ハンブレッダーズの描く「教室の隅っこからヒロインを眺める冴えない主人公」が私たちを勇気づける理由

ハンブレッダーズの描く「教室の隅っこからヒロインを眺める冴えない主人公」が私たちを勇気づける理由
年末になり、今年リリースされた曲を振り返っているところだが、5月にMVが公開されたハンブレッダーズの“銀河高速”は屈指の名曲だと改めて思った。ストレートなギターロックサウンドが体現する、ロックバンドの泥臭さ、それゆえの輝き。狭くて暗いライブハウスで歌い鳴らす行為は――ハイエースで全国をまわり、僕はここに生きているのだと叫びを上げる行為は、非効率で時代遅れなのかもしれない。だからこそ、それでも生身のロックバンドに惹かれてしまう、どうしようもない私たちに寄り添ってくれる曲はそう多くない。こんな曲にずっと出会いたかった。“銀河高速”を初めて聴いた時、私はそう思った。

ハンブレッダーズが結成されたのは2009年。元々は高校の文化祭に出演するために組んだバンドだったが、大学進学後も活動を続け、現在に至る。メンバーは、ムツムロアキラ(Vo・G)、でらし(B・Cho)、木島(Dr)の3名。今年5月には、長いこと彼らとともに歩んできた吉野エクスプロージョン(G・Cho)が正式メンバーを外れ、サポートメンバーとしてバンドに携わることが発表された。そのニュースでハンブレッダーズのことを知った人もいたことだろう。現在バンドは、ギタリストをサポートに迎えた4ピース編成で活動中で、ムツムロのブログによると、「新しいギタリストが見つかるまで暫くの間は吉野に協力してもらいます。もしかしたらすぐかも知れないし、半年かも知れないし、一年以上かも知れないし、それはわかりません」とのこと。彼らは、来年2月19日(水)にアルバム『ユースレスマシン』でトイズファクトリーよりメジャーデビュー。また、3~4月に自身最大規模の全国ワンマンツアーを開催する。

バンド自ら掲げる「ネバーエンディング思春期」というキャッチコピーがハンブレッダーズの在り方をよく言い当てている。では、その「思春期」とはどういうものなのか。2018年1月にリリースされた初の全国流通盤『純異性交遊』の収録曲“スクールマジシャンガール”は、それを分かりやすく示すような、ハンブレッダーズの王道にあたる曲だ。どの曲から聴き始めるべきか悩んでいる人にはまずこちらをおすすめしたい。


“スクールマジシャンガール”ではクラスメイトの《君》に想いを寄せる《僕》目線の歌詞が特徴的。《僕》が《君》と目が合ったり名前を呼ばれたりしただけで硬直して喋れなくなってしまっているように、2人は交際しているわけではなく、それどころか会話することもごく稀。教室の隅っこからヒロインを眺めるどこか冴えない主人公、といった感じだ。同じく『純異性交遊』に収録されている“フェイクファー”という曲も紹介したい。「友達以上恋人未満」ならぬ《知り合い以上友達未満》というフレーズは、自分自身と恋する相手との距離の遠さ、接点があまりにもないことを物語っている。また、《粘土細工》や《計算ドリル》という単語から読み取れるように、これ、おそらく中学高校時代の話ではなく、小学校の頃の思い出である。ここまで初恋を拗らせているのもすごい。曲にすることでどうにか成立しているような、普通に言うのではギリギリアウトな拗らせ方だ。


そんななか、ハンブレッダーズの曲において、音楽とは、うだつの上がらない学生生活の逃げ場として度々描かれてきた。“DAY DREAM BEAT”という曲はその典型だ。それと同時に、音楽とは、大人になっても手放したくないもの=「青春」の象徴として描かれてきた。“弱者の為の騒音を”にある《奇跡も愛も純情も 今更 信じらんないが/信じる僕でいたいから》というフレーズは純粋さを忘れたくないという願いから来るものだし、“逃飛行”にある《数分間の天下無双は/気のせいだってわかってるんだけど/なんだかちょびっと/ワクワクするんだ》というフレーズからは、教室の真ん中に躍り出ることのできない感覚のまま、一夜限りのヒーローになる今の彼らの姿が浮かぶ。


“銀河高速”は、彼らがずっと鳴らしてきた「青春」に、バンドの内部的な事情が掛け合わさることによって生まれた曲だった。人生の分岐点において「バンドを続ける」という選択をした彼ら。それはバンドという名の「青春」を輝かせ続けるという覚悟でもある。「ヘッドフォンの中は宇宙。だとしたら、バカみたいな話をしたり、大好きな音楽をカーステレオから流してライブハウスに向かったあの高速道路は、銀河だと思った」とは同曲発表当時のムツムロの言葉だ。


当初ハンブレッダーズの曲では文字通りの思春期、10代の頃の心情が多く歌われていたが、メンバー自身が歳を重ねるにつれて、彼らの鳴らす「青春」の形は変容しつつある。一方、鬱屈とした学生生活を送りながら人知れず妄想を爆発させていた、あの頃の純粋な気持ちは変わらずそこに在る。社会に出て、仕事に就き、妥協や諦めを覚えるなかで、私たちがあの日に置き去りにしてしまいがちなことを彼らは鳴らしてくれているのだ。だから私はハンブレッダーズの登場に希望を感じている。このバンドのことを、信じているのだ。(蜂須賀ちなみ)
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