ジョン・メイヤー、80年代ポップ・ロックをセラピーにしてミッドライフ・クライシスの憂鬱をやさしく癒す――驚異の新作『ソブ・ロック』を聴き尽くそう!

ジョン・メイヤー、80年代ポップ・ロックをセラピーにしてミッドライフ・クライシスの憂鬱をやさしく癒す――驚異の新作『ソブ・ロック』を聴き尽くそう!

スーパー・ギタリストにして、シンガー・ソングライターとしては独自のポップな世界観を打ち出すところが魅力のジョン・メイヤーだが、今回の新作『ソブ・ロック』がまた大胆すぎる内容になっている。というのも、今回ジョンが打ち出してきたのは、80年代ポップ・ロックだからだ。

もちろん先駆けとなったのは、2018年にシングル・リリースし19年の来日公演でも披露した、甘いシンセ・ポップの“ニュー・ライト”だ。ずっと友達扱い止まりのままの相手を思いながら「一度でいいからぼくのことをきちんと見てくれないかな」という切ない恋心を綴る曲で、この思いを80年代的なアレンジとサウンドに乗せてしまうジョンの芸当があまりにもすごすぎたのだ。ただ、19年のライブでこの曲を目撃した時点では、さすがにほかの楽曲群とは異質で、突然変異的な単独シングルとしてこの先は記憶されるのだろうと踏んでいた。

しかし今回のアルバムは、蓋を開けてみるとほぼ全曲がこの80年代ポップ・ロックのテイストを追求するアプローチをとっていて、ここまでやるかとあらためてジョンの鬼才ぶりを見せつけられた思いだ。

なかでも象徴的なのが、極力アレンジは抑えてあるが80年代サウンドがやはり特徴的な“アイ・ゲス・アイ・ジャスト・フィール・ライク”で、今作の試みの必然性をよくわからせてくれる。というのもこの曲は、40代にさしかかって語り手(ジョン)が感じる、人生やさまざまなものへの幻滅を歌っていて、かなり暗いものだからだ。

しかし、ここで語り手が伝えたいのはその暗さではなく、そんな喪失感に苛まれる自身の切なさだ。だからこそ、その憂いをどこまでもやさしいメロディとともに伝えるために、この80年代サウンドを打ち出しているわけだ。それに、もともと“ニュー・ライト”の語り手も同様に「お友達のまま40代にさしかかっている」人物なのだ。

つまり、これは全編ミッドライフ・クライシス・アルバムであって、その憂鬱が癒される形で伝えるためにジョンは80年代ポップ・ロックを作り直していて、この力業がすごいのだ。 (高見展)



ジョン・メイヤーの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』8月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。

ジョン・メイヤー、80年代ポップ・ロックをセラピーにしてミッドライフ・クライシスの憂鬱をやさしく癒す――驚異の新作『ソブ・ロック』を聴き尽くそう! - 『rockin'on』2021年8月号『rockin'on』2021年8月号

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