2020年を迎えて早くも初夏に。パンデミックの影響で巣ごもりの時間が長引くなか、音楽を心の拠りどころにする人も多いことでしょう。そこで、ロッキング・オンが選んだ「2010年代のベスト・アルバム 究極の100枚(rockin’on 2020年3月号掲載)」の中から、さらに厳選した20枚を毎日1作品ずつ紹介していきます。
10年間の「究極の100枚」に選ばれた作品はこちら!
2013年
『モダン・ヴァンパイアズ・オブ・ザ・シティ』
ヴァンパイア・ウィークエンド
ブルックリン発、最終出口着
本アルバムが出たのが、もう7年近く前になる13年のこと。最初に聴いたときの開放感は、いまでもまったく薄れることなく、昨年出た最新作『ファーザー・オブ・ザ・ブライド』にまで、みごとにつながっていることにグループへの思い入れがさらに膨らむ人も多いだろう。サードとなる本作が出る前を振り返ると、10年に出したセカンドの『コントラ』が米英のチャートを駆け上がるヒットを記録、すでにヴァンパイア・ウィークエンドはブルックリンのインディ・バンドというポジションをとっくに突き抜け、若手の中でも最注目株であった。
ニューヨーク、コロンビア大学に学び、ダーティー・プロジェクターズにもいたエズラ・クーニグ(Vo/G)を中心に、マルチ・プレイヤーのロスタム・バトマングリ(Key/Vo)、クリス・バイオ(B)、クリストファー・トムソン(Dr)によって06年に結成されたグループは、そのキャリアや背景を見ると、ニューヨーク、ブルックリンのインディ・シーンがそれまで培ってきたものの集積的な要素もあり、そこに新世代ならではの経験値がたっぷりと加わり、すべてが新たな魅力へと変換、集約されていた。
アフロ・ミュージックやカリビアン・ミュージックの要素もモダン・ポップスのマナーとして巧みに組み入れるところは、大都市で豊富な音に接してきた連中ならではのスケール感であるし、同世代の聴き手たちが光に吸い寄せられるように自然と集まり、後押しをしていた。そんな人気が膨らんでいる頂点で出た本作は、まさに誰もが望んだものだった。地元ブルックリンを離れたLAでレコーディング、初の外部プロデューサーの起用といったグループなりの新たな挑戦から生まれたサウンドは、スモッグに覆われた60年代のニューヨークの写真を使ったジャケットと絶妙にミックスされ、まさにモダンな吸血鬼が、現代の大都会上空を跋扈する光景を想起させる。
各曲のクオリティがどれも高く、“ダイアン・ヤング”や“ヤ・ヘイ”等をフィーチャーしてもよし、“ハンナ・ハント”のような際立って美しい曲やパンク・テイストの“フィンガー・バック”に夢中になるのも自然だろう。アルバムとしての全体のバランス、トータリティもパーフェクトで、挑戦的な部分と培ってきたものとのミックス具合が素晴らしく、まさに本企画にふさわしい10年代というディケイドを象徴する一枚だ。(大鷹俊一)