名刺の話  後編

名刺の話  後編

前回のムダ話の続き。
「立ち食いソバ屋で名刺じいさん」の話です。

お店の人に語っていた内容からすると、このじいさん、とっくに定年を迎えていて、
年金とアパートの家賃収入(持ってるみたいです)で暮らしている、ということだった。
そんなに聞き耳を立てていたのか俺は。
まあ立ててたんですが、つまり、この人、特に名刺を持つ必要、ないのです。
だから、住所と電話番号と名前だけが入った名刺だった。

店のおじさん「ああ、もうお勤めではないんですね」
じいさん「うん。でも、先輩が作れって言うから」

誰だ先輩って。っていうのはあるが、実はこれ、珍しくないというか、私、
前にも近い経験があります。

数年前のある時、とある宴席で、60代のおじさんと席が隣になって、少し話をした。
数年前に大病を患ったが、一命をとりとめ、今は仕事をやめて、夫婦で旅したりして、
悠々自適な生活を送っていると。

それはいいんですが。
名刺を出されたので「え? リタイアしたんじゃ」と思いつつ交換し、
その名刺を見ると、「有機農業で自家菜園をやっています」とか書いてある。
で、その畑の地図が、載っていたりする。

ああ、今はこういうお仕事なんですか。
と言ったら、仕事ではないと。
趣味で、畑を借りて、やっていると。
いや、いい趣味ですけど。でも、なんで名刺に刷るの?
っていうか、名刺、必要?

さっぱりわからない。

嘘です。わかります。その菜園おじさんも、立ち食いソバじいさんも。
とにかく、名刺がないと落ち着かないんだと思う。
で、ないとさびしいんだと思う。
それこそ、ないと、自分の存在がなんだかわからなくなるというか。
自分そのものが「ない」ような気持ちになる、というか。

なんかとても、ジャパニーズサラリーマンな話です。
で、その感じ、自分も思い当たるフシ、もう大変にある。
もう、いかにも、歳をとったらそういうことをやりそうな奴だと思う、自分は。
うわー。という、気持ちになります。


あ。逆のパターンもあるな。
ミュージシャン、普通、名刺、持ちません。
でも、有限会社スタジオローズの曽我部恵一社長とか、
株式会社フラワーカンパニーズの前川昌彦代表取締役は、
名刺、持っていないと不便なのではないか。
でも、どっちからも、もらったことありません。
たぶん、作っていないんだと思う。

ピザ・オブ・デスの横山健社長はどうだったっけ。
昔、インタヴューさせてもらったことがあるけど、名刺もらったかどうか、憶えてない。

ちなみに、1年ちょっと前から、GOING UNDER GROUNDの石原くんは、
ベーシスト兼
マネージャーになりましたが、彼は普通に名刺を持っています。
いただきました、私。
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