追悼・ヒトリエwowakaとの早すぎる別れを惜しんで

本来なら今頃は、最新アルバム『HOWLS』を携えたヒトリエの全国ツアー「ヒトリエ TOUR 2019 "Coyote Howling"」の動向を追いつつ、6月1日(土)のツアーファイナル=新木場STUDIO COAST公演へ向けて胸躍らせている時期のはずだった。
しかし、4月6日・7日公演の突然のキャンセルに続くバンドからのアナウンスは、「ヒトリエのボーカル・ギターのwowakaは、4月5日に急性心不全のため、永眠致しました」というものだった。

wowaka(現実逃避P)が自身の音楽愛&バンド愛をネットシーンの辣腕プレイヤーたちとともに実現する「ひとりアトリエ」→「ヒトリエ」が、どこまでもリアルかつエモーショナルなバンドの肉体性を体現していく過程は、単に「ボカロとロックの越境」に留まらず、不安定な時代の中で「個」と「孤」を推進力として疾駆する00年代後半〜2010年代のロックの空気感そのものを鮮烈に象徴するものでもあった。

「wowakaという自分の母親は、俺は初音ミクだと思ってるんですけど、父親はNUMBER GIRLだと思ってるんです」

『HOWLS』のリリース時にrockinon.comでインタビューさせてもらった際、wowakaはそんなふうに自らの音楽性を語っていた。
NUMBER GIRLをはじめとするバンド音楽から受け取った衝動暴発感をボカロ曲へフィードバックしてスリリングな楽曲世界を描き出し、ついには自らもバンドマンとして己の衝動を鋭利かつダイナミックなアンサンブルとして極限炸裂させてきたwowaka。
ロックミュージックと己の内面世界を対象化し、それらを丹念に織り合わせて楽曲を編み上げる精緻な作家性。そして、ロックの果てへと己を駆り立て、今この時代にロックバンドという表現をさらに熱くドライブさせようとする冒険精神――。彼がその両面を兼ね備えた先駆的なクリエイターであるということは、誰しも疑いようのないところだろう。

『HOWLS』に収められている「生まれて初めて書いた失恋の曲」(wowaka)ことグランジバラード“青”では「マーシャルのアンプをフルテンにして、そこから音作りを始めた」と話していた通り、『HOWLS』では魂の震動を音楽に注ぎ込む瞬間の喜びを過去最高に感じていたことが窺える。

「もう命みたいな、人間みたいな。そういうものが音楽になる、っていうのは、すごい経験をしましたね」

「やっぱりみんな、どういう方法でも命を燃やしながら、自分を鳴らそうとしながら生きてるわけじゃないですか。それをやる上で、ロックバンドっていうのは一番すげえな、って僕は感動してきたので。そういうことをやっていきたいですね」

インタビューの中で、wowakaはそんなまっすぐな言葉で自らの情熱を、これまで取材で会った中でも最高に屈託のない笑顔とともに語ってくれた。それだけに、31歳というあまりにも早すぎる別れには余計に途方に暮れているし、寂しさが募る。

折しもそのインタビューが行われたのは2月15日、数時間前に発表されたばかりのNUMBER GIRL再結成にメンバー全員沸き返っている中でのことだった。
「NUMBER GIRLの話はまた場を改めていくらでも受けて立ちますよ」と言って部屋を出たあの時が、僕にとっては結果的にwowakaとの最後の時間になってしまった。

ここに謹んでご冥福をお祈りします。(高橋智樹)
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