坂本慎太郎『幻とのつきあい方』
zelone records B005OMJREY(初回限定盤)
11月18日リリース
感覚や感触のような曖昧なものを、そのまんま、何にも損なうことなく、
メロディや音や歌詞にトレースできる才能において、坂本慎太郎という
アーティストは突出しているが、ただし、
「言葉じゃ説明できないから音楽やってるんですよ」
みたいなタイプの人ではない。
二度ほどインタヴューさせてもらったことがあるだけだけど、
言葉にできることはちゃんと言葉にして伝えよう、全部は無理かも
しれないけどできる限りそこに近づけよう、という努力を惜しまない人である。
で、また、言語能力に長けているので、それを実際にできる人でもある。
僕が持っているのは、そういう印象だった。
ということを、前にゆらゆら帝国が解散を発表した時に、このブログに
書いたことがあるが、あの時、公式サイトにアップされた
彼の文章を読んでも、それは明らかだったと思う。
逆に、そういう人だから、あの説明的な感じがまったくない、
聴き手にロジカルに「理解させる」のではなく、鳴った瞬間に一発で
「わからせる」「伝える」音楽を、作れるんだろうなあ、とも思う。
来週リリースされる、この坂本慎太郎のソロ・アルバムもまた、
正しくそういう作品だと思う。
もう何度聴いたかわからないくらい聴いているが、
「なんでゆらゆら帝国じゃなくソロなのか」
「なんでゆらゆら帝国を続けられなかったのか」
「なんでドラムとエンジニアリング以外のほぼすべてを
ひとりで作り上げたのか」
「なんで自分のレーベルを作ってそこから出すことにしたのか」
「なんでこのような歌詞でこのようなアレンジメントで
このようなサウンド・プロダクトなのか」
というようなことが、全部、聴くだけでわかってしまう。
「なんで?」とか、「これだったら別にバンドでもさあ」とか、
「なんかちょっとパッとしないなあ」みたいな
不透明なポイントが、本当に、不思議なくらい、ない。
別に、こういう音楽をやりたかったから、バンドを解散したわけではない。
現に、バンドが終わってすぐあとは、抜け殻みたいになって、何にもしてなかった。
恵比寿リキッドルームのサイトに載っているインタヴューで、
坂本慎太郎はそういう話をしている。
(これ http://www.liquidroom.net/interview/631/ )
本当にそうなんだろうと思う。
が、しかし、その言葉とは裏腹に、バンドではできなかった
だろうし、生まれなかったであろうものが、ここでは鳴っている。
まず、音楽として、日本のソウル・ミュージックとしてすばらしい作品だと思う。
「日本でソウル・ミュージックやるならこんな感じ」という
前例とはまったく違う、でもまぎれもなくソウル・ミュージックである、
こんな方法があったのか! やられた! という作品だと思う。
なんだけど、それとは別に、バンドを解散して最初に出す
ソロ作品としての、なんというか、「ありかたとしての正しさ」
みたいなことが、こんなに際立っている作品、ほかにないよなあ。
と、思ったので、以上のようなことを書きました。
とりあえず、これを聴いてがっかりする、ゆらゆら帝国のファン、
いないと思います。
いや、そりゃ「あのベースがない」「あのドラムがない」
「坂本慎太郎のギターもゆらゆらのあの感じじゃない」
という意味では、がっかりするかもしれないけど、
だってこれ、ゆらゆら帝国のアルバムじゃないし。
という意味で、ゆらゆら帝国に対して、とても誠実なアルバムでもある。
と、今、思いました。