KOHHの新アルバム『UNTITLED』を今、必ず聴くべき理由

KOHHの新アルバム『UNTITLED』を今、必ず聴くべき理由 - 『UNTITLED』『UNTITLED』
KOHHが2年半ぶりにリリースしたニューアルバム『UNTITLED』がすさまじい内容になっている。いや、これまでKOHHが世に送り出してきた音楽作品はまんべんなく独立したすごみに満ちていたが、今作はビート、ボーカル、リリック、音像、すべての面において不可侵の進化と深化を遂げている。

本作がサプライズリリースされたのは2月1日。まず、公式オンラインのみでTシャツかフーディー、またはその両方が付属した形態で注文が開始された。フィーチャリングゲストにはONE OK ROCKのTakaの名がクレジットされ、アルバムのリリースに合わせて渋谷109には特設ブースが登場。それは、この“I Want a Billion feat. Taka”のMVを「MX4D®モーションシート」に乗ってVRヘッドセットで鑑賞できるというものだった。


KOHHは前作『DIRT Ⅱ』をリリースした2016年にフランク・オーシャン宇多田ヒカルの楽曲に客演し、そのずば抜けた存在感とラップの求心力は右肩上がりに国内外の特別なアーティストやリスナーと共振した。聴く者を真正面から射抜く音圧と、どこまでもストレートなリリシズムを誇るKOHHのラップは、意志の一塊以上でも以下でもない。トラップミュージックのビートに乗って解き放たれるそれは、遺志を微塵も残さず生をまっとうするという、ヒップホップのトレンド云々を超越した独立したアートとして響き渡る。だからこそ、日本語で紡がれる彼のラップは、当然のように大陸を渡っていく。この音楽に触れて何かを感じないというのは、嘘であると断言できる説得力がKOHHの音楽表現にはある。そういう意味でも、近年の彼がカート・コバーン甲本ヒロトにシンパシーを覚えているのは合点がいく。

そして、ニューアルバム『UNTITLED』によってKOHHは本当の意味で誰にも追随できない領域に立ったと言っていいだろう。1曲目を飾る“ひとつ”。魂レベルの一体感が歌われているこの曲は、ビートを排し──いや、荘厳なストリングスやピアノ、ノイズやSEを司るKOHHのラップそのものがビートを担保しているような感触がある。3曲目に位置する“I Want a Billion feat. Taka”ではスタジアムを想起させるスケールの大きなヘビーロックサウンドで欲望を剥き出しにし、続く“Fame”では自身の存在が神格化されることや有名税を払うことに中指を立てる。さらに5曲目“まーしょうがない”以降の中盤に漂うサイケデリックな酩酊感にゾクッとさせられる。8曲目“Leave Me Alone”は研ぎ澄まされたラブソングとしても、ミックスワークとしても本当に素晴らしい。

何より作品全体を通して特筆すべきはKOHHのボーカリストとしての力量が格段に更新されていることだ。もはやKOHHのそれは全編アカペラのアルバムを制作しても成立するレベルに達していると思う。こんなことをKOHHに対して言及するのは自分でも違和感を覚えるが、彼のボーカルの現在地には確実に努力の跡が見えるし、ラッパーだから発声を鍛えなくていいという発想など皆無であることがわかる。そして、本作のすさまじさは、ラストの“ロープ”に集約されていく。
率直に、「今、KOHHを聴かずに何を聴くの?」と言いたい。いや、マジですごいから絶対に聴いてください。(三宅正一)
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