もはや全員おめでとう!
「個」が、「音楽」が、爆発した57歳のバースデーライブ完全レポ。宮本浩次の新たな始まりを見た!
文=天野史彬 撮影=岡田貴之
6月12日、横浜・ぴあアリーナMM。毎年恒例となったバースデーコンサート。バンドと共にあらず、ひとり、巨大なステージに立つ宮本浩次を観ながら、思った。「ああ、この人は腑に落ちているのだ」と。
腑に落ちている。何に? 己の命に。己の道に。己の魂に。己の身体に。己の哀しさに。己の喜びに。己の天国と地獄に。己の勝利と敗北に。己の生の率直さと複雑さ、その解決のされなさに。腑に落ちないということにすら、この人は腑に落ちているのだ。だから、この人の動きはこんなにも、あり得ないほどに自然で鮮やかなのだ。
この日の宮本に課された制約と自由、それは「宮本浩次であること」ただひとつだった。その身ひとつで、何をするか。彼は、ソファに寝そべってアコギで弾き語ったかと思えば、次の瞬間にはエレキギターを抱えて仁王立ちでマイクスタンドに向き合った。また次の瞬間にはバックに曲を流しながら朗々と歌い上げた。宮本は終始ヘッドマイクを付けており、それが彼の身体の躍動と解放を助けていた。歌われる楽曲の中には、エレファントカシマシの曲があれば、ソロの曲があり、自作曲があれば、他の誰かが作った楽曲もあった。歌詞の主語も時折変わった。しかし、一見バラバラに見える行為のすべてが、その音楽世界のすべてが、宮本浩次という男の中では同時に存在しているのだということ。彼の肉体の動きは、その事実を痛感させた。(以下、本誌記事に続く)
(『ROCKIN'ON JAPAN』2023年8月号より抜粋)
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