奇跡の共演とか、前代未聞のサプライズとか。大袈裟な見出しが伴う出来事ほど実はさほど驚きに値しなかったりするのは世の常ではあるが、これには驚かされた。なんとミック・ジャガーとデイヴ・グロールのコラボレーションが実現したのである。
4月14日、ミックが自身のYouTubeチャンネルにアップしたのは“イージー・スリージー”と題された新曲のビデオ。御大は「ロックダウンからの脱出について、本来あるべきほどほどの楽観性をもって書いたこの曲を、みんなとシェアしたい」との言葉をそこに添え、彼と歌声を重ねるのみならずギター、ベースとドラムを演奏しているデイヴに対する謝意を示している。
実際、その映像にはミックがギターを弾きながら歌い、増殖したデイヴが他すべてのパートを演奏している姿が、皮肉とユーモアが入り交じった歌詞とともに収められている。《ワクチンを打ったら/血の中にビル・ゲイツが流れ込む/そんなのマインド・コントロールだろ》といったその一節からも察することができるように、彼は無闇に反ワクチンを提唱する陰謀論者たちに対してだいぶムカついている様子。77歳の現在もなお、そうした批判精神を適度なユーモアとともにロックンロールに落とし込んでいるそのさまは、天晴としか言いようがない。
レコーディングは、当然ながら個別に実施されている。デイヴがマルチな演奏家であるばかりでなく今様の宅録に精通していることもミックにとっての判断材料になったようで、彼が話を持ち掛けた翌日に実作業が行われたのだという。つまり制作自体もイージーに進んだわけだが、デイヴの側の驚きは当然ながら半端なものではない。2012年には米の人気TV番組『サタデー・ナイト・ライヴ』でミックとフー・ファイターズの共演が実現していたりもするが、今回のコラボについては「言葉にならない。夢が叶うどころの話じゃない!」という素直すぎるコメントを発している。
それにしても、今、このご時世で何かをするにあたってデイヴに声をかけるとは、ジャガー卿、さすがにお目が高い。そしてコロナ禍脱出のアンセムとなるべきこの曲は、デイヴにとっても『メディスン・アット・ミッドナイト』の先に広がる世界を示唆するものとなるのかもしれない。(増田勇一)
ミック・ジャガー×デイヴ・グロールの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』6月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。