【43日間、連続公開!】ロッキング・オンが選ぶ究極のロック・ドラマー43選/ダニー・ケアリー

ロッキング・オン6月号では、「究極のギタリスト」を特集しています。そこでギタリスト特集とあわせて 、昨年の9月号に掲載したロッキング・オンが選ぶ「究極のロック・ドラマー」を43日にわたり、毎日1人ずつご紹介します。

「究極のロック・ドラマー」に選ばれたアーティストはこちら。

ダニー・ケアリー(トゥール)

【43日間、連続公開!】ロッキング・オンが選ぶ究極のロック・ドラマー43選/ダニー・ケアリー

例えば「21世紀の最強ロック・ドラマーは誰だ?」とかいったベタなテーマをふられた場合、個人的にまず思い浮かぶのは、ジョン・セオドアとかジョーイ・ジョーディソンあたりになるかもしれない。ただし、このふたりに関して言うと、それぞれマーズ・ヴォルタスリップノットで「時代を切り開いた」サウンドの中核を担っていると考えられていた(実際そうだった)のに、脱退後もディアントニ・パークスやトーマス・プリジェン、あるいはジェイ・ワインバーグらによって補充され(賛否両論はあれど)バンドが存続できたこともまた明らかな事実だ。

そこで、ふと「もしもダニー・ケアリーがトゥールからいなくなったら?」という問いを思いついたのだが……いやいや、こればかりは絶対に代替置換など不可能、という結論は動かない。言ってみれば、ダニーは「最も強力な」という以上に「最も変わっている」点で突出したドラマーだからだ。YouTubeに「トゥール叩いてみた」的な動画が上がっていて、天晴なコピーをしてみせる人がいても、それらを観れば観るほど、たとえ真似して叩くことが可能であれ、本人以外のプレイが、トゥールの根幹を支えることは無理筋だという気持ちを新たにする。

2メートル近い長身から繰り出される強力なビートに加え、あの長く逞しい手足をよくもここまで細やかに動かせるなと感服するしかないタッチで、大量のタムやシンバル、ダブル・ベースなどを駆使して紡ぎ出される変拍子&ポリリズムは、トゥールの最重要パーツとなる摩訶不思議なグルーヴを形成していく。それは、やはり彼以外には創出できないだろう。

ダニーは、トゥールの作品にも参加しているアローク・ダッタというタブラ奏者に師事した経験を活かして、単にリズムを刻むだけでなく、より音階的な要素を含んだパーカッション類を自身のドラム・キットに取り入れている(ちなみにダッタ師匠はテリー・ボジオやパット・マステロットにもタブラを教えたので、三者がそれをどうのみ込んで自らの表現に反映したか比較するのも面白いかも)。ライブにおいてはパッドによって再現される、民族音楽的な雰囲気を有したプレイは、集中して耳を傾けているうちに、つい「フィボナッチ数列……」とかなんとか口走ってしまいそうになる複雑な幾何学模様を描き出す。それをトレースしたかのような、例のジャケットやステージセットの映像美術とも相まって、聴く者には幻惑的な体験がもたらされることになるわけだ。

トゥールというバンドが、これだけ際立った異形の様相を見せつけながら、同時に全米ナンバー1を獲得し、テイラー・スウィフトを凌ぐほどのインパクトでセールス面での成功を達成できるのは、アダム・ジョーンズとジャスティン・チャンセラーが要所要所で提供するフックの効いたリフや、何よりメイナード・ジェームス・キーナンの美声が光るボーカル・メロディーによるところが大きいが、決してそればかりではなく、ダニーのドラミング自体も、先入観を超えて意外にキャッチーな性質を備えているように思う。

バスケットボールのユニフォームを着てステージに上がっていたりするため、体育会系のイメージを受ける人もいるかもしれないが、一方でオカルト・マニアな一面もあったりして、他のメンバーに負けず劣らずの「個性的なキャラクター」の持ち主でもある。

昨年にはビンテージのアナログ・シンセサイザーに関する著書を出しているくらいのマニアで、トゥールの最新アルバム『フィア・イノキュラム』に収録された“チョコレート・チップ・トリップ”(※メンバーが各自で用意した4つのセグエのうち、ダニーが作ったこのトラックのみがCD盤にも収録されている)では、ドラム・ソロとアナログ・シンセの融合を聴くことができる。アナログ・シーケンサーは、音階に縛られずに音程の変化を設定できる特徴があるらしいので、ダニーのドラム・スタイルに見られる既存のルールから脱した別の法則性という共通点が見られる気もする。

この独自性のルーツとなった先達のひとりが、キング・クリムゾンのビル・ブルーフォードであることは間違いない。一時期ダニーは、ビルが80年代のクリムゾンで使用していた六角形のシモンズ・エレクトロニック・ドラムを自らのキットに組み込んでいた。また、筆者は2001年にトゥールとクリムゾンが共演したコンサートを幸運にも観ることができたのだが、この時は、クリムゾンが“レッド”を演奏している途中、ダニーがパット・マステロットと交代するスペシャルな場面が実現している。ダニーがこのままクリムゾンに入ったら……という夢想は、以降しばらく頭を離れなかった。(鈴木喜之)



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