【43日間、連続公開!】ロッキング・オンが選ぶ究極のロック・ドラマー43選/クエストラヴ

ロッキング・オン6月号では、「究極のギタリスト」を特集しています。そこでギタリスト特集とあわせて 、昨年の9月号に掲載したロッキング・オンが選ぶ「究極のロック・ドラマー」を43日にわたり、毎日1人ずつご紹介します。

「究極のロック・ドラマー」に選ばれたアーティストはこちら。

クエストラヴ(ザ・ルーツ)

【43日間、連続公開!】ロッキング・オンが選ぶ究極のロック・ドラマー43選/クエストラヴ

ヒップホップには、生のドラマーなんて必要ないでしょ?――世間には、いまだにそう思い込んでいる人たちもいる。確かに、ヒップホップの原点でもある”サンプリング・ビート”は、DJが古今東西のアナログ・レコードから拾い集めてきたものだったし、実際、当時のDJたちのほとんどはドラムなんか叩いたこともなかった。現代においても、多くのビート・メイカーたちは、はっきり言って「デジタル派」だ。

でも、だからと言って、ヒップホップ世代の音楽シーンに「本物のドラマー」がまったく必要ないというわけではない。現実的には、むしろその真逆である。希少価値であるからこそ、他に取って代われる人が少ないからこそ、現代のヒップホップ界では、「本物のドラマー」の存在価値はかつてないほど高まっている。そんな中にあって、ヒップホップ世代のドラマー番付の「東の横綱」に堂々と君臨するのが、アミール・カリブ・トンプソン――通称”クエストラヴ”――なのである。

クエストラヴのドラマーとしての輝かしい実績は、あまりにも多岐の分野に及んでいるため、どこから書き出していいのか迷うところだ。でも、やはりまずは、本家の所属グループであるザ・ルーツのドラマーとしての長きにわたっての活躍を挙げないわけにはいかないだろう。クエストラヴとラッパーのブラック・ソートが地元フィラデルフィアの音楽学校に在籍中に結成したザ・ルーツは、93年にレコード・デビュー。大人数の「ライブ・バンド編成」のヒップホップ・グループというフォーマットは、当時から珍しく、それだけで充分に話題となった。

最初のブレイクスルー作となったのは、ヒット曲”ユー・ゴット・ミー”を収録した99年の『シングズ・フォール・アパート』。その後もコンスタントに新作をリリースし続け、現在までに全11枚のオリジナル・アルバムを発表。近年では、貧困地域に生まれ育ったアフリカ系アメリカ人の物語を描くコンセプト・アルバムに挑むなど、そのチャレンジ精神は、今なお衰え知らず。浮き沈みの激しいヒップホップ界の中にあって、まさに「唯一無二」の存在感である。

そんなザ・ルーツでの音楽活動に加え、クエストラヴは、単独プロデューサーや雇われドラマーの立場としても、数多くの外部アーティストの作品に参加してきた。中でもソウル/ヒップホップ界に強烈な印象を残したのは、90年代後半〜00年代前半ごろ、クエストラヴがコモンやJ・ディラらと共同で主導した音楽集団、その名も「ソウルクエリアンズ」関連の作品だろう。

00年代最強のファンク名盤として名高いディアンジェロの『Voodoo』を筆頭とし、この時期にクエストラヴが参加した作品は、コモン『ライク・ウォーター・フォー・チョコレート』、エリカ・バドゥ『ママズ・ガン』、モス・デフ『ブラック・オン・ボース・サイズ』、ビラル『1STボーン・セカンド』などなど、いずれも、当時のネオ・ソウル/オルタナティブ・ヒップホップ界を代表する名盤ばかり。今聴き直しても、ぜんぜん古びていない。というか、むしろ、神がかり的にかっこいい。

00年代になると、音楽業界内でのクエストラヴへの信頼度はグングンうなぎ上りとなり、高ギャラな仕事のオファーがますます舞い込んでくるようになってくる。中でも、特にこの時期にクエストラヴと頻繁にコラボしていたのが、当時のヒップホップ界の「ザ・キング」的な存在だったジェイ・Zだ。01年発表の『ジェイ・Z・アンプラグド』でのバンドにザ・ルーツを起用したのをきっかけに、その後の自身のアリーナ・ツアーでは、ドラマーだけでなく、音楽総合監督というポジションでクエストラヴを大抜擢。「アリーナ・クラスの会場でのヒップホップ・ライブに、ロック・コンサートの圧倒的なカタルシスを取り込みたい!」という、ジェイ・Zのかねてからの「野望」を叶えるためのパズルの最後の1ピースがクエストラヴだったわけだ。

グルーヴ感の心地よさを徹底的に追求するクエストラヴのドラム・プレイは、ソウルやファンク、ジャズやロックやアフロビートなど、あらゆる音楽ジャンルをマッシュアップしながら、スムーズに紡がれていく。若いころに音楽の専門学校で学び、いわゆる理論的な知識もしっかり身につけている一方で、ジェームス・ブラウンプリンスなど、偉大なる先人たちへの「オタク的」な偏愛も持ち合わせていて、インタビューなどでその手の話を振られると、愛が溢れすぎて止まらなくなっちゃう――そんなお茶目な一面も、クエストラヴが音楽ファンの間で熱狂的に支持され続けている理由のひとつなのだと思う。グルーヴは、いつだって、愛なのだ。(内瀬戸久司)



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