力強く瑞々しいバンドサウンドに爽やかな切なさを感じさせるキャッチーなメロディ、西村大地(G・Vo)の柔らかなハイトーンボイス。一度聴けば耳に残り続ける求心力を持ったスリーピースだが、私が引っかかったのは歌詞の世界観だ。
彼らがこれまで配信リリースしたのは“会いたくなったら”“HERO”の2曲。このどちらにも、ソングライターである西村自身が色濃く投影されているのだ。
“会いたくなったら”では《いつか有名になって/武道館なんて埋めて/最前列の君が/涙流してこの歌聞くのさ》と、「君」への超個人的な思いが歌われる。
また1月10日にリリースされた最新曲“HERO”では《流行りは失恋ソング/また辛くなって 心は沈んでいく/誰かの背中 押せるような/曲が書きたくて》と、ソングライターとしての意志が描かれている。
さらに西村がXで歌詞のみアップしていた新曲(?)の“鳩ヶ谷”でも、《鳩ヶ谷駅前/ギターを背負って/歩いてく/いつもと変わらない/「バンドが売れてもそばに居て。」/なんてズルい言い方だな》など、地元である埼玉・鳩ヶ谷で実際に「君」とこんなやり取りをしたのかな、と想像させる具体的な風景が描写される。
ソングライターが自身の経験や考えを歌詞にするのは普通のことだし、「音楽活動をしている自分」を主人公に書かれた歌詞も特段珍しくはない。しかし、2曲とはいえ配信しているすべての曲で「ソングライター自身と君」というふたりの世界を描ききったバンドはあまり見ない。
いっそ清々しいほどだが、「共感できること」が重要なラブソングにおいて、駆け出したばかりのバンドがこのスタンスを貫くのは大丈夫なのか?と勝手に心配になっていた。
しかし“会いたくなったら”のスマッシュヒットや楽曲に寄せられた感想を見ていると、リスナーがフィシュリの歌を「自分事」として受け容れているのがわかる。
それはたぶん、彼らが等身大のまっすぐなバンドだからだ。
サウンドもメロディもMVや曲の構成も、ライブも、そしてもちろん歌詞も、背伸びをしていない等身大の彼らなのだ。嘘や装飾のないシンプルさやまっすぐさはそれそのものがまばゆくて、人の心を動かす。だから彼らの楽曲は胸を打つし、リスナーからも愛される存在になっているのだと思う。
Fish and Lipsは受験勉強のためライブ活動を停止していたが、この春からいよいよライブを再開させるそう。ここからさらにバンドの世界が広がっていって、それがどのような曲として昇華していくのか、今後のリリースを楽しみに待ちたい。(藤澤香菜)
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