』などは、いずれもビルボード200(US週間アルバムチャート)で1位もしくは2位を記録した作品だ。
米国に限らず海外ではロックが冬の時代に入って久しいけれども、上記のバンドはそんな風潮の中でも自らロックの人体実験に自ら身を差し出すようなサウンドで健闘している。ロック冬の時代に世界で戦うONE OK ROCKも、フュエルド・バイ・ラーメン人脈を駆使して、「脱ロック」的視点からロックバンドとしての勝利を目指した。「ロックバンドらしくあれ」という周囲の期待と、のしかかる不自由さのジレンマの中であがき苦しみながら、それでも前へと進もうとする姿は、まさしく“Stand Out Fit In”の世界観そのものだ。
数多くのプロデューサーや共同ソングライター、ミキシングエンジニアを迎えながら、それでもしっかりとONE OK ROCKのアルバムとして成立しているのは、楽曲そのものの芯の強さと、何よりTakaのボーカルが限界突破レベルで息を呑むような素晴らしさに達しているからだろう。“Eye of the Storm”の閉塞感から“Stand Out Fit In”を経由して“Head High”で突き抜ける序盤の開放感といい、“Push Back”や“Giants”の大合唱を誘発することは疑いようもない力強さといい、“Letting Go”の余りにも人間味あふれる優しい響きといい、あらゆる面で突き詰められている。チェスターの追悼ライブで出会ったキアーラとのデュエット曲“In the Stars (feat. Kiiara)”も美しい。
あのONE OK ROCKが、ギターサウンドをシンプルに削ぎ落としてでも、ベースフレーズの動きを抑え込んででも手に入れたかったのは、誰もが自由に持ち歩くことのできる音楽=歌であり、その歌の力を最大限に引き出すサウンドだ。この楽曲たちは今後、ONE OK ROCKというバンドをさらに進化させてゆくだろう。ロックはときに、ロックへの期待を裏切ってでもあなたを驚かせ、そして喜ばせる。あなたが好きになったロックは、いつだって驚きをもたらしてくれたはずだ。ONE OK ROCKの『Eye of the Storm』はロックの「問題作」ではなく、優れた「問題提起作」なのである。(小池宏和)