2011年に東京事変が5枚目のフルアルバム『大発見』をリリースした時、僕は「東京事変が完全体になった」と書いた。
そして翌年、東京事変はメンバー全員がそれぞれ1曲ずつ作詞/作曲を手がけた5曲入りのアルバム『color bars』をリリースした後、解散。
そして8年ぶりの再生を経ての新作EP『ニュース』。
メンバー全員がそれぞれ1曲ずつ作曲、しかし今回は作詞はすべて椎名林檎。
先行された楽曲“選ばれざる国民”(浮雲作曲)、“永遠の不在証明”(椎名林檎作曲)、そして“うるうるうるう”(伊澤一葉作曲)、“現役プレイヤー”(亀田誠治作曲)と聴き進めるにつれて感じたのは、『大発見』で完全体になった東京事変が、さらに完熟しているということだった。
それぞれのメンバーがコンポーザーとして東京事変という音楽集団と満を持して最大限の覚悟とプロフェッショナリズムで向き合った楽曲。
そして、それぞれのプレイヤーがそれぞれの楽曲に満を持して最大限の覚悟とプロフェッショナリズムで向き合って紡いだ音。
その人生の酸いも甘いも嚼み分けて清濁併せ吞む、キレがあるのにコクがある味わいは、完膚なきまでに、これぞ東京事変だ。
が、しかしこのEPはそれだけではなかった。
ドラムス・刄田綴色作曲による4曲目“猫の手は借りて”こそ今作の最大のハイライトだと僕は声を大にして言いたい。
猫の視点から見るちっぽけな人間の所業が、社会の営みの縦揺れと宇宙の呼吸の横揺れに身を委ねるように、計算され過ぎていない心地よい符割りで歌われていく。
《猫は干支や星座に居ない…重大な役を全うしての免除》
東京事変がメンバーチェンジをしようとも、進化しようとも、歩みを止めようとも、再び進もうとも、始まりも終わりもなく不変の概念として持っている無垢と達観。
それが刄田綴色と椎名林檎の共作と、それを温かく包み込む今の東京事変ならではのメンバーシップによって形を持った。
これは完全体としての東京事変を超えて、不完全な私たちの心をひたひたに閏わせる1曲だ。(古河晋)