プライマル・スクリームのもっかの最新作『カオスモシス』から5年になる今年、主格ボビー・ギレスピーが新たなプロジェクトで帰還する。7月に〈サード・マン・レコーズ/ソニーミュージック〉より登場する『ユートピアン・アッシェズ』は、なんとサヴェージズのジェニー・ベスとのコラボレーション。かたや英ロック界のピーター・パン、かたやフランス発の麗――エッジと華のある新旧カリスマのまさに夢の共演であり、PS結成から数えれば40年近いキャリアの中でボビーにとって実は初のソロ・ベンチャーという意味でも大いに期待が募る。
両者の個性からして、ザ・デッド・ウェザーのようなポスト・パンク~ガレージ路線になっても不思議はない。だが、予告公開された“Remember We Were Lovers”は予想を裏切るド渋なバラード。『ギヴ・アウト・バット・ドント・ギヴ・アップ』期に聴かせたカントリー・ソウルをしのばせる味わいはイザベル・キャンベル&マーク・ラネガンのネオ・ノワールな世界観に近く、個人的にはめちゃ嬉しい。
ボビーとジェニーは2015年、ロンドンでおこなわれたスーサイドのショウ(これがスーサイド最後のライブになった)でゲスト共演して以来交流を続け、イネス&ダフィ、ジョニー・ホスタイル(ジェニーのパートナーでサヴェージズのプロデューサー)らも巻き込んで過去数年コラボ案を練ってきたという。
そんな中で、架空のキャラクターを作り上げその物語を両者が演じるというコンセプトが浮上。本作向けの声明でボビーは「音楽に痛みを取り戻したかった。モダンなロックにはそれが欠けている」と語っているが、とあるカップルと彼らの結婚の終わりを描くという内容はまさに「ユートピア(楽園)の灰」であり、それはまた失ってきた様々なものへのシンボリックな手向けでもあるのだろう。
今から号泣覚悟で待つつもりだが、ボビーは初の回想録『Tenement Kid』出版も待機中。グラスゴーのスラムで育った子供時代から『スクリーマデリカ』までを振り返った内容だそうでファンはこれまたワクワクだが、ああ見えて今まであまりアートにパーソナルを混ぜてこなかったクールな彼が、今年は腹を割ってくれるようだ。(坂本麻里子)
ボビー・ギレスピーとジェニー・ベスの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』6月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。