「金持ちか貧しいかなんてどうでもいい、僕がステージに上がってやるのは、全てを捧げること。ステージに上がったら、死ぬ気でやる！脚が折れていようが、借金で首も回らない状態になっていようが、ただただパフォーマンスをやりきって、自分の内側から湧きあがるものを証明するだけさ」
フレディ・マーキュリーが亡くなって今年で30年が経つが、彼の45年の短くも鮮烈な人生は今なお多くの人々を魅了してやまない。
この世を去ってなお第二、第三の黄金期を更新し続けている彼の輝きは、映画『ボヘミアン・ラプソディ』の歴史的大ヒットによって近年より一層強まっているようにすら感じる。なぜ私たちはこれほどまでにフレディに惹かれ続けるのか─それは彼が永遠に答えの見つからない「謎」だからではないだろうか。
もちろん、「謎」とは言え私たちはフレディについて多くのことを知っている。彼と彼の仲間が遺した無数の作品や証言の数々、幾つもの忘れがたいステージの記憶は、生き生きとフレディ・マーキュリーという人を蘇らせていくからだ。
例えば、フレディがぶっ飛んだ天才の中にロジカルな思考を秘めていたことも、身を削ることも厭わない完璧主義者なのに、明日のことなど微塵も考えない快楽主義者だったことも私たちは知っている。
ロマンティックなリアリストだったことも、猫のように気まぐれなのに子供のように寂しがり、抜群のユーモア・センスで世間を煙に巻きながらも、時に深く傷ついていたことも知っている。
数万、数十万人を掌握する無敵のエンターテイナーでありながら、一度ステージを降りると信じられないほど内気だったことも、死の淵を覗き込むほどの孤独に苛まれながらも、「どのみち風は吹くのだから」と己が境地を手玉にとって遊んでみせる、達観の人であったことも知っている。
しかし、フレディをフレディたらしめてきたこれらのアンビバレントな要素を幾つ知っていたとしても、「本当のフレディ」を知る人は今も昔もほとんどいない。誰よりも彼と近しかったはずのブライアンやロジャーも、フレディをそれぞれにまったく違う人物のように語っている時があるし、フレディ本人のインタビューの中ですら、幾つもの人格が忙しなく出入りしている。
フレディ・マーキュリーとは、まるで色取り取りのピースで象られたモザイク画のようなスーパースターだ。
ひとりの人間の檻には到底収まりきれないそのペルソナの錯綜は、彼が終わらない物語の主人公の所以でもある。そしてクイーンとは、あらゆる矛盾・混乱を抱き抱えて生きていたフレディが初めて許容され、「本当の自分」よりはるかに愛せる自分を見出した場所だった。
現実と幻想の反転した世界で手にした、初めての勝利だった。
フレディは今もそこにいる。
永遠とは泡沫の連続であり、それでも「ショウ」は続くのだから。 （粉川しの）
今回の巻頭特集には、以下のコンテンツが含まれています。
☆フレディ・マーキュリー、華麗なるフォト・ギャラリー
☆1981年、US制覇時代のフレディ唯我独尊インタビュー
☆ブライアン&ロジャー、フレディの想い出を語り尽くした決定的インタビュー
☆徹底レビュー THE GREATEST 10 SONGS OF QUEEN
☆1992年「 フレディ・マーキュリー追悼コンサート」 再現レポート
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『rockin'on』2021年5月号
