CMを通じてお茶の間に現れたサカナクション・山口一郎の音楽的存在感について

CMを通じてお茶の間に現れたサカナクション・山口一郎の音楽的存在感について
引越しをして、しばらくテレビを観ない(持っていない)日々を過ごしていたのだが、3月末に購入したテレビが4月頭に届いた。その矢先に、初めて聴く新曲であるにも関わらず一聴して「あ、サカナクションだ」とわかる楽曲がテレビから流れてきて、画面に目をやったら山口一郎が映っていた。カロリーメイト新CMの話だ。


広大な砂漠を彷徨う山口の周囲には、宙を泳ぐ魚の群れ。幻想的な光景は、来たるニューアルバム『834.194』収録の新曲“ナイロンの糸”と相まって、視聴する者をハッとさせ、意識を吸い込むように引きつける。山口の「考えつづける人にとって、栄養は、味方になる。満腹感は、敵になる」という台詞も聞こえてくる。日々どうにか思索の道を探り当てようとする山口の、サカナクションの、とても「らしい」CMだった。

もうひとつ、広瀬すずと吉沢亮が出演するソフトバンクのCMにも、山口が出演しサカナクションの新曲“忘れられないの”が使用されている。新生活の季節を背景に、嶋田久作扮する「速度制限マン」の悪戯を阻止しようと立ちはだかるのが、お父さん犬と連れ立つ山口なのだ。コミカルな格闘シーンまで見せている。こちらも、前述のCMとは趣が異なるが「らしい」出演ぶりだ。


カロリーメイトCMのインタビュー動画や、ソフトバンクCMについてのこちらの記事の山口コメントからは、彼が苦心し思考を重ねてこれらのCM出演・楽曲タイアップに臨んだことが窺える。もちろん、6月19日(水)リリースが待たれるニューアルバム『834.194』のプロモーションという意味合いはあるだろうが、それだけではない。

一瞬のCMの中でそれとわかる、豊かな情感を孕んだサカナクション楽曲と、彼の人間性の「らしさ」を遺憾なく発揮してCM出演に臨んだ山口。ときには、クリエイターとしての一面を食生活から語り、ときには、現代のリスニング環境において見過ごすわけにはいかない通信の課題にも、極めてポップな形で働きかけている。

決して役者でもTVタレントでも、テレビ映えするギラギラとしたロックスターの風体でもない山口は、サカナクション楽曲を我々の現代生活に染み込ませて音楽の意味を問うのと同じように、彼自身をありのままのクリエイターとして、アーティストとして、テレビCMというカルチャーに染み込ませたのである。そのための飽くなき思考と創意工夫が、2本のCMからは浮かび上がってくる。(小池宏和)
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