ポルカドットスティングレイ。数々の精力的な活動でもって加速度的に音楽シーンを席巻するそんなポルカが放つ次なる一手こそが、前作『ハイパークラクション』から僅か3ヶ月弱のスパンで送り出されるミニアルバム、『新世紀』である。
2017年に発売されたフルアルバム『全知全能』以降、幾度もタイアップを手掛けてきたポルカだが、世紀の始まりを表す本来の意味に加え、革新的かつ未来的な意味合いも兼ね備えた『新世紀』と題された今作は、なんと収録された全楽曲がタイアップ曲という代物。加えて、かねてよりストロングポイントとして確立していた魅力は一層強固なものとなり、バンド史上初となる試みも取り入れられた『新世紀』は十中八九、ポルカの新たな1ページを切り開く、重要な存在となることだろう。
まずは『新世紀』における、ポルカの新たな一面から紐解いていきたい。人間関係の複雑な距離感を文字通り痛みを伴って訴えかける“トゲめくスピカ”や、《貴様次第》とのキラーワードが炸裂する“sp813”など、目新しい部分が散見される楽曲は数あれど、ポルカのニューモードを最も端的に表している楽曲として挙げられるのは、冒頭を飾るリード曲“SQUEEZE”だろう。
“SQUEEZE”の印象深い点はズバリ、メロ部分におけるラップパート。これまでもロックバンドのイメージにとらわれず多種多様なジャンルの楽曲を世に送り出してきたポルカだが、本格的なラップの導入は“SQUEEZE”が初となる。英語を取り入れつつ矢継ぎ早に繰り出される軽快なラップ部分が一転、清涼感溢れるサビに移行する構成は新鮮で、そのポップなサウンドも相まって、ビビッドに鼓膜を刺激する。
そして同じく新機軸であり、ポルカにとっての更なる深化としても顕著に現れているのが、今まで以上にタイアップ先のブランドコンセプトに寄り添った歌詞である。
“SQUEEZE”のタイアップに選ばれたのは、“レム”のMVでも話題となったサントリーと、“DENKOUSEKKA”のMVで共演を果たした「けたたましく動くクマ」(通称けたくま)を手掛けたたかだべあによる新キャラクター、ラッコズ。先日公開されたMV内ではとりわけラッコズを前面に押し出していた“SQUEEZE”だが、こと歌詞においてはサントリー色の強い構成となっている。併せて“SQUEEZE”はサントリーの清涼飲料水「天然水スパークリングレモン」とのコラボレーションを担っていることもあり、歌詞中には《A・B・C・B・炭酸》、《夢から醒めるような閃き》と強炭酸がもたらす爽快感を表現し、タイトルも「SQUEEZE(搾る)」とタイアップを直接的に意識した形に。中盤のサビ部分では商品名をストレートに歌詞に取り入れた《俄然今 SPARKLING EYES ON ME》の一文も見受けられ、楽曲全体を包み込むアクティブなイメージと商品の特徴を巧みに合致させ、唯一無二の世界観を生み出している印象だ。
続く“sp813”は、雫(Vo・G)がナビゲーターを担当するJ-WAVE『SPARK』火曜日内の企画で作り上げられたロックチューン。楽曲内ではスラップベースとリードギターが織り成す骨太なサウンドに乗せて「あなた」に対する切実な思いが綴られる他、《火曜の夜に》や《月が綺麗》といった深夜帯のラジオならではの歌詞も飛び出すなど、コラボソングであることを明示する一幕も。中でも前述した《月が綺麗》とのフレーズは深夜放送のラジオとしての側面と、文学的隠喩表現である「月が綺麗(愛していますの意)」とのダブルミーニングであるとも解釈でき、総じてラジオ番組との繋がりを見せつつも、楽曲の持つメッセージ性をより強く表現する役割も担っている。
……繰り返すが、『新世紀』に収録されている楽曲の全てはタイアップ曲である。よって必然的に分かりやすい形で原作や企業が脳裏を過る歌詞も複数組み込まれており、楽曲全体を読み解くことで最終的にはポルカからタイアップ先、あるいはタイアップ先からポルカへと、注目という名の恩恵を双方が享受することのできる工夫が凝らされている。
しかしながら『新世紀』を、タイアップのみに振り切った企業的なアルバムであると盲目的に捉えてしまうのは、いささか早計だ。なぜならいちリスナーとしては純然たる新たな名曲として映り、同時にタイアップ先に造詣の深いファンにとっては口元が緩んでしまう絶妙なバランスでもって構成された楽曲群からは、「あくまでもファン目線で、それでいてタイアップ先も一切蔑ろにしない」というバンドの中心人物である雫の確固たる信念が、ひしひしと伝わってくるようでもあるからである。
思えば結成当初より、雫が最も重きを置く存在は自身ではなく、一貫してファンであった。Twitter上でファンに日常生活において見聞きした印象的な言葉を募り、断片的に繋ぎ合わせて歌詞に起こした“半泣き黒猫団のテーマ”然り、同じくTwitterのアンケート機能を用いた曲調のリクエスト然り、雫は常にフットワーク軽く戦略的思考を巡らせながら、徹底してファンの反応を第一義として音楽活動を行ってきた。
“SQUEEZE”、“sp813”、“トゲめくスピカ”、“女神”……。『新世紀』に新規収録された4つの楽曲はタイアップという側面を廃し、ポルカのいち楽曲として見てもいずれも極限まで研ぎ澄まされており、異なる強みが秘められている。それでいて「新機軸のポルカ」と「深化したポルカ」の両面を混在して形成された『新世紀』は、ポルカが近い未来に更なる高みへと辿り着くための、足掛かりともなり得るアルバムであると言えるのではなかろうか。
楽曲の引き出しを拡張し、持ち前のストロングポイントは進化を遂げつつ、際限なく逞しさを増すポルカ。3月からは今作を携えての過去最大規模となる全国ツアーも決定していることからも、2020年はより一層の飛躍の年となるに違いない。今年結成5周年イヤーを迎えるポルカの始まりの第一歩は、このアルバムからだ。(キタガワ)
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昨年は初の日本武道館公演を完遂し、2枚のアルバムのリリースに至ったポルカドットスティングレイは5周年イヤー1発目の『新世紀』で「新化」したのか?「深化」したのか?
2020.01.07 12:00