白黒つけられない私たちの日常をトワイライトで包み込む――TOMOO初のフルアルバム『TWO MOON』を聴いて

白黒つけられない私たちの日常をトワイライトで包み込む――TOMOO初のフルアルバム『TWO MOON』を聴いて
TOMOOが9月27日にリリースしたメジャー1stアルバム『TWO MOON』。

女性シンガーソングライターは数多いるけれど、こういう作品には近年出会えていなかった気がする。ふくよかなアルトボイス、自由奔放なメロディに手練れスタジオミュージシャンによる贅沢な演奏、細部にまでこだわりが詰まった丁寧な作品。Chara、宇多田ヒカル、椎名林檎、aiko――90年代後期にデビューした彼女たちの作品のような手触りを感じる作品、と言えば分かりやすいだろうか。

とは言え、そっくりそのままそれらのリバイバルというわけでもなく。小西康陽の「すべての女性シンガー・ソングライターは不思議ちゃんである」という金言を逆説的に援用すると、先述のアーティストにあった「不思議ちゃん」的なエキセントリックさのない、等身大で気取らない人柄がうかがえる、どこまでも実直なアルバム。


Dメロでグッと視界が開ける“Super Ball”で幕を開け、ベン・フォールズ・ファイヴ的なブロックコードが高らかに鳴り響くイントロから摩訶不思議な転調を繰り返すメジャーデビューシングル“オセロ”、名刺代わりの“Ginger”に、mabanuaによるシンセサウンドが今っぽい“酔ひもせす”、じっとりしたグルーヴの上を這いずり回るようなボーカリゼーションが印象的な“Grapefruit Moon”――冒頭5曲の完全無欠っぷりにはひれ伏すしかないし、やっぱりどうしてもグッときてしまうのは中間部のバラードゾーン。「17歳の頃に出会っていたら」という仮定が豊潤なストリングスサウンドとともに溢れ出す“17”から、名曲“ベーコンエピ”への流れが泣ける。


sugarbeansによるきらめくピアノアレンジが縁取るのは、幼少期から好きだった「ベーコンエピ」を起点として、他者との類似性と相補性に一喜一憂する恋愛の時めき。《大人になるのも 子供になるのも/きみとがいいよ きみとがいいよ》《裸になるのも 着飾りあうのも/きみとがいいよ きみとがいいよ》と相反するものが象徴的に掲げられているけれど、思えば《ギリギリのオセロ》(“オセロ”)に《ミルクとかコーヒーとか》(“Ginger”)、《恋はいまやあけぼの》(“酔ひもせす”)に《藍色の影と茜がとける頃》(“窓”)、《夜明けの星座》(“夜明けの君へ”)など、《境界線》(“Cinderella”)の狭間を描く曲ばかりが並ぶ。


ツアー「Walk on the Keys」で「私の心の中の旅は陰日向を繰り返していて、いつも光と、光に寄り添った影のことを歌ってきた」語っていた通り、光と影、白鍵と黒鍵の間を軽やかに飛んでゆくTOMOOの旅路は、大作バラード“Cinderella”、静謐なピアノ弾き語り“Mellow”、ファンクな“夢はさめても”“HONEY BOY”を経て、アルバムで最も私小説的な佇まいを持った“窓”にたどり着く。《心が通うそれ以上の/嬉しいことなんてあるかな》という歌詞は、巧みな比喩表現のベールを脱ぎ、ふと漏らされる本音のようだ。フィナーレを飾る“夜明けの君へ”に刻まれた《ただ君がいて ただ僕がいて/ここにしかない 意味になってく/君と朝日を迎えにいくよ》という宣言は、心が通った先にある希望の光として、あまりにも美しく胸に響く。


恋愛ばかりに現を抜かしていられるほど平和でもないし、世情をそのままスケッチするとシニカルになり過ぎるこの時代において。他者との心の通わせ方について言葉を尽くし、熱すぎず冷たすぎない温度でそれを歌うTOMOOは、簡単に白黒つけられない私たちの日常をトワイライトで包み込んでくれる稀有なアーティストだと思う。(畑雄介)
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